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健康について

今回は、船木亨著『現代哲学への挑戦』に基づいて、健康について学びます。

船木氏は、健康について、次のように述べています。

医 師たちは、病院にくる病人たちに、病気との戦いのために、病人たちの生活スタイルや人生の目標 がどのようなものであろうと、医師の指示に従った生活をすることを要求します。

諸個人の生活の 多様性こそ本来は健康と呼ばれるものですが、それは病気が本来の姿で現れることを阻害する要因 ですから、これを控除すればするほど、理想的な治療が可能になるのです。

そして今日では、厚生権力は、公衆衛生学、 優生学、遺伝学、 大脳生理学等々の知見を取り込みつつ、適用範囲を拡げて、いまだ病気でないひとびとに「予防医学」の必要性を説きはじめました。

喫煙や肥満に対する禁止や警告のように、臨床医学と厚生行政は、食生活や運動習慣など、生活の 実質を構成する要素にまで指示を出し、予防接種や検疫、慢性疾患に対する生活指導、労働の場での事故や疾病の予防、環境破壊による健康障害、予防歯科的指導など、ひとびとの生活を変えさせ ようとします。

それを受けてメディアでは、栄養のあるおいしい食事、恋愛や結婚の幸福そうなイ メージばかりでなく、重大な病気の兆候と予防と治療法と体験談をたえず報道し、また薬品会社がさまざまな病気の不安をイメージ豊かに描きだして、効果の疑わしい薬の、脅迫めいた膨大な量の 宣伝がくり返されます。

大衆の側では、有機食品を探し、ダイエットし、サプリメントを摂取し、 脳トレをし、ウォーキングにいそしみます。健康であることは、ひとが人生において何か意味ある ことをするために必要な条件にすぎないのに、人生の目的が健康それ自体へと変更させられてし ま うのです。

臨床医学は、自己決定してみずから責任をとろうとする人格的意志よりも、統計的な人間生命の健康維持を優先し、そのためには個人の自由平等は制限されてしかるべきだと前提しているのです。

『現代哲学への挑戦』P194~P195

2019年末から始まったコロナ禍で、命や健康に関しては、厚生労働省の見解に振り回されてきたという思いがあります。

日本は諸外国ほどには、ロックダウンは厳しくはなかったですが、それでも、長い期間、大勢の人たちが家に閉じ込められ、会社員のばあいは、リモートワークを強いられていました。

これなどは、命や健康を媒介にしてみずから進んで隷属しようという意志があったように感じます。つまり、本来人間は、自由のはずなのだが、コロナ禍では感染してはならない、移してはならないというスローガンの元に、人々の行動をいいなりにするのは何らかの権力ということになる。

國分功一郎氏は、コロナ禍の騒ぎの中で、イタリヤの哲学者ジョルジュ・アガンベンが問題提起をしたことを紹介していました。

アガンベン は、 コロナ ウイルス の 拡大 を 防ぐ という 理由 で 実施 さ れ て いる 緊急措置 は、「 平常心 を 失っ た、 非合理 的でまったく根拠のないものである」(『私たちはどこにいるのか?ーーー政治としてのエピデミック』19ページ)と指摘し、イタリヤ学術会議という専門家集団の声明を引用しています。その声明によれば、「集中集中治療室 への 収容 を 必要 と する のは 患者 の 四% のみ という 計算 に なる」。

にも かかわら ず、「 激しい 移動 制限」 が 行わ れ、「 正真正銘 の 例外 状態」 が 引き起こさ れ て いる。 つまり、「 根拠 薄弱 な 緊急事態」 を 理由 に、 甚大 な 権利 制限 が 行わ れ て いる。 アガンベン は この よう に 現状 を 鋭く 批判 し まし た。

國分功一郎. 目的への抵抗―シリーズ哲学講話―(新潮新書) (pp.22-23). 新潮社. Kindle 版.

アガンベンが問題提起した当時は、2021年で、コロナ禍が蔓延して、医療機関は逼迫し、医療従事者の方々は大変な苦労をしていた時期でした。だからその状況をなんとか改善しようと、世界中で緊急措置が実施されていたという最中なだけに、大きな反発を招いていました。

ただ、アガンベンは、「緊急状態」や「例外状態」という概念について様々な角度から研究していたということです。権力は「緊急状態」や「例外状態」というものを巧妙に利用して、民主主義をないがしろにしたり、人々の権利を侵害していくことがある、と述べています。

そういえば、日本では、地震などの災害が起こるたびに、憲法改正で「緊急事態条項」を設ける必要があると騒ぎだす極右の政治家の方々がいますが、怪しくて危険ですね。

引用図書
船木亨『現代哲学への挑戦』
國分功一郎.著『目的への抵抗―シリーズ哲学講話』





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