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恋愛に不器用な人同士がする恋バナ

 恋バナって、話をする相手の経験値が自分と釣り合っていないと、恋愛相談になっちゃう。もし、誰かとひっそりと恋バナしたいときに、自分と同じような人が周りにいなかったらどうするか。諦めて、1人で絵を描いたり、音楽を奏でたり、日記に綴るようなことしかできない。

 大学の、卒業制作終了後の打ち上げて、同じアトリエで作業していたにも関わらず、4年間あまり話をしなかった女の子に「わたし、ひとみちゃんと、恋バナしてみたいって、ずっと思ってたの!」といわれた。なんか、告白みたいに。そして、その子とほんの数分間だけだったけど、理想の相手についてゆるゆると語り合った。
 初めはどうして私なんだろう、と思ったが、その子と私の共通点は、願望はあるけど、誰ともお付き合いをした事がない、ということ。そしてそれは、お互いに理想が高いわけではなく、異性と対面したときに、自分のもっている波長と相手の波長が噛み合わないこと。つまり人(特に異性)とのコミュニケーション能力に致命的な問題を抱えている事が原因だった。この問題は、周りから見ると大したことのないように見える。そんなものは、巡り合わせでしょっ、と。けれども当人達にとってはそんなに生優しい問題ではない。かなり深刻な問題なのだ。そんな私たちが20代も後半になってくると、家族は私たちの特殊性をそれとなく感じ取り、自分たちの老後の介護の話や家の存続権について私たちに提案し始める。同性の友達は彼氏のいろいろな愚痴を話して聞かせるけれども、良かったことはひとつも話してくれない。こと私たちの恋愛のことになると「〇〇ちゃんも、きっとそのうちいい人みつかるよ」とか「彼氏なんて、時間の無駄だよ、作らなくて正解だよ!」なんて無責任な言葉をかけられる。私たちはしなくて良かった恋愛さえ知らないのだ。

 ただその声をかけてきた子には、私となら、自分たちの不器用な部分に触れることなく恋バナできるという直感があったようだ。唐突だったけど、勇気を持って話しかけてきてくれた事が、私にはとても嬉しかった。私で良ければ、もっとたくさん話を聞いてあげたかった。
 話しかけてくれたその子は、絵を描く人であった。その絵は、明るい色調で、近未来的なモチーフを描いていた。独自の世界観で、謎を謎のまま残しているようなところがあって、それが絵の魅力をよりいっそう引き立てているように感じられた。

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