あとがきのようなもの。

ぼんやりとしたことを、書いています。


 
11月11日12時02分。

こういう曖昧で抽象的なことは、少し経ってから読み返しても、多分、半分くらいしか意味が読み取れないのですけれど、詳しく書くと消えてしまう感じがするので、独り言みたいに書いていきます。
色を作って絵を描くと、今ある気持ちがふうっと溶けて消えてしまう気がしたので、よくわからないまま掬い取って文字に残します。

言葉は割と頭に浮んだそのままです。
だから尚更、意味が読み取りにくいと思います。

頭なのか胸なのかどこかに、形がなくて、目にも見えなくて、触れられないけれど、少し質量のあるなにかが在ります。

しばらく長い間、ひとつ、物語を作っていました。形がようやく出来あがって、閉じることができました。
閉じたてほやほやなので、もしも手で触れられるとしたら、まだぬくいです。

今、私の中に残っている、捉えどころのないものは多分、物語の中に出てくる人たちの心を綴るために使った、私の感情の余韻でもあり、物語に出てくる彼や彼女の感情の余韻なのだと思います。

物語は「作ったもの」だけれど、彼や彼女の感情を探る時に使っている力は、私の隣や少し遠くで実際に暮らしていて、太陽や風に触れて、食べ物を食べて、息をしている誰かの心の動きを想像する時と、やり方は同じです。

誰かの感情を深く追いかける時は、自分の中から、パッケージされた喜怒哀楽を取り出して、感情を動かす箱の中に入れて、例えば「怒りの感情」ってこうだろうなと想像して頭の裏側で「怒りの感情」を走らせながら、彼という人ならばどのように怒りを育てていくのかを読み取っていきます。その時には私の感情も一緒に動かさないと、人の心を追いかけられないので、彼という人の感情と私の感情がそれぞれ同時にそこにあります。

糸を縦や横や斜めに紡いで布を織り上げるみたいに、彼や彼女の心の糸を紡いで織り上げて作るのが物語かと思います。出来上がった布の手触りは、さまざまです。暖かかったり、優しく包み込んでくれたり、意外にひんやりしていたりします。

忘れていたことを幾つか思い出しながら書きました。
閉じていた扉を幾つか開けたのかも知れません。
それでも、物語を作るためにやってきた幾つかのことは、顔見知りの人と天気の話をする時と、そう変わらないようにも思います。
とても特別なことをしているけれど、毎日の暮らしとかけ離れたことではないように思います。

物語を突き詰めていく時、心の中に縦横無尽に糸を掛けるみたいに、感情があらゆる方向からやってきて、通り過ぎて行って、透明な軌跡を残していきます。そうして、目には見えないけれど輪郭が少しぼやけた形のあるものが、頭なのか胸のなのかわからないところに、残っていきます。

この感覚には、毎日の暮らしの中でも、出くわす時があります。

私は人の顔を覚えるのが苦手で、今も結構困っています。ですが、そうである割に、人と会って話した後、その人の姿が、自動でカメラのシャッターを切ってワンカットだけ焼き付けたポートレートのように、自分の中に長く残ることがあります。
特長を捉えるためとか、会話が印象的だから残った、という因果関係やきっかけもなく、ただなにかの拍子に自動でシャッターを切られて、質量は在るのに見えなくて、形があるようでぼやけた何かが、自分の中に長い間、残り続けます。

写真を撮るようにして切り取られたものは、見た目の印象ではなくて、その人がその時に持っていた感情の印象のように思います。その感情の印象に似たものが、物語を閉じた今、頭なのか胸なのかわからないところに在ります。

閉じたてほやほやの物語は、スリルもサスペンスも謎解きもない、等身大のおはなしです。
星の瞬く音や、流れ星の尾を引く音が、聞こえないのに聞えてくるような、そんな物語を綴りたいと思って書きました。私たちが今見上げている夜空に光る星は過去の光です。今はもう、そこに無いのかも知れません。ですが、星は今の時間の私たちに向けて、冷たくて優しい光を放ちます。

今まで見てきた事や聞いた事や感じた事を、どれだけ覚えていたくても、細かいところは忘れてしまうのかも知れません。実際に思い出せなくなったこともたくさんあります。
それでもこの先も、見えなくなったふりをして、私の中に幾つか残っていくのだろう、とも思っています。

ここまで書いて、出掛けました。
用事を幾つか済ませて夕方になる頃には、「形がなくて、目にも見えなくて、触れられないけれど、少し質量のあるなにか」は、なくなっていました。ここに書き零したものは、夢のようなものかもしれません。思い出そうとしても、水の上に薄墨を一滴落とすようにじわりと、胸の奥になにかが滲むくらいです。

こういった抽象的な文章は、いつか読み返した時に、私自身、何が書いてあるのか意味を拾えないかも知れませんが、なんとなく残しておきます。

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