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三笘封じのディフェンスストラクチャー:川崎フロンターレ対鹿島アントラーズ戦(5月30日)<2>

 5月30日の川崎フロンターレ対鹿島アントラーズ戦のレビュー2回目。昨日はフォーメーションを確認し、アントラーズが前半は三笘へのパスコースを塞ぐことを重視していた可能性が高いことを指摘した。

 今日はまずボール奪取マップからその仮説を検討してみよう。

アントラーズ:前半と後半ではっきりと違うボール奪取の傾向

 普段はフロンターレのボール奪取マップから見るが、そういうわけで今日はアントラーズのボール奪取マップから。

 ボール奪取数合計71。さすがに多い。うち敵陣16(23%)、シュートにつながったもの5(7%)。

 興味深いのは、ボール奪取の場所に偏りが見られることだ。

 まず多いのが右サイド。もうひとつがハーフライン自陣側だ。

 さらに面白いのが、前半と後半とを分けたとき。

 まずは前半。合計31個。

 前半は、右サイド(=フロンターレの左サイド)に偏りが見られる。円で囲んだ範囲で16個。全体が31個だから約半分だ。

 一方後半。右サイドもあるが、圧倒的に多いのがハーフライン自陣寄り。

 全体で39個、図形のかたちでわずかに外れてしまっている2個を含めて22個と、こちらも半分以上だ。このように、前半と後半とではっきりと偏りが違うと言うことは、やはり守り方が変わったと考えるべきだろう。

三笘封じを重視したアントラーズのディフェンスストラクチャー

 そこで前半に戻る。マップを再掲する。

 この右サイドの位置、明らかに三笘薫のプレーエリアだ。詳細は明日見るが、三笘マップを上げておこう。

 180度回転させると、赤い円で囲んだ場所と三笘の主要なプレーエリアがほとんど重なることがわかる。

 ここから明らかになるのは、この日の前半、アントラーズは組織的に三笘を封じ込めようとしていたことだ。まず、三笘へのパスコースを塞ぐ。

 実際、立ち上がりの20分間で4回のインターセプトに成功している。さらに、三笘周辺のパスワークを阻止するために人数をかけて守る。三笘が個人技でぶち抜きに来た場合に備えて常本佳吾を当て、特にカットインをさせない守り方で外に誘導していく。

 単に常本に三笘を抑えさせると言うだけでなく、チーム全体のストラクチャーとして三笘を抑えるかたちを作っていたと言うことだ。

効果と代償

 三笘を抑えると言うことでいえばこれは成功したと言えるだろう。実際に数多くのボール奪取に成功しているし、決定的な仕事をさせなかった。

 ただその代わり、反対サイドの密度が低くなる。この試合の前半のフロンターレは右サイド(アントラーズの左サイド)で山根と家長の連携から何度もチャンスを作りだし、先制ゴールに至ったが、その背景として、アントラーズの守備がアントラーズの右サイドに偏っていたことが指摘できる。

 つまり、三笘を抑えた代償として、家長と山根に攻められたと言うことになる。そう考えれば、三笘の存在がもたらした先制ゴールと言うことができるだろう。

 逆に後半は右サイドでのボール奪取が減っている。つまりディフェンスを組み替え、三笘を集中的に守るのをやめ、全体として高いポジションを取ることを意識したのだろう。その結果、ハーフラインやや自陣よりでのボール奪取が増加したと考えられる。特に、フロンターレのインサイドハーフが前半より抑えられたことには、この「守り方の変化」が影響しているのだろう。

 これはある種のリスクを取った選択で、逆にカウンター的な状況から三笘にパスが入る状況が増えた。

 前半は三笘への長めのパスは入らないように守っていたから、そういうパスはほとんど入っていなかった。その結果2回ほど決定的なチャンスがあり、一度は町田がきれいに守ったが一度はファウルで止めた。

 後者はカードが出てもおかしくない守り方だったので、アントラーズとしてはかなりリスクを負った守備だったと言える。

 逆に言えば、このチャンスに三笘がゴールまで持ち込めていれば試合の流れは大きく変わっていたと言うことでもある。

フロンターレのボール奪取、80回

 次にフロンターレのボール奪取を見てみよう。まずは全体。合計ボール奪取数は80と、相当多い。アントラーズの71も多かったが、それよりも上を行った。うち敵陣で26個(33%)、シュートまでつながったものが10個(13%)。

 前後半に分けてみてみよう。

 前半は、アントラーズが(フロンターレ側の)左サイドの守備を重視したため、その周辺での奪取が多くなっている。いわゆる「即時奪回」が実行されていたと言うことだ。後半も、アントラーズの奪取位置と対応してハーフラインに沿った形になっている。

次にいつものように個人別のボール奪取数を見てみる。

 シミッチ:17
 山根:14
 ジェジエウ:11
 谷口:9
 旗手:8
 田中:6
 登里:5
 三笘:2
 家長:2
 ダミアン:2
 長谷川:1
 小林:1
 知念:1
 車屋:1

 今回は一番多いのがシミッチ、それに最終ラインが続く。旗手も多めだ。ポジションごとに見てみよう。

 まずは最終ラインの4人。

 普段よりやや後ろに偏っているような印象がある。特に両センターバックの敵陣でのボール奪取がほとんどない。これはアントラーズをそこまで押し込めてはいなかったと言うことだろう。

 次に中盤3人

 シミッチ、旗手、田中碧を中心とし、合計29回(終盤になって旗手が前線にポジションを変えてからの)ものだが、普段とはやや異なる傾向が見られる。

 普段は中盤3人のボール奪取は、自陣ペナルティエリア付近を含めて、全体のボール奪取のパターンとほぼ重なる。ところが、この試合の中盤3人のボール奪取は通常よりも高い。これは、アントラーズの攻撃がフロンターレのディフェンスを押し込んでからのものではなく、カウンターを中心としていたことを示唆している。

 最後に前線3人。

 少ないのはいつものことだが、必ずしも高い位置ではなく、深い位置でのボール奪取が散見されるのが興味深い。

 ただ、前線3人の役割はボール奪取そのものではなく、コースを切って中盤3人にボールを奪取させることだから、中盤3人が高い位置でボールを奪取できていることで、十分機能していたと評価すべきだろう。

両チームとも、ほとんどのシュートがボール奪取から

 最後に、ボール奪取からシュートに至るまでの手数を見てみる。

 まずはフロンターレから。
  0分:三笘から0本
  3分:シミッチから12本
  15分:山根から6本
  17分:シミッチから4本
  18分:家長から5本(ゴール)
  54分:山根から0本
  67分:ダミアンから4本
  67分:長谷川から6本
  73分:山根から3本
  93分:シミッチから4本(ゴール)

 合計で10本。スタッツ上のシュートが12本だからそのほとんどがボール奪取からのシュートだったことになる。三笘と山根が奪取してそのままシュートまで持って行ったのがそれぞれ1本ずつあるが、それ以外は6だいたい3-5本でシュートに持って行っている。

 次にアントラーズ。
  2分:3本
  38分:4本
  56分:2本
  58分:3本
  60分:4本(ゴール)

 合計で5本。うち3本がアントラーズが攻め込んだ時間に集中している。5本とは少ないが、そもそもスタッツ上のシュートが7本なので、やはりほとんどがボール奪取から。いずれもパスの本数も少ない。ゴールに向かう意識の高さはさすがアントラーズというところか。

まとめ

こうしてみると、アントラーズがフロンターレ対策を相当準備して臨んできたことがわかる。三笘を抑え込むためのディフェンスを徹底した。しかし、アンカーのシミッチやインサイドハーフの2人へのマークが不徹底だったため、フロンターレは左サイドにディフェンダーを集めてから右サイドに展開させることが容易だった。結果としての家長と山根を中心とした攻勢だ。後半にはアントラーズは守り方を変えた。結果としてインサイドハーフを前半より抑えられるようになり、アントラーズペースの時間もできて同点に追いついた。

しかしフロンターレが4-2-3-1にフォーメーションを変えたことでまた収まりが悪くなり、三笘に代わって左サイドに入った長谷川竜也に決定的なクロスをあげられてしまうことになる。

 そういった、非常にロジカルな展開をたどった試合だった。そして結果を決めたのは、知念がクロスに「触れなかった」ことと小林悠の決定力。見直してみても実に面白い試合だった。

 いつものようにレビューはもう一回。次は三笘に焦点を当てて見てみる。

(続く)


 


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