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ロンドン大学 演劇学部 1年生1学期

9月から始まった大学生活の1年目1学期が終わりました。

自分の為にも、毎学期、どんな事をやったのか書き残していきたいと思っていて、折角なら興味を持って下さる方にも見て欲しかったのでnoteに纏めました。不思議な3ヶ月間だったな〜。
印象深い出来事は沢山あったけど、なんといっても教材の面白さ。全部オシャレでしたし、ゴリゴリの無修正AVみたいな作品とか、私にグロ耐性をくださいって作品が普通に出てくるのが刺激的だった。優勝は「頭に生ダコを被った坊主の女性が全裸になって、ガッ!と足を開いたら女性器から目玉が覗いていて、え?どういう事?と思う間もなく、その目玉を引っこ抜いて食べ始める。」っていう初期の松尾スズキさんのコントみたいな作品です。ゲラゲラ笑ってたらメチャメチャひかれました。
それから、各国の留学生たちと話してて、どこの国でも、別に大きな規模ではなかったけど、学校で演劇の授業があったって聞きました。時間割の中に演劇の授業が入ってる学校って、日本にどんくらいあるんですかね。音楽と美術の授業は、どこの学校でもあるのになあ。

今学期の必修授業

必修は、演技の授業「演技の一体感について」と、作劇系の「語彙分析」と、演出系の「ドラマターグ入門」の3つです。これに、自由選択の授業とかワークショップとかがあります。第9週目までしかないのは、最初の何週間か、選択授業だけだったからです。ブロードウェイ作品の「スリープ・ノーモア」で話題になったイギリスの人気劇団「パンチドランク」は、どの講師も口を揃えて「時代を作ってる」って言ってました。観た事ないから、チャンスがあったら観たいなあ。おしゃれ。舞台写真とは思えない。

ホームページのURL貼っておきます。英語版しかなかったですけど、携帯だと右上の隅にある横線3本のメニューを押して、「WORK」→「ALL PROJECTS」とクリックしていくと過去公演のページにいけて、それぞれのページの下の方で舞台写真が見られます。

演技「演技の一体感について」

2時間半のワークショップと1時間の座学。今期は、オンラインのワークショップがほとんどでしたが、個人的には不自由なく楽しめました。演技のワークショップは殆ど受けた事がなかったし、ヨーロッパの演劇人のことを全く知らなかったから面白かった。下の映像は、この授業で観た『Five Truths(5つの真実)』っていう、英国ナショナル・シアターが制作した映像作品シリーズで、「ハムレット」のオフィーリアを題材に、スタニフラフスキー 、ピーター・ブルック、ブレヒト、グロトウスキー、アントニン・アルトーの5人が監督したら?って内容。大学の教材として使えるクオリティーの作品を、国立劇場が無料でYouTubeにアップしてるって、羨ましい限り。字幕なしでも楽しめます。

第1週目『一体感の生み出し方』
ピーター・ブルックのメソッドを体験しながら、演技の一体感について考える。ひたすら30分くらい、全員で呼吸の音を合わせるってワークショップが印象的だった。座学は、自己紹介と今期の説明。

第2週目『身体に入り込む』
泥とハチミツになった週。この他に、写真か絵を選んで、その中の人物と同じポーズを取る。その後、何枚か選んで、その前後の動きを作って、ポーズを繋げていく。座学は、ジャック・コポーとジャック・ルコック。二人とも知らなかった。

第3週目『空間の使い方』
24方向(前後左右、斜め前後左右、それぞれ上中下)を意識して、色んな形で体を動かす。ルールは、なるべく同じ形を繰り返さない。時間が経つにつれて、人生で一度もやったことが無い動きになっていくから面白い。座学は、マイケル・チェーホフ。知らなかった。

第4週目『リズムのある身体』
全員、スタジオに均一に広がって歩き回る。日本でもよくやるアレです。
誰かリーダーを決めて、その人のスピードと動きに合わせる。リーダーを変えていく。最終的に、リーダーを決めずに、全体のスピードと動きを合わせる。座学は、フレディー・ヘンドリックって最近の演出家さん。貧困層の黒人に対して、演劇を使った教育をしてる。

第5週目『流れる動き』
自分の動きを、8種類(漂う/滑る/絞る/弾く/切る/叩く/押す/殴る)に分類する。任意に提示された動き(今回は押す、引く、揺れる、聞く、座る、飛ぶ、捻る)を起点にして、この順番で動きの流れを作る。座学は、ルドルフ・ラバンとイェージ・グロトウスキー。知らない人ばっかり。

第6週目『外部講師』
3人の外部講師の中から1人好きな講師を選ぶ。ロンドンの劇場の芸術監督をやってる方と、いろんな演技学校の講師の方と、クラウンパフォーマー(ピエロのやつ)の方です。僕は、演技講師の方の講座を選びました。イギリスの俳優養成所で、どんな事やってるかって話とか、現場でトラブルが起きた時にどう対処するかべきか、とか。

第7週目『演技の動物性について / 応用演劇』
この回は、面白かった。実技は、動物の動きを出来る限り正確に真似る。骨格、呼吸、目線が大切。その動物の動きから、徐々に人間の動きに近付けていく。聞いた事あったメソッドだけど、ちゃんとやってみると面白かった。
座学は、「フォーラム・シアター」という応用演劇の手法。まず、役者が「問題がある人たち」のドラマを演じる。その後すぐに、観客がその場で、その問題の解決策を提案する。それを基に、さっきの役者が、その解決策を即興で演じる。この工程を繰り返すことで、自分の考えが思わぬ方向に進んでいく様子を直接観る。演劇と日常の接地点というか。学校、会社はもちろん、刑務所とかでもやるみたい。自分の団体でも、こういう公演いつかやりたい。

第8週目『ジェスチャーで伝える』
好きなテキストを用意する。新聞記事でも小説の一節でも何でもいい。そのテキストから着想して、今までの授業でやったことを基にジェスチャーを作る。その後、ペアになって、相手の動きを真似する。座学は、ピナ・バウシュ。ようやく知ってる人だけど、名前だけしか知らない。

第9週目『舞台に根差す / 臨場感って何?』
鈴木忠志さんのメソッドを体験した日。全科目を通して、唯一の日本人でした。知ったつもりになってただけで全然知らなかった。お恥ずかしい。呼吸と重心が大切。能の歩き方を参考に、実際に歩いてみる。床に根を張るイメージで立つ。座学は、京劇について。


作劇「語彙分析」

演劇論を基点に、幅広い知識に触れる。この教授が、何なら知らないの?ってくらい本当に何でも知ってたし、まず話すのが上手だった。毎学期、講師が変わるんですけど、対面の授業はたった2回だけ。もっと聞きたかった。

第1週目『視点』
色々な視点から物事を見ることについて。一方から偏った見方をしない事。

第2週目『記号論』
人は、何から意味を受け取るのか?例えば、なぜ人は「赤信号」を見て「止まれ」と思うのか。演劇に置き換えると、観客が役者の「涙」を見て、何を根拠に「悲しんでいる」と思うのか、あるいは「喜んでいる」と思うのか。その差は、どこから生まれるのか。

第3週目『マルクス主義』
社会学的な観点から芸術を考える。個人的には「うん、まあ分かるけど。別に、みんな好きにすれば?」って感想。「お金になれば何をやってもいい。」って考えが全てじゃないって話をしたかったのかな。

第4週目『男の視線』
アカデミー賞92年の歴史の中で、監督賞を受賞した女性監督はキャサリン・ビグロー(2009年『ハート・ロッカー』)だけ。芸術表現は、男性優位に作られてきた歴史があり、未だにそうである。また、作品内での女性の「性」の消費について。

第5週目「現象学」
例えば、今、手に持っているスマホやパソコンは、本当に存在するのでしょうか。は?するやろ、アホなん?と思うでしょうが、手に触れて、目に見えている物の存在を信じていいのでしょうか?という哲学。舞台に置き換えると、ドラマの中の現象や感情が本当に存在していると、どうしたら観客に信じさせる事ができるか。日本で公演した時に「クラブのイベント」って揶揄されてた『フエルサブルータ(アルゼンチン)』の作品が教材として使われてた。

第6週目『人種』
黒人アーティストの作品を基に、芸術における人種差別の歴史と現在を考える。例えば、シェイクスピア作品の主要キャラクターを、白人以外が演じる意味

第7週目『LGBTQIA+』
セクシャルマイノリティが表現をする事と、セクシャルマイノリティの表現をする事。ドラァグ文化の歴史など。

第8週目『病』
一番面白かった。ポストコロナの時代に、必ず重要になる。遺伝子の疾患で、5歳と30歳の時に余命宣告を受けた、現在33歳のアーティスト(マーティン・オブライエン)が、30歳の時にやった、霊安室でのパフォーマンスを取り上げる。例えば、障害のある役者が健康な人を演じるか、健康な役者が障害のある役を演じるかで、意味がずいぶん違うよねって話とか。

第9週『フェミニズム』
フェミニズムの歴史と現在を考える。女性アーティストの作品をいくつかを取り上げて、第4週目にやった『男の視線』と対比させながら解説。「フェミニストって面倒だよね」って言う人、無視できない数いるよねって話とか。日本でも聞くような話が出てきたのは興味深かったけど、同じような話があるのに、この差は何?


演出「ドラマターグ入門」

上にあげた2つのちょうど中間くらいの授業。座学と実践が半々。英語読みは「ドラマターグ」らしいんで、ドラマターグで統一してます。この授業が一番難しかった。流行ネタとか、あるあるネタが全く分からなくてついていけない。

第1週目『ドラマターグ入門』
アドバイザー?ってイメージしか無かったから、興味深かった。演出家は目に見える部分に責任があって、ドラマターグは目に見えない部分に責任があるって感じ。ドラマに奥行きを出す仕事とも言える。ヨーロッパは創作に関するシステムが発達していて、日本みたいに何でもかんでも兼業しない。

第2週目『現代のフェミニズム』
ここでもフェミニズム。女性演出家の作品をいくつか取り上げる。スタッフと出演者が、全員女性の公演を作るとしたら、どんな形が考えられるか案を出す。

第3週目『三人姉妹を徹底解説』
モスクワ芸術座って本当に凄かったんだろうなー。三人姉妹を解説された後に、では、どのようにして古典から飛躍できるだろうか、という話。新しい表現に寛容なヨーロッパの源泉に触れた気分。

第4週目『劇場以外での公演』
劇場以外の場所で、どういう公演ができるのか、グループになってアイディアを出す。場所から物語の内容から、何から何まで具体的に考えて楽しかった。映像は「ワイルドワークス(WILD WORKS)」って、野外劇をやる劇団の紹介映像。映像の中の写真が好き。

第5週目『ポストドラマ演劇の未来』
「ポストドラマ演劇は、ドラマ演劇の否定だ」と言われる事があるけど、そうじゃないよって話。ということで、改めて「三人姉妹」を題材に、古典戯曲をポストドラマ演劇にするとしたら、どういう方法があるか考える。

第6週目『クィアパフォーマンス』
「クィア」って、最近になって日本でも聞く事が増えてきましたね。「男らしさ」と「女らしさ」をどう出すのか、体の使い方とか話し方で実践してみて、そのあと、「クィアらしさ」をどうやって出すか実践してみる。

第7週目『ブラックフェミニズム』
またしても、フェミニズム。今回は、黒人女性にフォーカスした内容。この授業では、2コマもフェミニズムに使っていたのが印象的。内容は「ブラックフェミニズム作品の理想的な観客は誰か?」という話。誰に向けて作品を作るか。考えさせられた。影響を与えるべきは、黒人女性を差別している層だけど、その人たちに、ストレートに物語を届けて伝わるか?

第8週目『今期の課題について』
課題は、7分間のプレゼンテーションを録画するって事なんですけど、自由度が高いのでどんな事までやっていいかって説明と、アイディ出し。僕は、いつか自分の団体で、劇場の外で公演をやりたいと思ってるので、その公演のアイディアを提出する事にしてます。

まとめ

こんな感じでした!来期は、どんな感じになるのか楽しみです。イギリスでは、今週からワクチンの接種が始まったので、少しは状況が変わって欲しいと思ってます。

最後に、2つだけお知らせです!来年9月に上演予定の公演の出演者募集オーディションが1/9、10にあります!応募締切は、1/4です!スタッフとして関わって頂ける方も募集中です。沢山のご応募お待ちしてます!

それから、新宿公社で初めて制作した映像作品「りっぱなおとな」は、こちらからご購入頂けます!真夏に撮影した作品。冬に夏の話を観るっていうのもいいですねえ。

さよなら!

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