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地中海北縁を巡る旅と生活 その6

第1章<地中海への道程と旅の絵図>その6=風の絵図を探してその先に

 風と言えば、ダカールではサハラ砂漠から吹いてくる乾燥した<ハルマッタン>を体験、バルカン半島では冷たい風<ボラ>を感じ、南仏ではローヌ川を吹き降ろす風<ミストラル>の中で生活をした。心の風の赴くままに英知を求めていたが、斜めに構えて行き場を失い、精神は彷徨い続けるだけだった。
 
 この年は地中海に青い空をもたらす北西の強い風の「ミストラル」が、あまり吹き出さないと思っていたら、春の終わりはアフリカからの風「シロッコ」が跋扈していた。日本旅から帰着後、薄く立ち込める白い雲がずっと南仏を覆っている。サハラ砂漠から地中海を渡って吹いてくる暖かい風で、砂塵を伴うため「黄砂」の様に空に漂っている。少しでも雨がぱらつくと、洗車したのに砂が窓ガラスに吹き降り、フロントガラスの視界を遮っている。
 
 ちなみに、地中海地域には4つの風がある。一つは春先に地中海からイタリア南部に向けて吹く高温多湿な風「シロッコ」、南仏を地中海に向けて吹く冷たい風「ミストラル」、イタリア側からアルプス山脈を越えてヨーロッパに吹く暖かい風「フェーン」、4つ目は東ヨーロッパ側からディナルアルプス山脈をこえてアドリア海に吹く冷たい風「ボラ」、これもボスニアに住んでいた時悩まされた思い出がある
 そう言えば、西アフリカ一帯ではサハラ砂漠を超えて「ハルマッタン(Harmattan)」が吹く。セネガル、ダカールに滞在した時、砂漠の砂を巻き上げて吹くこの風に悩まされた。木々はもちろん、家の中にまで細かい砂が積もる。外に出れば、髪の毛や足の指の間なども茶色くなり、喉の痛みを感じる。
 
 何年か前にある方に<風英堂比古神(かぜすぐるたかどのひこのかみ)>と名付けられた。聳え立つ御殿の中を通り抜ける風のように、人々に大らかな英知を運ぶ神らしい。50歳の時「ああ、半世紀生きてきた」と思い、60歳では「後10年、どう生きようか」と考え、そして2021年文月、「何と70歳まで生きてきた」と感慨に耽った。

 2024年になっても、その先を生きる「絵図を描きたい」と思い、暗中模索の日々は続く。伊能忠敬は日本全図の完成に向けて指揮をとったが、全国測量は隠居後の55歳から始まり71歳まで続けた。だが、完成を見ることなく73歳でその生涯を閉じた。
 我が身はいつ死んでも良いと思うが、今はまだ死にたくない。我が人生の絵図は精巧でなくて良いが、「爽快な風の吹くが如く」を描きだせたらと願っている。

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