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史上最強の再大関

場所序盤は無観客になるが、それでも夏場所は無事に開催されるようだ

思えば、昨年はこの夏場所ってなかったんだよな。何はともあれ開催されるのはめでたい……なんてことを考える異常事態はそろそろ終わりにしたいっすねぇ。

その夏場所、新横綱、新大関、新三役、新入幕、新十両がいずれもナシという新鮮味に欠ける新番付だが、一方で鶴竜の引退で横綱が白鵬ただ一人になるという「新味」はある。そんな新味いらんけど。

で、もちろん本欄としては「史上最強の一人横綱」をやろうと思ったんだけど、肝心のその一人横綱・白鵬が夏場所は全休だそうなので、延期。白鵬が出てくる名古屋場所(になるんだろうねぇ)前にでも書こうかな。

ということで、夏場所の番付で注目されるもう一方の話題、めでたく大関に復帰した照ノ富士の今場所を占う意味で、過去の復帰大関の再昇進場所の成績を調べてみた。お節介だねぇ。

もうあちこちで書かれているように、現在の「大関で2場所連続で負け越したら関脇へ陥落。ただしその陥落場所で10勝したら特例で即再昇進」の制度になってから大関復活を果たしたのは、照ノ富士で8人(9度)め。ちなみにその前の「大関で3場所連続負け越したら陥落」の時期(1958年から1969年)には大関復活の事例はない。

まずは、その8人の再大関の顔ぶれを紹介すると、魁傑三重ノ海貴ノ浪武双山栃東(2度)、栃ノ心貴景勝照ノ富士。「陥落場所で10勝したら特例で再昇進」でなかったのは、魁傑と今回の照ノ富士のみ。

う~ん、やはり大関返り咲きの至難さがわかるね。制度変更の1969年名古屋場所からの50年余でこれだけなんだから【このへんは過去記事の「史上最強の大関復活」を参照してください→コチラ

で、めでたく大関として再出発を成し遂げた面々のその記念すべき再昇進場所の成績を見ると、じつはあんまり明るい話題にはならない。夏場所の優勝候補筆頭として照ノ富士をあげる向きが多いようだが、楽観は許されないのだよ。

じつは、再昇進場所での成績って、最高記録が2005年春場所の栃東の2度目の再昇進場所の10勝5敗なのだよ。

よく「大関の勝ち越しは10勝」などといわれるが、そのラインに達したのは栃東のこの一例のみ。残りはことごとく「不合格」なのだ。

三重ノ海(1976年秋場所)、武双山(2000年九州場所)、貴景勝(2019年九州場所)の3人が9勝6敗で、魁傑(1977年春場所)が8勝7敗

あとは負け越し。貴ノ浪(2000年春場所)は7勝8敗で、栃東の最初(2004年秋場所)と栃ノ心(2019年名古屋場所)は途中休場している。

まぁ大関復活に全力を尽くした直後だけに、反動が出るものなのかもしれないが、過去8例中合格点が1例だけ、負け越しが半数近くというのは、やはり照ノ富士にとっては不吉なデータだろう。

不吉なのはこれだけではない。

さらに不安をあおるようで申しわけないが、8例中の4例、つまり半数近くは、再度大関陥落の憂き目にあっているのだ。それも再大関後の在位場所は、魁傑の4場所が最長。貴ノ浪、栃東(1度目)、栃ノ心は再昇進後2場所で再陥落。比較的短期間で再びカド番を切り抜けられずに、大関の座を明け渡しているのだ。

不吉だろう

逆に、大関陥落を経験しながら横綱に昇進したのは、三重ノ海ただ一人。再大関後に優勝したのも栃東のみ。武双山は大関のまま引退しているが、ほかには現役の貴景勝が再陥落を免れているだけ。

おまけに、ただ一人大関陥落を経験しながら横綱になった三重ノ海だが、横綱に昇進したのは、再昇進場所からほぼ3年後の1979年秋場所。そこまでの間に2度のカド番もあり、大関での勝率は6割を切っている(横綱に昇進した大関のなかでは歴代最下位)

けっこう苦難の道のりだったのだが、1979年名古屋場所で14勝を挙げて優勝同点(優勝決定戦で輪島に負け) ワンチャンスを活かして第57代横綱に昇進した。大関在位21場所中には、1度も優勝がない。横綱昇進後に2度優勝し、全勝優勝も記録しているので横綱としては合格点なのだろうが、横綱在位はわずかに8場所で終わっている。

こうして見ると、どうやら大関陥落経験者は、おおむねそこで力尽きる傾向にあるともいえる。

ちなみに制度が違う昭和前半期にも大関陥落から復活した例は3例あるのだが、能代潟(1931年初場所再大関)、名寄岩(1946年秋場所再大関)も再陥落しており、再大関後に大関の座を維持してそのまま引退したのは汐ノ海(1950年初場所再大関)だけ。

もっとも名寄岩は、再陥落後に敢闘賞を受賞し「涙の敢闘賞」として大相撲史に名を残すドラマを演じ、映画にまでなっているから、まぁよかったのか。

夏場所では優勝本命、次期横綱最有力などと話題が盛り上がる照ノ富士だが、過去のデータを見ると非常に厳しい道と思わねばなるまい。これは現役の再大関経験者である栃ノ心、貴景勝も同じか。

まぁしょせんは過去のデータ、そう気にすることでもないのだが。

というのも、過去の再大関たちはいずれも陥落後に十両以下に転落したことはなく、その点では照ノ富士のように序二段まで下がってからの復活は、それこそ史上初の快挙なのだ。

なので照ノ富士には過去の不吉なデータに惑わされることなく、堂々の快進撃を見せていただきたい

史上最強の大関 (2015/7/16)

史上最強の新大関 (2019/5/10)

史上最強の大関復活 (2017/1/23)

史上最強の大関カド番 (2021/2/23)

大相撲/丸いジャングル 目次

【2021/5/25】 過去の不吉なデータなど、まったくの杞憂でしたね。まさに快進撃、終盤にちょっともつれたものの、貴景勝との優勝決定戦を制して堂々4度目の優勝を飾りました。また「夏場所雑記」でも書きますが、史上初の大関復帰場所での優勝をはじめ、大関以下の地位で4度の優勝、関脇と大関での2場所連続優勝など、大相撲史を塗り替えるような優勝でした。優勝おめでとう、今度は綱取り頑張って!


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