見出し画像

間延びしたラインのリスク:川崎フロンターレ対アビスパ福岡戦(4月14日)

 レビューを書いていない試合がかなり溜まってきた。連休はあまり観戦予定がないのでこの間に少しずつ詰めていきたいと思う。今日は2週間経ってしまったが、4月14日の川崎フロンターレ対アビスパ福岡戦を。

4-1-2-3対4-4-2

 まずはスタメン。この日の攻撃陣は三笘薫、レアンドロ・ダミアン、家長昭博ではなく、長谷川竜也、知念慶、小林悠。アンカーはシミッチではなく田中碧。

スライド1

 アビスパは4-4-2による堅守が売り。かみ合わせるとこんな感じ。

スライド2

 こうしてみると、アンカーの田中碧を捕まえにくいのがわかる。田中碧を前線の2人が抑えに行くとセンターバックからのボールさばきが容易になる。

 実際、谷口彰悟はいつものことだが、この日はセンターバックに入った車屋紳太郎からのパス供給も頻繁に行われていた。

画像3


間延びしたアビスパのライン

 試合が始まってみると、アビスパの重心の低さが目立った(DAZNで解説していた柱谷氏は、「高くてコンパクトなライン」を強調していたが、決してそんなことはなかった。高いラインだったら、フロンターレはサガン戦のように裏を突こうとするはずだが、実際にこの試合で裏を使ったことはほとんどない)。

 ラインが下がった理由の1つは、アビスパが守備から入ろうとしたからだろう。もう一つは、左サイドの長谷川竜也と右サイドの小林悠の最終ラインとの駆け引きの中で、ラインを押し下げられてしまったということもある。

スライド3

 そして知念は、典型的なゼロトップポジションを取った。つまり、両サイドの長谷川、小林よりも少し下がる。特に小林が中に入ってくるため、センターバックは知念を追い切れない。

 最終ラインを押し下げた結果、ブロックの2ラインの間にスペースができるが、知念はそのスペースにしばしば入り込んだ。

画像4

画像5

 このスペースには当然遠野大弥と脇坂泰斗も入ってくるから、福岡としては対応に苦慮することになる。

画像10

画像11

 中盤のラインも下がってくると、今度はアンカーの田中碧へのプレッシャーが弱くなる。この試合のポゼッション率は61対39という相当フロンターレに偏った数字だが、そうなるのも当然というべき「ラインの間延び」だった。

 速報レビューでは、「正当な結果としての3-1」と書いたが、レビュー用にDAZNを再見しても考えは変わらない。

 サッカーメディアの中には、「どちらが勝ってもおかしくない試合だった」という見解もあるが、それには全く同意できない。「点差ほどの力の差はなかった」と評価することもあるが、この試合については全くそうは思えない。


放り込みとセカンドボール?

 そう考えるもう一つの理由が、アビスパの攻撃パターンがあまりにも単調だったことだ。この試合のアビスパの攻撃パターンは、重心を下げたラインでボールを奪ってからロングカウンターなりポゼッションによるビルドアップ、ということではない。

 奪ったらすぐ前線のフアンマなどにロングボール。競らせてセカンドボールの回収を試みる、という「いつの時代のサッカーをやっているのだろう??」というものだったからだ。これはこれで意図はあったのだろうけれど。

画像12

画像13

フロンターレのボール奪取回数、なんと91回

 これはボール奪取マップを見れば明らかになる。

 まずはフロンターレ。水色はシュートに繋がったもの。赤色はゴールになったもの。

スライド5

 いつもより混み合って見える。それもそのはず、合計ボール奪取91回で、数え始めてから最も多い。うち敵陣でのボール奪取は31。

 ボール奪取が多い場所が3つほどある。1つはアタッキングサード周辺。これはまさにハイプレスによるボール奪取。1つは自陣ディフェンシブサードに入るあたりの右側。そして最も混み合っているのがセンターラインから少し自陣に入った場所。

 まさにこのあたりめがけてアビスパがロングボールを蹴ってきて、それを跳ね返して回収、という展開が多かったので、このあたりでのボール奪取が多くなっている。

個人別に見てみよう。

 田中:24
 谷口:17
 山根:12
 脇坂:8
 遠野:5
 車屋:6
 小林:4
 ジェジエウ:4
 登里:3
 塚川:3
 知念:2
 家長:2
 三笘:1
 長谷川:1

 田中碧がやはりこれも最多の24。それに谷口が続く。これはロングボールの処理が多かったからだ。

なお、田中碧はありとあらゆる場所でボールを奪取している。

画像14

スライド7


アビスパもボール奪取は多いが・・・・

 昨日書いたように、ヨーロッパサッカーとの違いを比較するためもあり、この試合から対戦相手のボール奪取マップも作って見ることにした。

 実はアビスパのボール奪取も多い。85回になる。これはロングボールのセカンドボールの競り合いでボールが収まったものも含まれている。

 ただし、敵陣でのボール奪取は25回にとどまる。それも多くはロングボールのセカンドボールの競り合いからの奪取だから、ラインを高く保ってプレッシングでボールを奪ったわけではない。

スライド9

ボール奪取からシュートにつなげられるかが大きな違い

 この両者のボール奪取マップを比較して明白なのが、ボール奪取からシュートに至った数の違いだ。

 アビスパは敵陣で25回ボール奪取しているにもかかわらずシュートに至ったのはわずかに1回。フロンターレは実に12回に達する。

 アビスパの場合、ロングボールを放り込んでセカンドボールを得ても、その間にディフェンスの陣形ができあがっているので、シュートまで持ち込めていないということだろう。これはトランジションの速度が違うということでもある。この、ボール奪取からシュートに持ち込めるかどうかというところが、フロンターレとアビスパの大きな違いということができる。

 最後に、フロンターレのボール奪取からシュートに至るまでの手数を見てみる。

 12分:脇坂から2本
 17分:知念から3本
 19分:遠野が直接シュート(得点)
 35分:田中碧から2本
 47分:田中碧から4本
 48分:田中碧から4本
 54分:谷口から7本(得点)
 64分:田中碧が直接シュート
 85分:谷口から2本
 87分:田中碧から1本(三笘のロングドリブル含む)
 91分:脇坂から2本(三笘のロングドリブル含む)
 93分:塚川から4本(得点)

 91分の自陣奥深くでのボール奪取を含め、この試合はショートパスをつないで攻めきったシュートがない。ほとんどすべてが5本以下でシュートに持ち込んでいる。

 これは、サイドチェンジを行ってレーンを変えてブロックを崩していくのではなく、トランジションのタイミングでゴールに素早く向かってボールを運んでいったからだ。なぜそれができたかというと、率直に言ってアビスパのトランジションが遅かったからだろう。

 確かに、アビスパもボールを得た回数は多かった。しかし、それをシュートにつなげることができなかった。こうしてみると、「どちらに勝負が転ぶかわからなかった試合」とは決して言えないと思うのだ。

(終わり)

この記事が参加している募集

スポーツ観戦記