外出自粛映画野郎「ハンターキラー/潜航せよ」
昨年の公開前にこんな記事【こちらです】を書きましたが、公開から1年余を経たので、あらためて見直しました。
やっぱり面白いですね。
潜水艦+特殊部隊という、どう考えても男の子好みのネタをダブルで突っこんであるのだから、当然でしょう。未見のかたは是非ともどうぞ。
で、先の記事でもふれましたが、この映画には原作小説があります。
元米海軍潜水艦長のジョージ・ウォーレスと作家のドン・キースが合作したこの作品、ハヤカワ文庫から映画公開に合わせて刊行されたのですが、何を隠そうこの作品の編集を担当したのが、当時早川書房に在籍していた、この私なんです。しかも編集者生活の最後に担当した作品なので、ひときわの思い入れがあったりします。
で、今回はすでに公開から1年も過ぎたことですし、少々ネタバレにはなるかもしれませんが、原作と映画の違いなどをひとくさり語ろうと思います。【なので、映画未見のかた、原作未読のかたは、用法容量にご注意のうえでお読みください】
私は日本公開よりも半年ほど前の2018年秋にはこの映画を試写で拝見しました。アメリカでの公開は2018年10月だったので、その直後です(日本公開は2019年4月12日) その時点ですでに原作小説の翻訳は完了していて、私は読み終えていました(キツい締切を死守してくださった翻訳の山中朝晶さんに感謝です)
その時点で予期もしていたのですが、見始めて数分でわかったのが「映画には原作小説の半分しか使っていない」
原作では、ストーリーはほぼ2本柱になっているのです。
1本は映画になっていた「潜水艦+特殊部隊」 そしてそれと並行して描かれるストーリーは「経済サスペンス」ともいうべきオハナシ。
ロシアでクーデターを企てる一派は、決行と同時にアメリカ国内に混乱をもたらすため、ロシア・マフィアと結託してニューヨーク証券取引所のメインコンピューターに秘密ソフトを仕込むのです。それにただ一人気づいた証券取引委員会(SEC)の女性監査官と、ロシア側の息がかかったソフト会社と技術者たち、そしてマフィアが送りこむ殺し屋たちとの攻防がスリリングに描かれるのです。
映画ではこのパートをバッサリと切り捨てました。そりゃあそうでしょう。ここまで映画に盛り込んだら、4時間以上あっても足りない超大作になっちゃいますからね(実際の映画は122分)
とはいえ、こっちもちゃんと面白いので、もったいない気はします。またそれに伴って、原作ではけっこう暗躍するロシア・マフィアの面々もバッサリいかれましたからね。魅力的なキャラもいるんですが。
そのうち、こっちのパートだけでスピンオフでもできないかな。
もうひとつ、原作からバッサリいかれていたのは、冒頭で沈没する(潜水艦でもこう言うんでしょうかね)ロシア原潜の内部のドラマ。これも映画の長さからしてやむを得ないでしょうが、けっこういいドラマなのです。
映画では救出後に登場するロシア原潜艦長(演じたのはミカエル・ニクヴィスト)ですが、原作では冒頭から前半まではほぼ主役級の活躍。海底で擱座した原潜内部で、生き残った部下たちとともに必死のサバイバルをくりひろげる展開は、潜水艦物の醍醐味であります。
沈没潜水艦の内部で、空気の汚れによる酸欠とともに最大の強敵となるのは低体温症。映画でも救出された乗組員たちは寒さに震えていましたね。凍死寸前まで追い込まれた乗組員を救うべく艦長が取った手段は? ここはなんとか映画化したかったですね。
じつはこの原作小説、シリーズ物の1作なのです。映画ではジェラルド・バトラーが演じたアメリカ原潜のグラス艦長と、トビー・スティーブンスが演じた特殊部隊隊長ビル・ビーマン。この2人が作戦を共にするのは、小説ではこれが初めてではないのです。
映画の原作になった「Firing Point」は2012年の作品なのですが、これに先立つ2003年に第1作「Final Bearing」が発表されています。彼らが麻薬カルテルと闘うストーリーだそうで、原作小説ではこの事件に言及する場面もあります。「Firing Point」はその続編でシリーズ第2作。そしてその後の2015年にはシリーズ第3作「Dangerous Grounds」も発表され、さらには映画の人気を受けてか、次々とシリーズ続編が発表されています。
シリーズの他の作品も読んでみたくなりますよね。翻訳刊行されることを願いましょう。
そんな「ハンターキラー」ですが、アメリカではさほどヒットせず、評論家の受けもいまひとつだったそうです。ううむ、オレの目も狂ったか。でもまあ、見ていて飽きのこない作品であることにはまちがいありません、たぶん。男の子は必見ですよ!
『ハンターキラー 潜航せよ〔上下〕』ジョージ・ウォーレス&ドン・キース/山中朝晶・訳/ハヤカワ文庫NV
The Hunter Killer Series (全5巻) Kindle版 George Wallace & Don Keith
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