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【読書感想】しょっぱいドライブ

おはようございます。
今日は、ふるさと福岡で開催される芥川賞作家、大道珠貴先生のトークイベントに参加するため、帰省します!

そして、大道先生が芥川賞を受賞された時の作品『しょっぱいドライブ』を読みましたので、その感想をば。

あらすじ

海沿いにある小さな町を舞台に、34歳の実穂と60代前半の男性九十九さんの微妙な恋愛関係を、語り手である実穂の視点から描く。実穂は家族ともども、長年にわたって九十九さんの人の良さにつけ込み多大な世話を受けてきた。父が亡くなり実家で暮らす兄とも疎遠になる中で、実穂は隣町でアルバイトをしながら独りで生活する日々を送っていた。実穂は地方劇団の主宰者の遊さんと関係をもつが、気持ちは次第に九十九さんに傾いていく。

アマゾンより

まともとは何か。

34歳の女性が60代前半の男性と恋愛関係や肉体関係を持つ。しかも子どもの頃から知っている男性と。
一見、ドロドロした人間関係を描く作品のように思います。現に、この作品に出てくる人間はまともではありません(お前が言うな)

主人公の実穂の家族は平気で人の好い九十九さんにたかる。実穂が夢中になる地方劇団の主宰者である遊さんは、女性を玩具のように扱う。実穂は比較的、まともな価値観を持っていそうだが、世間的には「お前何してんねん」という生き方をしている。

ただ、「まともな価値観」とは何なんでしょう。いい高校、いい大学を出て、会社員として働いて、結婚をして人生を送ることでしょうか。
もちろん、その生き方は素晴らしいです。でも、そんな人生だけが正解とは思えない。

この作品に出てくる九十九さんはとても真面目に生きている。しかし、その真面目さは周囲の人間からすると異質で奇怪に見える。そもそも九十九さんは妻子持ち。だが、家庭内に自分の居場所はなく、半ば妻の不倫を公認しているような生活を送っている。そんな九十九さんと関係を持ってしまう実穂だってまともじゃない。

実穂が夢中になっていた、地方劇団主宰の遊さん。この人の描写ね、役者として活動していた自分からするとリアルすぎるんです。
世の中には数多くの劇団がある。その多くは、主宰が築き上げた自分の王国。大した実績がなくても「団長、団長」と周囲から持て囃されます。子どもがそのまま成長したかのような遊さんは女性が放っておかない。そして、こんな人物が主宰の舞台にしか出演できない、自分という役者の実力や状況に嫌悪してしまいます。

文字通り「しょっぱい」作品

話がズレました。
とどのつまり、この作品は人間が誰しも持つ「わかっているけど、どうしようもない」という側面をこれでもかという程、味わえます。
作品のリズムとが昼ドラのようにドロドロして胃もたれしない。かと言って爽快で最後は全員ハッピーという喉越しの良いものでもない。
この作品を表現するには、タイトル通り「しょっぱい」がこのうえなく合っている。

大道先生が、この作品を執筆するに思い当たった経緯などを今日のトークイベントで質問することができたらいいな。

人生はしょっぱいこともあるけど、甘いことも満腹になるときもある。
無味乾燥な日々もかけがえのない時間。
とりあえず今日も生きていきましょう。佐野太基でした。


私が脚本を務める、新ニッポンヒストリーをどうぞよろしくお願いいたします。

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