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『華氏119』(2018/アメリカ)

『華氏911』はアメリカ同時多発テロ事件に対する当時のブッシュ政権に対する批判のドキュメンタリー映画です。ご存知かと思いますが監督のマイケル・ムーアですね。
9.11は同時多発テロの発生した日です。本作は逆の119です。これは何か分かりますか。2016.11.9はドナルド・トランプの大統領当選が確定して、勝利宣言をした日なんですね。
映画は2016年のアメリカ大統領選挙の様子から始まります。その頃はトランプが当選するなど誰も思っておらず、ヒラリー・クリントンが初の女性大統領になるんだという期待感に溢れている様子が映ります。開票が始まるとヒラリー票が集まり、開票状況を表示する合衆国の図が青くなっていきます。

順当な結果がくると思われていたのですが、徐々に異変が。。
だんだん赤くなっていき、やがて合衆国が赤く染まり、トランプ氏が表舞台に現れ、勝利宣言をする。「アメリカは死んだ」と泣き崩れる民主党支持者たち。
まるでスターウォーズ3のように世界が赤いシスに支配されるような演出でした。なのでこの映画は徹底したトランプ政権批判かと思ったのですが、そうではなかった。
トランプ政権を生んでしまったアメリカの持つ根深い問題についてメスをいれる映画なのです。

なので最初の冒頭でトランプ氏の言動について批判しますが、残りは前オバマ政権の批判もあります。面白かったのは、ミシガン州の水道水問題。映画によると当時のスナイダー知事は利益を優先するために、貧困層の住む地域に鉛を含んだ水道水を流し、健康被害が出ても安全だと言い張っていたというのです。ムーア氏も(多分)アポなしで知事に突撃して、水道水を飲んでみろ、とか、知事の家に水道水を散布したりします。

そうこうしてると事態を解決するためにミシガン州にオバマ大統領がやってくる、というので、住民は歓喜します。悪いやつをやっつけてくれる正義の味方がきたぞ、というふうに。
で、そのオバマ大統領が住民に向かってスピーチするんですけど、何をしたかといえば、喉が乾いたからといって水道水を飲むパフォーマンスをするんです。
でも、唇を濡らしただけで実は飲んでいない。ムーアのカメラは執拗にオバマ大統領の口元にフォーカスします。

そのあとはオバマ大統領は自分も昔鉛を摂取して大変だったみたいな話をして、積極的に鉛を含んだ水道水問題を解決する姿勢を見せなかったと。
オバマの民主党政権に対する不満は募っていく。2016年の民主党大統領候補は票数でいえば、バーニー・サンダースだったようです。

でも彼の政策は過激なので、民主党の重鎮たちがヒラリーにしたという事情があるそうです。ここで民主党支持者の心は離れていく。
民主党はわかりやすいマイノリティに手を差し伸べるが、貧困に喘ぐマジョリティには手を差し伸べない。

そこに差し伸べたのがドナルド・トランプであり、民主党が信用できなくなった事情も重なり、2016.11.9にトランプ政権が誕生してしまったのだと。
分断とよく言われますが、オバマ政権時代から分断というか大きな亀裂は生まれていたんですね。

なるべくしてトランプ政権が誕生したというふうに描かれてた映画だったので、トランプが悪いみたいなのはあまりなかったです。
来年のアメリカ大統領はどなたかまだ分かりませんが、この4年間で世界はどのように変わるのでしょうか。他所の国とはいえ、注目したいと思います。

(面白さ:★★★★★☆☆☆☆)


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