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クローズアップ三笘薫:対鹿島アントラーズ戦(5月30日)<3>

 5月30日、タイムアップ寸前の劇的な決勝ゴールで2-1で川崎フロンターレが勝利した鹿島アントラーズ戦。 

 アントラーズが三笘を封じるための準備を積み重ねてきたことがよくわかる試合だった。試合後のインタビューで相馬監督は「特に準備はしてこなかった」と発言しているが、それは三味線だろう。何も準備してなかったら三笘へのパスがあれだけインターセプトされることはないし、前半のボール奪取エリアがアントラーズから見て右サイドに偏ることもないはずだ。

外側に向けさせられた三笘のドリブル

 そこで最後に三笘薫のプレーを。

 まずは三笘マップを見てみよう。

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 極端にボールタッチの位置が高かったベガルタ戦に比べると低めだが、通常こんなものだ。

 これにドリブルの開始位置、終了位置を加えてみる。

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 全般的に見て長いドリブルが少ない。

 もうひとつの特徴は、カットインするドリブルがそれほどなかったことだ。

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 こうしてみるとカットインと言えるのは2本、ごく短いものを加えて3本。それ以外は矢印の向きが外を向いている。これは、三笘のマークを担ったアントラーズの常本佳吾が巧みに針路を抑えて突破を許さなかったことによる。

「ドリブルしかない」状況に追い込んでからの勝負

 次にこの日の三笘のプレー選択を見てみよう。

 敵陣でのボールタッチでのプレー選択をドリブル、パス、シュート、ボールタッチ時のボールロストに分けたものだ。

 ドリブル:17(63%)
 パス:9(33%)
 シュート:1(4%)
 ロスト:1(4%)

 合計ボールタッチ数は27。この試合は途中交代しているから90分換算すると38。これは少ない。

 興味深いのは、ドリブルの数が多いこと。3タッチすればドリブルにカウントしているのでスタッツ上の数字よりも多めに出る傾向があるが、ずっと同じ基準で数えているので意味はあるだろう。

 ドリブル:パス:シュートの比率の昨年の平均値が37:56:7。5月4日のグランパス戦が52:42:0、開幕戦のマリノス戦が33:60:7だから、このアントラーズ戦ではドリブルの比率が際立って高かったことになる。

 このあたりからも、この日のアントラーズが、右サイドで人数をかけ、適切なポジショニングをすることで、密度の高いディフェンスストラクチャーを構築し、三笘周辺のパスワークを抑えにかかったことがわかる。ある意味で言えば、パスの選択肢を削り取った上で、「ドリブルしかない」状況に三笘を追い込んで常本に抑えさせたと言うことが言える。

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登里とのパス交換を遮断したアントラーズ

 これは三笘へのパスの出所(敵陣のみ)を見るとさらにはっきりする。

  家長:8
  シミッチ:6
  登里:5
  旗手:4
  ダミアン:3
  スローイン:2
  田中:1
  谷口:1

 通常、三笘へのパスが一番多いのは左サイドバックの登里享平か旗手怜央だ。しかしこの日は登里からのパスがわずか5本と言う見たこともない数字になっている。

 その一方で、左サイドに移動してきた家長からのパスが8本と、これも見たことない数字になっている。谷口からのパスも少ない。

 このことからも、アントラーズが徹底して三笘周辺のパスワークを封じてきたことがわかる。アントラーズは、登里と三笘のパス交換がフロンターレの左サイドの攻撃の基盤にあることを認識した上で、その2人の間のパスコースと谷口からのパスを徹底して塞いだのである。そうでなければ、普段の傾向から大きく離れたこんな数字は出てこない。

 一方、アンカーのシミッチへのマークが緩かったことが、シミッチからのパスの多さに現れているし、家長のサイド移動と言うフォーメーションを崩したかたちには対応し切れていないこともうかがえる。

「組織」を整備した上での「個人」の力

 なお、昨シーズン、三笘を抑えたと言えるトイメンのサイドバックに、FC東京の中村帆高がいる。常本との共通点は、大学時代に三笘と対戦したことがあり、「初めての対戦」ではなかったことだ。

 三笘対中村帆高は、最初のルヴァンカップでは中村帆高が抑えるのに成功したものの、一ヶ月後のリーグ戦では、三笘の周りのショートパスを増やし、ディフェンスの態勢を一度崩してからドリブルを仕掛けることで三笘が優位に立った。

 今日示したいくつかの数字から、この試合のアントラーズは、「三笘薫対常本佳吾」と言う「個対個」の図式で勝負するのではなく、「三笘薫対鹿島アントラーズ全体の組織」というかたちで押さえ込みにかかったことがわかる。

 常本だけに任せるのではなく、組織として常本が生きる「かたち」を作ってから勝負させたと言うことだ。

 そうなると、10月の再戦では、昨年のFC東京のFC東京戦同様、フロンターレがどんな「かたち」を作れるかと言うことが問われることになる(そのときも三笘がいればだが)。

 一方、アントラーズは、三笘に決定的な仕事をさせなかった代わりに、右サイドを崩されて失点した。アントラーズ側には、「三笘を抑えながら右サイドにどう対応するか?」という宿題が与えられたと言うことになろうだろう。

 両チームに「個を生かすための組織の準備」が求められるカシマスタジアムでの第2ラウンド、また面白い試合になりそうだ。

(終わり)

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