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モンゴルの草原で行き倒れかける。馬乳酒に注意。

大学生の時に夏休みの1ヶ月半モンゴルへ行った。モンゴル式羊の屠殺解体法が知りたかった。

行く前に、旅行情報誌でモンゴルの文化などを予習していった。美味しい料理への期待も膨らませていった。モンゴルには馬乳酒というものが存在している。常温に置いた馬乳を定期的に混ぜて発酵させた飲み物だ。情報誌が言うには、モンゴル人にとっての栄養ドリンク的な、甘酒的な、そんな立ち位置の飲み物らしく、大抵アルコール分1%以下で大人も子供も楽しむそう。一説によるとカルピスのアイデアの元にもなったよう。行く前からぜひ飲みたいと思っていた。

モンゴルに入国してツーリストキャンプに滞在しているとき、近所の母1人息子1人で暮らしている家でついに念願の馬乳酒をご馳走になった。母が作っているところを見せてくれて、期待が高まる。牛丼屋さんのどんぶりくらいの器になみなみ注いでくれた。砂糖もドバドバ入れてくれた。

一口飲んでとても気に入った。爽やかな酸味と飲みやすい甘さでとても美味しい。ちょっとシュワシュワと炭酸を感じるのも楽しい。アルコール分はほとんど感じない。

母子との会話も盛り上がり、馬乳酒を飲む手も進んだ。会話の内容は息子の話題が多かった。母いわく家畜の世話がうまい自慢の息子で、嫁募集中だった。後日山羊の搾乳を見に行ったが、上手だった。彼氏がいなければ、そのままモンゴルに根付くのもいい選択肢だった。馬乳酒は半分くらい飲むと継ぎ足してくれる。母のおもてなしっぷりが嬉しい。

盛り上がっているなか話を聞き逃すのは惜しいが、水分の取りすぎで、トイレに行きたくなったので席を外した。モンゴル田舎でのトイレに行ってくるとは、草原のなか人目につかなそうなところへふらふらと歩いて行くことを指す。ゲルをでてなだらかな丘を歩き始めたときに異変に気付いた。酔っ払って気持ち悪い!足元がおぼつかない!50mほど頑張って歩いたが、その場に倒れ込んでしまった。目が回って危険を感じた。大学の部活で行われた新入生歓迎飲み会の時に学んだ、飲みすぎた時の吐き方が活躍してしまった。馬乳酒を作ってくれた母や馬に申し訳なくなって、アルコール中毒になって倒れても近くに病院は無いことが怖くなって泣いた。なにもない草原に倒れ込んだまましばらく夜風に吹かれていると回復した。時計はないのでどれくらい倒れていたかわからないが、汚れた地面に頑張って砂をかけて、何事も無かったかのようにゲルに戻った。そしてその後はモンゴルを満喫して無事帰国した。

10年近く前のできごとだが、今でもあの草原の土にこのまま帰ってしまうような恐怖を覚えている。私の飲んだ秋の馬乳酒は発酵が進んでアルコール分が高いのかもしれない。または体質に合わなかったのか。実際は分からないが、美味しいからといって飲み過ぎるのは注意が必要だ。ちなみに、どんぶりで五杯も六杯も飲む私が悪いので馬乳酒は全然悪くない。馬乳酒はとてもおいしいし、モンゴルの暮らしはその後の人生の大きな指針となったので、ぜひたくさんの人に経験して欲しい。


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