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未発売映画劇場「サント対女吸血鬼の復讐」

サント映画完全チェック、第26弾は1970年12月にメキシコで公開された「La venganza de las mujeres vampiro」 直訳すれば「女吸血鬼の復讐」ってところか。英語では「The Vengeance of the Vampire Women」

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開巻はちょっとショッキング

棺桶で眠る女性。いきなりその胸に木の杭が突き立てられる。かっと目を見開いて絶叫する女の口には鋭い2本の牙。そして胸から溢れ出る毒々しい血の奔流

というわけで、いきなり女吸血鬼が死んでしまうのだけど、物語はそれから200年後。地下に隠された墓所から棺桶を盗み出す一団の男たち。持ち帰ったのは悪の科学者の研究室だ。棺桶の中にはミイラと化した女吸血鬼が。悪の科学者は女吸血鬼を復活させて自らの世界征服を手伝わせようとするが、女吸血鬼には別の思惑があった……

てなわけで、甦った女吸血鬼と、悪のマッドサイエンティストを向こうに回して、サントが奮戦することになる。おお、いつもどおりの展開だ。前回の「サント対恐怖強盗団」とちがって、サントはちゃんとプロレスのスーパースターのサントだし。

そんな安心感に抱かれながらぼけっと見ていればいいのだが、いちおう裏設定みたいなのがある。甦った女吸血鬼はサントに恨みがあるらしく、それで襲ってくるのだ。

ああ、そうかずっと以前に作られた「サント対女吸血鬼軍団」(1962年)の続編なのかと納得しかけたが、じつはそうではなかった。なんでもサントの祖先が彼女を滅ぼしたとかで、なんかトバッチリっぽいな。何代前の祖先なんだよ。

じっさい、ストーリーはまったく「女吸血鬼軍団」とは関係ないし、そもそも女吸血鬼を演じるのも愛しのロリ―ナ・ベラスケス嬢ではない。ぜんぜん別の映画なのだ。

今回ロリーナ嬢にかわって女吸血鬼を演じるのはジーナ・ロマンド(Gina Romand)キューバ出身の女優さんで、じつはこれよりも10年ほど以前の「サント対地獄人間」にも出演していたのだが、ゴメン忘れてるわ。この後にもサント映画に数本出演しているので、今度こそ覚えておくね。

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いやいや、こんな顔では覚えておけないって(笑)

さて、この映画がちょっといいのは、女吸血鬼復活の仕掛け。ドラキュラ映画の定番でもある吸血鬼の復活だが、今回のこれはひと味違う。なんと、マッドサイエンティストの手により、科学の力で甦るのだ。

フランケンシュタイン博士ばりの実験室で女吸血鬼を復活させるのは、ちょっと新鮮味がある。とはいっても、復活には新鮮な血液が必要だとかで(まあそれは納得いくし、そう斬新でもない)、悪の博士たちはナイトクラブからヌードダンサー(ただし水着着用)を拉致してくるのだ。

おお、ここで残忍な流血の儀式が……とか期待(?)してしまうが、泣き叫ぶダンサーを女吸血鬼のミイラと並べて横たえると、なんと輸血するのだ。そりゃま科学的と言えば科学的だが、いかにもムードがないぞ。それに彼女は吸血鬼なんだから、血液を飲むんではないのか? まぁサント映画だからこれでいいのか。

マッドサイエンティストを演じるのはビクトール・フンコ(Víctor Junco) ちょっと人の良さそうなオッサンなのだが、けっこうな腕前らしく、女吸血鬼が言うことをきかないと見るや、すぐに謎の人造人間(らしきもの)を作り上げている。この人造人間、唐突に登場するし、暗いシーンに出てくるのでどんな風貌なのかよく見えないのだが、どうも顎に絆創膏を貼っただけの大男に見えるのは気のせいか。もちろんサントに敗れる

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ちなみに、前作ではほとんどなかった、お楽しみのサントの試合シーンだが、今回はちゃんと用意されている。用意されてはいるんだが、じつはこれがまったくピンと来ない。

最初は、サントと対照的な黒覆面のレスラーが相手。だが、最初は悪くない動きを見せている黒覆面だが、途中でリングサイド席にいた女吸血鬼が念波を送ると、とたんに凶暴化して凶器を使ったりしたあげく、サントのダイビングヘッドを喰らって敗戦する。完全にストーリーに組みこまれているゆえ、試合そのものが振り付けつきのようで、以前のように「サントの試合を見ているぞ」的な興奮に欠けるのだ。このあとにも色違いなだけっぽい赤覆面のレスラーとの対戦も組み込まれているが、こちらはあっという間に終わってしまってまったく物足りない

ちなみに、黒覆面レスラーを演じたものの正体ははっきりしないが、サント映画に欠かせない盟友のフェルナンド・オセスの名がメインタイトルでクレジットされているので、あるいは正体は彼なのかもしれない。この作品では脚本にも参加しているし。

本作の監督は、サント映画初登板のフェデリーコ・クリエル(Federico Curiel) このあともサント映画にはしばしば登板しているが、日本では彼の監督したミル・マスカラス映画が3本知られているだけのようだ。

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資料によっては「いい出来栄え」とされている本作だが、どうも私の目には、従来のサント映画らしいおおらかな楽しさに欠けている気がしてならなかった。ひょっとしたら、1970年代に入ってサント映画も曲がり角を迎えているのか。いやいや、まだ残り10年、20本以上の作品が残っているんだが。

本作もDVDなどのソフトは入手困難だったので、ネット上に公開されている全長版を拝見した。なお、次回作は入手済みだよ。

【前回】サント対恐怖強盗団     【次回】サント対極悪マフィア→

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