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未発売映画劇場「SF怪物宇宙船」

サント映画完全チェックで出会った、1970年にサント&ブルーデモンの主演映画3本を製作したメキシコ映画の知られざる大物プロデューサー、ジーザス・ソトマヨール・マルティネスのことを調べていたんですが、相変わらずよくわからない人物ですな。でも、そのソトマヨール作品に、やけに知名度の高いものがあることがわかりました。アメリカのモノ好きの間ではけっこう有名な作品らしい。

La nave de los monstruos」 英語題の「The Ship of Monsters」がわりとポピュラーなようです。「怪物の船」というこなれない日本語タイトルで取り上げている資料も若干ありました。1960年のモノクロ作品です(もちろん本欄での邦題はオレ製)

男性(オス)が滅亡した金星。残された女帝は他の天体からオスを連れてきて種の保存をはかろうと、ガンマとベータの2人の探検隊を宇宙へと派遣する。あちこちの星でオスを捕獲するが、宇宙船の不調で地球のメキシコへ着陸するが……

ま、およそ独創性の感じられないプロットですが、実際これに先行する「火星から来たデビルガール」(1954年/国内発売あり)というイギリス映画にインスパイアされたものだそうです。

当然ながらセクシーな美女である2人の金星人はアナ・ベルタ・レペ(ガンマ)と、サント映画でおなじみのロリーナ・ベラスケス(ベータ) 無駄に露出の高い服装(もちろん水着)でお色気ムンムンに迫ります。

この彼女たち、金星人という設定ですが、これどうなの?

たしかに映画のなかでも、あるいはどの資料を見ても、はっきり「Venus」と言っていますがね。

というのも、彼女たちは地球に不時着するまでに多くの星に立ち寄ってきています。メインタイトルのバックでロケットが何度も離着陸を繰り返すカットがありますが、あれがたぶんその描写なんでしょう。なかには太陽系外の惑星もあったようです。

そのわりに、地球に到着するなり「ここはどこの星?」「空気はあるようよ」「生物は?」などと地球に関する無知ぶりを披露してくれますが、金星から見たら地球っていちばん近い惑星じゃないのかい?

どうにもツジツマがあわないですねえ。なので私は「Venusという名前の、太陽系外の遠くにある惑星から来た」くらいに解釈しました。心やさしいでしょ。

それよりも問題なのは、彼女たちを迎え撃つ(?)地球側のヒーロー

冒頭で金星側の事情が描かれ、ガンマ嬢とベータ嬢が地球に着陸するまではまあまあSFっぽい展開なのですが、次の瞬間口ヒゲたくわえたおっさんカウボーイがのほほんと歌いながら登場するのです。なんじゃこりゃ

ガンマ嬢と恋に落ち、ベータ嬢に迫られるこのオッサン臭いカウボーイこそがこの映画のヒーローであるラウリアーノ。演じるエウラリオ・ゴンサレスは、当時のメキシコでは俳優で歌手でコメディアン、ピポッロなる愛称で親しまれていた人気者なのです。じゃあ歌うのも当然だよな。当時の日本でいえば、石原裕次郎か、いやフランキー堺か、あるいは一人クレイジーキャッツあたりなのか(たぶん違う)

見た目もいまひとつだが、ホラ吹きとしても有名らしく、酒場でも誰も相手にしない。ま、憎めない感じの男だが。

こんなやつ(笑)

どう考えてもヒーローっぽくないこいつが、酒場からの帰路で、地球を探索中のガンマ嬢とベータ嬢にばったり。オスには不慣れな金星の美女たちは、なぜかこんな男にぞっこんになってしまうのですが、いくらなんでも解せないぞ。

そこから始まるストーリーも、だからシリアスなのかコメディなのか、妙に中途半端。まあサント映画なんかを思えば、こんなもんかなという気もするが。

そんな半端映画がつとに有名なのは、登場するチープ極まる怪物たちの造形ゆえのようです。

登場するのは、ふたりの金星人が途中の星で捕獲したロボットの「Tor」のほかに4体のオス。カウボーイ氏とガンマ嬢がイイ感じになるのに嫉妬したベータ嬢の手下となって、地球侵略に携わるのです。異様な怪物状の姿態からは予想できませんが、それなりの知性も文明も持っているようです。ちゃんと名前もついています。

まずはひとつ目のサイクロップスみたいな大型生物「Uk」 こいつを売り出したかったのか、単独で主演格に擬したポスターがありますが、JAROに通報したほうがいいかも。

こんなにデカくないんだってば。映画では2メートル足らずだし、ドスドス暴れるだけだから。まさに誇大広告。さっそくJAROに連絡だ。

蜘蛛のような毛むくじゃらのやつが「Utirr」 ツメに毒があるとかだが、たんにモジャモジャしてるだけに見える。

Tagual」は火星のプリンスなんだとか。そんな重要人物を誘拐してきていいのか金星人。宇宙戦争になるんじゃないか……という心配はあまり感じません。脳ミソ剥き出しの頭でっかちは、プリンスを詐称しているに違いないと思わせますから。

そして生きている骸骨Zok」 ほかの連中は着ぐるみなのに、こいつだけはどうやらコマ撮りアニメか操り人形らしい。おかげでほかの3体と同一画面に登場することはないし、いつの間にかどっかへ行っちゃいます。

地球に侵攻したモンスター軍のみなさん。骸骨くんはおりませんが。

中央の黒服美女がベータ嬢。なぜか嫉妬に駆られて女吸血鬼に変身しています。ロリーナ・ベラスケスはサント映画でも「サント対女吸血鬼軍団」で女吸血鬼を演じていましたが、あれはこの映画よりも後なので、今回がいい練習になったのかな。あるいはこの映画での役に対するオマージュだったりして(まさかね)

お気づきのかたもいらっしゃるかと思いますが、このモンスターくんたちのうち、一つ目巨人の「Uk」と脳ミソ剥き出しの「Tagual」は、10年後のサント映画「サント対モンスター軍団」にも登場しております。「Uk」はそのものズバリのサイクロップス役、「Tagual」は謎のミュータント役。着ぐるみを使い回したんだろうけど、よくまぁ10年も保存していたな。断捨離ができてないぞ、ソトマヨール先生。

使い回しといえば、「サント対アトランティス団」の冒頭の宇宙飛行シーンも、じつはこの映画からの流用でした。ガンマ嬢とベータ嬢がロケットで宇宙に飛び立つシーンや、故障修理のために船外活動するシーンなどがそれで、特徴ある宇宙服(手足の部分が蛇腹可動式)ですぐにわかります。

しかしこの部分、特撮と合成でうまく作られていて、やけに他のシーンのチープな作りと差があるなぁと思ったら、これ自体が他の映画からの流用でした。

その元ネタは、なんとソ連製ドキュメンタリー映画「Doroga k zvezdam」英語題「Road to the Stars」 日本でも「ソ連人工衛星/宇宙征服」の邦題で劇場公開されていたりします。しごく真面目な科学ドキュメンタリーですね。カラー作品ですが、この映画ではモノクロで使用されています。もったいない。

1958年の作品なので、製作からわずか2年後にこんな映画に流用されていたってことになりますが、どんな経緯でそんなことが可能だったのか。このへんもソトマヨール先生、なかなかの凄腕だったんでしょうか。

肩の力を抜いて楽しむのが、メキシコ製ファンタスティック映画鑑賞の基本ですので、もしもあなたがこのヤスモノ映画を見る機会があれば、そのことをお忘れなく。

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