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学校は地域の課題を置き去りにすべきではない。

五島高校(長崎県五島市にある県立学校)で社会探究型課題研究を行ってきて、当時感じたことを書きたいと思います。(今も授業があっていますが、樫本は長崎市の学校に異動したので過去形になっています)五島市は、長崎県の県庁所在地である長崎市から100km西にある離島です。

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長崎県は小さい県ですが、離島が多く、海岸線の長さは北海道に次いで全国2番目です。特定有人国境離島は全国15地域71島のうち、長崎県は3地域40島で特定有人国境離島地域の指定を受けています。それくらい離島が多いことが特徴です。すぐに想像できると思いますが、地域の課題は山積みです。

五島市のプロフィール五島市姿勢要覧

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五島市は離島です。人口は約37,000人弱で見てもらうとわかるように、順調に減っています。ただ、人口動態の社会動態の令和元年に注目なのですが、なんと、増えているんです。こんな自治体なかなかありません。しかも離島中山間地域で増えるのは少ないと思います。これは、新しい企業が五島市でオフィスを作ったり、フリーで活躍されている方が五島市に入って仕事を始めたりしているからです。島のインフラは整っているので(全島的ではないですが)、働くにはとてもいい環境ということがあります。また、五島市が旗振りをして五島ワーケーションも行なっています。島のポテンシャルを見出して活動している方も増えてきました。主な産業は観光になります。2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」で世界遺産の登録がされました。しかし、安心できる状況ではありません。社会課題は山積しています。

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自然豊かで海はとてもきれいです。島の子どもたちはみんな海に行きます。確かに泳がないともったいない海です。

いい島だけど、それだけでは成り立たない島の現状

島の教育機関は、幼稚園、保育園、小学校、中学校、高校、現在はベトナム人向けの日本語学校があります。高校を卒業して島内に就職しない生徒はみんな島外に出ていきます。1年に約200名は出ていくのではないでしょうか。その子たちは戻ってくるのでしょうか。卒業していく生徒たちは五島が好きです。でも、大学や専門学校を卒業後戻ってくるかというとやはりそれは少数です。いい島だけど、戻ってくるとなるとそれは違うようです。五島だけではなく、日本津々浦々そのような地域はかなり多いのではないでしょうか。高齢化も進み、農業や漁業などの産業も生産高が下降しています。下図は五島市の地域経済循環図です。2015年のものですが、このデータを見ても外部に頼っていることがわかります。どうしたら自立に近づけるか。

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(引用:RESAS)

では、このまま、数十年後は都市としては消滅してしまうのでしょうか。これは、何年も先の話だからその時考えればいい話なのでしょうか。

学校はその課題を無視していていいのか

そのような地域にある学校は、そのような課題をどう思っているのでしょうか。それはわかるけど、でも、学校は何もできない。のでしょうか。僕は高校の教員なので、この課題を無視すると、そのまま島外に生徒送り出すことになります。これは、その地域にある学校の先生が、ただ損失を出していることに他なりません。その生徒の進路については全力で保証をしていくので、進路については心配ないと思います。五島高校の国公立大学の合格率が60%を超えています。でも、その地域への関わりはどうでしょうか?

学校にできることは何か

それでは、地域にある学校がその地域のことを想いできることは何か。それは3つあると考えています。

①探究学習を通して教養を育成する
②進路の先のキャリアについて考える
③地域に開かれた学校にする

①について、大学受験や専門学校に行くための教科の勉強や集団生活や部活動で身につける礼儀や作法だけではなく、探究学習を通して課題を発見する力、批判的思考などの資質能力を教養として身につけることで、自ら課題を発見し、答えのない問いに対して対応する力が身に付きます。そもそも地域のことを知らなければ戻りたいとか魅力に気づくこともありません。そして、地域の課題は答えはありません。与えられた課題を解決する力だけでは地域や社会に貢献できません。
②について、すぐ先の進路にだけ目をやると、その進路先だけでキャリアが確立されます。将来、その地域と関係を持ってもらうためには、高校生の時点でキャリアについて考える機会を作ることが必要です。
③について、①と②を進めるためには、学校の先生だけでカリキュラムを進めるのではなく、地域の方に積極的に授業に入ってもらうことで生徒の視野が広がり、キャリアについて考える機会ができます。また、探究学習で実践的に自ら考えて問いを見つけ出し、それを解決しようとする姿勢が身につきます。それは、多くの場合、自分たちの住む地域のことを考えるきっかけを生み、将来、地域と関係を持ちたいと考えるようになります。

【参考】
高校生と地域社会との関わりに係る実態調査(結果速報)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

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地域と生徒と教員の関係がうまく回っているところに「地域に開かれた学校」はできるはずです。すると、生徒は大人になっても戻ってきたくなる、または、関係を持ち続けたくなるのだと思います。

生徒の反応

五島高校ではいくつかのアンケートを取りましたが、探究学習を通して「五島市など社会のことを知ることができた」は91%の生徒がそう思う(ややそう思う)、「社会や地域、身の回りの問題について、原因について考えることが増えた」は89%の生徒がそう思う(ややそう思う)と回答がありました。また、自由記述欄には、「五島市は何もない島だと思っていたが、バラモンプランを通じて、五島の魅力に気がつくことができた」、「地域の人との関わりから、将来は五島に帰ってきて五島のために働きたいと思った」、「今習っている勉強と探究学習が繋がっていて勉強に対するモチベーションが上がった」などの意見がありました。

地域の方の反応

生徒たちがアクションをするために、島内ありこちで活動をしてると地域の方からは「五島高校の生徒は勉強ばかりしとると思った」とか、「高校生がこの前話を聞きにきたとよ」声をかけてもらう機会が増えました。そして、地域の方の五島高校の印象も変わったんじゃないかなと思っています。おかげさまで、何かあるときは声をかけてもらうことも増えました。そうやって、地域のことに高校生が加担することで盛り上がるのであればとてもいいなと思っています。

学校という敷居があったものを、こちらが踏み出すことでその敷居は低くなり、今まで想像もできなかったことができるようになります。それが大きな成果だったような。活動をしているのは五島高校だけではありません。市内の高校はそこも素晴らしい活動をしています。その高校の魅力が島内外の人の魅力になれば学校の存在価値は高まると思います。

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