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アンカー脇のスペースをどう使う?:川崎フロンターレ対名古屋グランパス(5月4日)<1>

あの興奮から1週間経ってしまった。

しかもその間に見たラグビーのパナソニック対キヤノン、神戸製鋼対クボタ(テレビ観戦)も、余韻の残る素晴らしい試合だったので、1週間以上の時が経ってしまったような気もする。


4-1-2-3対4-1-2-3

 3-2でフロンターレが勝利したこの試合、まずはスタメン。

 この「セカンドレグ」ではグランパスはフォーメーションを変えてきて、フロンターレと同じ4-1-2-3。かみ合わせるとこんな感じになる。

 この日は俯瞰してみるために2階席を取ったのだが、キックオフ直前のフィールド写真を。キックオフする側のグランパスはサイドバックが高めのポジションを取っているが、お互いきれいな4-1-2-3のポジションを取っている。


アンカー脇のスペースをどう利用するか

 4-1-2-3の場合は、相手のアンカーをどう処理するかが問題になる。そこは非フィールド全体の横幅に対してアンカー1人しか立っていないから、両脇にどうしてもスペースができてしまうからだ。

 この試合のように両方とも4-1-2-3を取った場合には、お互いにそのスペースができてしまうことになる。

 試合中も、このアンカー脇のスペースを巡る駆け引きが繰り広げられた。

 例えばこの瞬間。フロンターレが浮き球でひだりのインサイドハーフポジションに入っている田中碧にロングパス。マーカーの長澤と競り合っている。この時。両方とも使いたいスペースが広がっており、この競り合いでどちらがボールを落とせるかで状況が大きく変わってくる。

 これはグランパスの最終ラインからのビルドアップ。フロンターレのアンカーのシミッチの脇にスペースが広がっているのがわかる。

 これはグランパスが攻め込んだとき。右サイドバックがボールを持って上がっている。シミッチ脇のハーフスペースが空いているのがわかる。

 これもグランパスが攻め込んだとき。ハーフスペースに進入してシミッチを引き出している。フロンターレはブロックを組んでおらず、シミッチの背後にスペースができている。そのスペースではマテウスが待っている(次の写真に続く)。

 これが次の瞬間。マテウスがボールを受けた。

 フロンターレも同じようにグランパスのアンカー米本の周りのスペースを使っている。

なお、フロンターレは、このスペースを放置しなかった。途中から、ユアボールの時は、ボールがない方のインサイドハーフ(右サイドにボールがあったら旗手が、左サイドにボールがあったら田中碧が)がシミッチの脇に下がり、ダブルボランチ気味で守るようになった。

スペースの使い方の違い

 なお、グランパスとフロンターレとではスペースの使い方が違っていた。

 グランパスはシミッチの脇のスペースにボールを入れたときは、もう一度サイドに展開する。それは、シミッチ脇のスペースにボールを置くことでサイドバックが中央に寄ってくることによる。例えば3分、6分、36分がそういう攻撃だ。

 一方フロンターレは、同じサイドに返すのではなく、そこから反対サイドに展開することが多かった。0分、6分、22分がそういう攻撃だ。

 1つの理由は、左サイドで三笘がドリブルで仕掛けると2、3人が寄ってくると言うことがある。

 そのため、アンカー周辺のスペースがより広くなる。そこに旗手が入り込んできて、旗手が逆サイドに展開すると言うケースが見られた。

 このような形でフィールドを広く使うことで、いくつものチャンスを作り出すことができた。

センターバックにプレッシャーをかけなかったグランパス

 この試合、グランパスの守り方で話題になったのが、フロンターレのセンターバックに圧力をかけなかったことだ。

 例えばこの写真。完全に2人をノーマークにしている。

 ただ他のプレイヤーには簡単にパスが出せないポジショニングを取っているから、センターバックがドリブルで持ち上がるケースが見られた。

 実際、そこからジェジエウがミスしたこともあるのだが(32分、45分)、私はこの守り方はあまり有効ではなかったと思っている。例えばこの写真のケース。谷口が9分に持ち上がった時だが、結局谷口の前にディフェンダーが集まってしまっているので、右サイドの家長の前にスペースができてしまっている。


 ジェジエウのケースもボールロストだけではない。例えば15分のケース。まず最初、ジェジエウがシミッチを追い越してボールを運ぶ。

 それに伴ってシミッチが最終ラインに落ちる。さすがにマーカーの稲垣は最終ラインまでは行かない。

 そうなると結局シミッチはフリーになるから、最終ラインにボールを戻す。このときシミッチは反対サイドの三笘にロングパスを通し、チャンスを作っている。

 実際、29分、先制点の起点となったコーナーキックは三笘がドリブルで勝ち取ったものだ。

 その三笘のドリブルは、ジェジエウが少し持ち上がり、シミッチに返してからのシミッチのロングパスが起点だ。

 だから結局、ジェジエウに持たせたと言っても、それが直接的な起点となって失点したことは間違いない。そう考えると、センターバックをノーマークにする守り方が成功したとは評価できない、私はそう思う。


ギャンブルの成功:グランパスの2点

 それと後半、3-0となってからのグランパスの猛攻。2点を取って3-2の1点差で試合が終わったわけだが、このグランパスの攻勢についても評価を考えておく必要があるだろう。

 つまり、「最初からグランパスが攻勢に出てきたらどうなったか?」という論点だ。この時間、交代投入された柿谷がゼロトップ的な位置に立ち、齋藤学が上手くスペースでボールを前進させ、2点をもぎ取った。

 しかし、私はこの点については、「3-0であとがなくなってギャンブルに出たのが成功しただけで、再現性はない」と考えている。

 なぜそう考えているのか。以下の写真を見ていただければわかると思う。



 この時間帯、グランパスは前線に4人張るかたちでの構成を強行した。4バックに対して前線4人という形。これならば前線における優位は獲得するのは難しくない。

 その代わり、上の二枚のいずれもが最終ラインが2バックになってしまっている。通常のフロンターレの攻撃、つまり左ウイング三笘、右ウイング家長だと、この両ウイングに自由にプレーさせるスペースを与えることになってしまう。 

 しかしこの段階で、3-0になったこともあり、フロンターレはダミアン、家長をまず替え、そのあとで三笘も替えた。三笘の交代は長谷川とではなく、脇坂と。長谷川であれば、2バックの左サイドの脅威となるが、脇坂は性格が異なる(実際には旗手がウイングに入るが)。

 このように、守備を重視する形の交代を行ったことで、フロンターレは全体が引き気味になり、前線4人の圧力をまともに受ける形になった。

 2点目のフリーキックの原因となったマテウスへの登里享平のファールも、限りなく怪しいもので、例えば家本政明主審であれば絶対に笛を吹かなかったであろうものだ。以上のような理由から、特殊な状況においてギャンブルが功を奏したものであって、再現性はないという結論に至っている。

 とはいえ、勝負事においては、ギャンブルに出ることが必要なときもあり、それが結果に結びつくことだってある。その意味で、グランパスは正しいタイミングでギャンブルを仕掛けたと言えるし、それがこの試合を面白いものにしたことは間違いない。

 次回は、ボール奪取マップからこの試合の分析をしてみよう。

(続く)


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