アメリカで同僚が転職した時の話

シリコンバレーに住んでいた時、同僚のエンジニアが辞めてしまった時の話を書いてみます。登場人物は自分とそのエンジニア(主に"彼"と書いておきます)。

経緯

 もともと彼はカリフォルニアではなく別の州に住んでいたんですが、社内事情や家庭の状況などもあり、カリフォルニアに移住してくることになりました。もちろん引越し費用は会社持ち。住むところも紆余曲折はありましたが無事決まり、まあここまでは良かったわけです。

 彼のエンジニアとしてのスキルですが、C/C++はかなりできるソフトエンジニアというところ。自分は製造業で働いているので接するソフトエンジニアの数は限定的なのですが、自分が今まで会ったエンジニアの中では一番C++ができるイメージです。また、基本地頭が良くて説明とかもとてもうまかったです。大学は結局行っていないので最終学歴は高校卒業なのですが、コンピュータサイエンス関連の知識は結構豊富でした。周りはセールスやマーケティング関連の人だらけの中、自分はエンジニアとしてアメリカに来ており、数少ない現地のエンジニアだった彼とはとても仲が良かったです(社内では一番仲良かったと言える)。

引越し後

 引っ越しまでは良かったわけですが、その後が問題でした。カリフォルニアの家賃はこれまで住んでいた州の3倍近くだったのですが、結局給料はそんなに上がらないということで、生活がかなり厳しくなっていったようです。もちろん日本基準で考えると全然悪くない給料ですが、残念ながらカリフォルニアの物価(特に家賃)は別次元です。自分が住んでいたアパートも40万円/month 超えの物件でしたけどシリコンバレーでは普通のレートでしたから。また、詳しくは書きませんがそれ以外の家庭の事情や仕事内容の問題もあり、本人にはかなりストレスが溜まっていたようです。

転職の相談

 自分は彼と仲が良かったので、転職の話については早いうちから相談してくれていたと思います。彼は優秀なエンジニアだったので、学歴の問題は多少あるとはいえ、問題なく転職できてしまうだろうと思っていました。ただ、残された自分としては問題です。彼がいなくなると同じグループ内にアメリカ人がいなくなるので、普段英語を喋る機会が激減するし、何より彼は優秀なのでソフトウェアプログラミングについて色々学ぶ機会が減ります。自分としては転職して欲しくない気持ちがかなり強かったですが、経済的な状況、仕事内容の状況などを聞いていると、彼のためにも転職については肯定的に考えざるを得ないと感じていきました。

転職活動

 さすが転職が当たり前のアメリカというか、その後の動きは早かったです。単にWebで募集しているOpen Positionに応募したのか、いろんなコネクションを使ってなのかは聞いていませんが、毎日のようにいろんなところを探してCVを送ったみたいです。有名どころだとAmazonも受けたみたいです。この辺はあまり詳しく書きませんが、最終的には世界的に有名な某ゲームエンジンを開発している某U社に内定が決まったようです。

日本にはない”Reference”というシステム

 無事転職先が決まりましたが素直には喜べない自分がいました。本人は当然喜んでいるわけで、会って話したときは喜びながらおめでとうと伝えましたが、内心複雑な心境でした。そんな思いも束の間、その彼から「リファレンスが新しい会社の人事(HR)から来るから回答してくれる?」という連絡が来ました。アメリカでは当たり前のシステムなようですが、自分は当然しらないので、「リファレンスって何のこと?」と聞いて色々と教えてもらいました。要は、”前の会社で勤務態度が正しいものだったか、トラブルを起こしたりしていなかったか確認する”というものです。その時、は同僚から一人、上司から一人の合計2人からのリファレンスということでした。おそらくこれが一般的な形だと思います。断るわけにも行かず、また実際どんなやり取りになるのか興味深かったので、とりあえずはOKして、後日彼の言う通りHRからメールが届きました。内容は以下のような感じ(意訳入ってます)。

某U社のHRです。Applicantの件について以下の質問に答えてもらえますか?

1. 彼のスキルと御社での仕事内容について教えて下さい。

2. 彼はあなたの上司ですか?

3. 他の同僚と比べて彼をどのレベルにランク付けしますか?(エンジニアのレベルとして)

4. 彼の強みを教えて下さい。

5. 彼はどのように物事を改善していくスキルを持っていましたか?

6. チームメンバーとして見た彼をどのように評価しますか?(協調性など)

7. 彼が弊社で新しいポジションに加わった時、そのマネージャーに対して何かアドバイスはありますか?(どのように彼をマネージメントしていけばうまくいくか)

8. 上記以外で彼について伝えておくべきTipsがあれば教えて下さい。

9. もし彼が御社に再び来たら再雇用したいですか?

という、まあアメリカらしいド直球な質問が多かった気がします。カリフォルニアだからですかね。他の州だったらもう少し別の聞き方をしていたかもしれないし、もちろん担当のHRがどのような人かによると思いますが。結局彼はそのまま転職してしまいました。その後半年後くらいに、サンフランシスコに仕事で行った際に彼のオフィスに行かせてもらいました。給与は今までの1.5倍程度、オフィスにはフリーランチ、フリービール、卓球台やビリヤードなどがあり福利個性は非常に良さそうで、彼の表情も以前よりも余裕がありそうでした。ただサンフランシスコで余裕を持って暮らしていくにはその給料ではまだ足りないということでしたが・・・。アメリカ恐るべしですね。

まとめ

 同僚の転職は非常に残念でしたが、Referenceというアメリカのシステムを一部知ることができたこと、またその彼からも転職事情について色々知ることが出来たことは非常に興味深かったです。特に、

1. アメリカの企業によっては、EmployeeがPublicなリポジトリ(Githubなど)にコードをPushすること自体を禁止しているところもある。

2. 上記リファレンスのこともあり、前職での勤務態度に問題があると、転職は結構難しい。Layoffならばいいが、勤務態度が悪くて解雇された場合、大抵Referenceで良いコメントをもらえないため。

あたりです。ちなみにReferenceは同僚一人、上司一人の合計2人から回答をもらうことが一般的とのことでした。

アメリカン・ドリームが現在も存在することは確かで、小さなスタートアップ企業が一気にビジネスチャンスを掴んで大きくなるケースもたくさんあると思います。一方で物価、家賃、医療費などが高いアメリカで余裕を持って生活することはなかなか大変であるということを身にしみて感じる機会でした。


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