前半は後ろ寄り、後半は前寄り:川崎フロンターレ対北海道コンサドーレ札幌戦(5月16日)<1>
ここ何日か投稿を休んでしまった(笑)。一度途切れた分気が楽になったこともあって、これまで毎日投稿に当ててた時間を読書に充てたりもしている。
とはいえ、このリーグ戦が途切れた時期にちゃんと追いついておきたい。今日から何回かは5月16日の川崎フロンターレ対北海道コンサドーレ札幌戦のレビューを。
もう一ヶ月近く前の試合なので復習しておくと、最終スコアは2-0(前半0-0)。アグレッシブなマンマークを仕掛けるコンサドーレにフロンターレが真っ向デュエル勝負で迎え撃った、テンポの速い見ていて面白い試合だった。前半はフロンターレが苦戦したが、後半になって小塚に代わって田中碧が投入されると試合展開が一変し、三笘薫と小林悠のゴールで2点を取ってフロンターレが勝った。
アンカー脇のスペースを狙ったコンサドーレ
スタメンはこう。いつもの4-1-2-3のフロンターレと、3-4-3のコンサドーレ。
かみ合わせるとこんな感じ。
まあ、マンマークの時間が多いのでこの通りにマッチアップには必ずしもならないのだが、こうしてみると、アンカーであるシミッチの周りにコンサドーレが数的優位を作りやすいフォーメーションのかみ合わせであることがわかる。
実際、コンサドーレはシミッチの周りのスペースを有効に使って攻撃を仕掛けてきた。攻撃時、早く攻めるのではなく、最終ラインで丁寧にボールを回すことが多かった。
それに対していまのフロンターレは前線がプレスに行くことが多い。例えば1トップのダミアンとインサイドハーフ二人、つまり小塚と旗手がプレスに行った場合。
そうなると、当たり前だが小塚と旗手の背後にはスペースができる。その背後のスペースとは、シミッチ周辺のスペースだ。
コンサドーレには、こう言う形でプレスを引きつけてからシミッチ周辺に縦パスを入れる形があった。
もうひとつのパターン。これも最終ラインでのボール回し。
ただフロンターレが、インサイドハーフとダミアンではなく、両ウイングとダミアンとでプレスをかけに行く場合。
この時、小塚と旗手はシミッチ周辺のスペースをケアしているので、そこは使えない。
しかし、両ウイング、つまり家長と三笘がプレスをかけに来れば、今度はこの二人の背後のスペース、つまり背後が空く。そこで背後にボールを出して攻撃する、と言うパターンもあった。
このスペースのケアをやり過ぎると重心が後ろに下がってしまって攻撃がしにくくなる。やらないと縦パスを入れられて決定機を作られる。フロンターレにとって前半はこのスペースのマネジメントが上手くいかず、いい形での攻撃に結びつけることができなかった。
状況が変わるのは後半になって小塚が田中碧に変わってから。田中と旗手が上手く連携して中のレーンのスペースを管理できるようになったために、フロンターレが攻勢に出やすくなり、その一方でコンサドーレの攻め手はサイドに限定された。
前半後ろに寄ってしまったフロンターレの重心
この、重心の変化はボール奪取マップを見るとはっきりする。
まずはフロンターレのボール奪取マップ。試合を通してのもの。
これは相手ボールを奪取した位置と時間、プレイヤーを示したものだが、直接外に出たものは含めていない。クリアのようにアバウトに蹴り出したものも含まない。黒字は通常のボール奪取。青字はシュートにつながったもの。赤字はゴールにつながったもの。
合計ボール奪取数70。まあまあの数字。うち敵陣が24(34%)。
前後半に分けて見てみよう。
前半のボール奪取は36、後半が34。数の上ではほとんど同じだが、内容が違う。前半のボール奪取のうち、敵陣はわずか7個、シュートにつながったものも3個だ。
一方後半のボール奪取のうち、敵陣でのものは17個、シュートにつながったものが7個。それぞれ前半の2倍以上になる。前半は、スペースを突かれることで重心を下げざるを得なかったものが、後半になると前に重心を置くことができたことがよくわかる。
シミッチがボール奪取最多であることの意味とジェジエウの少なさ
次に個人ごとにボール奪取の数を見てみよう。
シミッチ:16(シュートにつながったもの3、ゴール1)
谷口:15(シュートにつながったもの1)
山根:10(シュートにつながったもの1)
旗手:6(シュートにつながったもの1)
小塚:5(シュートにつながったもの1)
田中:5(シュートにつながったもの1、ゴール1)
ジェジエウ:4
三笘:3(シュートにつながったもの1)
ダミアン:2
登里:1
家長:1
長谷川:1(シュートにつながったもの1)
車屋:1
これまでの試合でもシミッチのボール奪取は多い方だが、この試合では1位。それだけシミッチの脇のスペースが狙われていたと言うことでもあるだろう。
興味深いのはジェジエウの少なさ。一方、出場時間を分け合ったインサイドハーフの小塚と田中を合計すると10になり、3位相当になる。それだけ中盤の攻防が激しく、センターバックへの負担は逆に軽かったのか、と一瞬思ったが、そうではない。なぜならば谷口が15で全体の2位に当たるボール奪取を記録しているからだ。センターバックの片方にこれほど偏るというのはあまりない現象だ。
そこで、最終ラインの4人のボール奪取マップを見てみよう。
谷口の範囲の広さ(と山根の位置の高さ)が目立つ。ジェジエウも、ハーフライン付近でのボール奪取が3つあり、いつものように、攻め込んでいるときの後方のケアをきちんとこなしていたことがわかる。
この最終ラインのマップ全体をざっと見ると、ディフェンシブサードでのボール奪取は左サイドの方が多い。それが谷口のボール奪取の多さにつながっているわけだが、これは、フロンターレを押し込んでからのコンサドーレの攻撃がコンサドーレから見た右サイドに偏っていたことによると考えるべきだろう。ただ、コンサドーレの攻撃そのものが右サイドに偏っていたわけではない。
全体のマップを再掲してみよう。
ここから見るとわかるように、コンサドーレから見た左サイドでのボール奪取も普通にある。
ただそれはシミッチや山根によるものでジェジエウによるものではない。つまり、シミッチの脇のスペースを使うときは左サイド(コンサドーレから見た)を突くことが多く、シミッチを引き出しておいて右サイド(コンサドーレから見た)にサイドチェンジする、と言った形がコンサドーレの攻撃パターンであったと推測できる。
ここまでで2500字を超えたので今日はこれくらいにしておきたい。次回はコンサドーレ側のボール奪取マップを見てみよう。
(続く)