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机上の空論(かーろん) カーリングを計算してみる(1)

計算しようと思ったのは

カーリングは観ていて面白いスポーツです。観れば観るほどもっと知りたくなります。しかし、観戦する中でどうしても越えられない壁を感じます。
それは、選手・解説者と私のカーリング経験の圧倒的な差です。
カーリング選手は何故あんなに短時間で作戦を立て、投げる石のウェイト・曲がり幅を決定することができるのか、なぜ狙った位置に石を置くことができるのか カーリング未経験の私にはわからないのです。
そこで、氷上ではなく机上でどうにか自習できないかと物理的な視点で計算し、図表化してみることにしました。
私はカーリングに関してテレビ・配信で観戦するだけの「上滑り」ファンですし、物理の専門家でもありません。昔使った教科書を引っ張り出し、ネットで検索しながらやってみたものです。カーリングについてはリンクの書籍を参考にしました。実際のカーリングではストーンは回転し曲がりますが、そこまでを再現するような難しい計算はできないので単純な計算です。その点ご理解お願いします。間違い等ありましたらご指摘頂けると助かります。


計算式と計算方法

計算に使った数式は図1.1の通りです。

図1.1

式(6)で動摩擦係数を求めたいのですが、ストーンの初速についての情報がありません。ストーンの速度関連の情報としてはホッグーホッグ間の秒数が試合の中で使われているので、この秒数を参考に初速を推定します。
基準のボタンドローのホッグーホッグ間14秒と仮定します。表計算ソフトで式(8)の速度を1フィート進むごとに計算できるようにし、ホッグーホッグ間の秒数も算出できるようにしておきます。ストーンの初速度をいろいろ入力してみてホッグーホッグ間の秒数が14秒となる値を探しました。
結果は 初速:約2.45m/s、動摩擦係数:約0.00838となりました。


ドローショットを表現すると

ストーンの速度変化をグラフにすると図1.2のようになりました。
横軸がストーンの位置(単位はフィート)、縦軸がストーンの速度です。

図1.2

ドローショットをそれっぽく表現してみると
「ストーンの置きたい位置を決め、アイスの動摩擦係数を推定し、その位置でストーンの速度が0になるようなストーンの初速を設定。設定した初速になるようハックを蹴り出しストーンに加速度を与える。」
ここで、
「ハックを蹴り出した力が弱く加速度が不足していると判断した場合は、リリース時に腕で押し出すことにより、速度を上げるよう調整する。」
さらに
「リリースされたストーンの速度が設定した速度より遅いと判断した場合は
スイープを行いアイスの動摩擦係数を低下させ、ストーンの速度低下を抑える。」
といった感じでしょうか。


ドローショットでストーンの停止位置を変えるには

次に同じアイスの状態(動摩擦係数が同じ)でストーンの停止位置を変更した場合、ストーンの初速をどのくらい変化させなければならないのかを計算してみました。
ガードを置くことを想定したドローではどうなるのか。ホッグーホッグ間の秒数と初速度の計算結果です。

  • 1半…ホッグーホッグ間:約19.3秒、初速:約2.26m/s

  • 2半…ホッグーホッグ間:約17.0秒、初速:約2.32m/s

  • 3半…ホッグーホッグ間:約15.5秒、初速:約2.37m/s

ストーンの速度変化をグラフにすると図1.3のようになりました。

図1.3


テイクアウトショットはどこまで滑るのか

続いて、テイクアウトでの速度変化を見てみます。
まずは、弱めのテイクアウトショットの場合です。弱めのテイクアウトは目標位置があるので、それぞれの目標ラインまで到達するように計算します。

  • バックライン…ホッグーホッグ間:約13.1秒、初速:約2.51m/s

  • ハックライン…ホッグーホッグ間:約12.4秒、初速:約2.57m/s

  • バンパー…ホッグーホッグ間:約11.9秒、初速:約2.63m/s

ストーンの速度変化をグラフにすると図1.4のようになりました。

図1.4

次に強めのテイクアウトショットです。強めのテイクアウトはストーンが止まる位置を目標にするわけではないので、ホッグーホッグ間の秒数を条件に初速とストーンの停止までの距離(シートがバンパー以降も続いていたとして、投げ側のバックラインからの距離)を算出してみました。

  • コントロールウェイト(10秒)…初速:約2.88m/s、距離:約50m

  • ノーマルウエイト(9秒)…初速:約3.06m/s、距離:約57m

  • 8秒(8秒)…初速:約3.31m/s、距離:約68m

  • トップウェイト(6秒)…初速:約4.12m/s、距離:約103m

  • トップウェイト(5秒)…初速:約4.80m/s、距離:約140m

ストーンの速度変化をグラフにすると図1.5のようになりました。


図1.5

強めのテイクアウトではハウスを通過するまでの間で急激な速度低下がないので、ストーンが曲がらず進むことをイメージできました。


計算してみて

この計算結果が実際のものと近いことが前提となりますが、結果をみて驚いたのは、ボタンドローと3半のガードの初速の差が0.1m/sもないこと。この違いを投げ分け、投げたときに速いか遅いかわかってしまうカーリング選手は凄いです。
それぞれのショットに対するウェイトの違いについて、少しだけ理解が進んだような気がします。

2022.06.26

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