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北欧のスカンジナビア半島、ノルウェーには、
「フィヨルド」と呼ばれる複雑な地形があります。

氷河によって浸食され、削られた地形。

よく「リアス式海岸」と比べられます。
リアス式海岸は「通常の山地・河谷が
沈水して形成されたもの」です。
しかしフィヨルドは、違います。
「氷河によって形成されたU字谷に
海水が入り込む」
ことで形成されます。

もう少し詳しく言いますと、

氷河というのは、数万年もの時間をかけて、
数千メートルも降り積もった雪が
氷へと変化したものなんです。
要は、すごい「氷の塊」。当然、重い。

あまりに重いので、ゆっくりと山の斜面を
下っていくのですが、この氷が滑りながら
底にある地面を「深く鋭く削っていく」
そのため、Uの形の深い谷を形作ります。
これこそ、U字谷です。

フィヨルドは、氷河期の終わりごろに
氷が融けて海面が上がったため、
この深いU字谷の一部が海に沈んだことで
できた地形、なのです。

本記事ではこの「フィヨルド」と
「就職氷河期」の人とを絡めて
書いてみようと思います。

就職氷河期。

これほど巧みなメタファー(たとえ)を
生み出した人は、本当に凄いですよね。
(初出は『就職ジャーナル』だそうですが)

バブル期の就職・採用が活発だった頃に比べ、
一転、就職できない人があふれた時期のことを
「採用が冷え込んだ」ことにちなんで
こう呼び始めたそうです。

2003年頃からは徐々に回復していくのですが、
それまでの1990年代後半から2000年代初め
指すことが多い言葉です。

実は中年世代の私も
この「就職氷河期」に社会に出た一員でして。
「コロナ氷河期」などとニュースで見るにつけて
「うん、大変だよね。でも
自分たちの頃もけっこう大変だったんだよ…」と
感慨にふけってしまう世代なのです。

まだネットが普及しきっていない、
当然、SNSなども無かった時代です。
アナログとデジタルが入り混じった過渡期。
クチコミは少なく、情報が限られていた時代。
新卒就職はとにかく右往左往した記憶があります。

今になって、企業側の心理を慮れば、
採用数を減らすのは
無理もないことだった、と思います。

1995年には阪神淡路大震災とオウム事件、
90年代後半には、山一や拓銀がつぶれて、
「日本経済、もう終わりか…」という世紀末です。
総理大臣もころころ変わり、
目まぐるしく変わっていく国内外の状況に翻弄され
一貫的な政策など取れていないように見えた
(2001年に小泉首相になるまで、
1993年の政権交代以後は、もう混乱の極みです)。

そんな混乱の時代でしたから、
「ガンガン採用するぜ!」という会社が
少数派だったのは、理解できます。
事実、90年代後半~00年代初めに、
新卒で希望通りのところに就職できた人は、
そんなに多くはなかったのではないか?

このひずみが、現在の経済状況にも
大きく影響しているのは、
ニュースでよく報道されている通りです。
そのため、この世代を対象にした支援策、
「就職氷河期を対象にした公務員試験」なども
実施されたんですけれども、
兵庫県宝塚市では3人の採用予定者に対して
1,800人ほどの応募者が殺到したそうですね。
倍率、約600倍。
受験生の心の傷をさらに
削り取るかのような超高倍率ですね…。

最近の物騒な事件
(銃撃事件、ネカフェ立てこもり、京アニ事件…)
なども、いわゆる「氷河期世代」の人が
引き起こすことが多いように思います。

氷河期世代の人の心には、多かれ少なかれ、
深い「U字谷」が刻まれているのではないか?
「フィヨルド」が、あるのではないか?

私には、そのように思えるのです。

U字谷は、冒頭に書いたように、
とても重い氷河が少しずつ地面を削って
つくられた地形です。

氷河期世代の人の心には(全員とは言いませんが)、
「思うように新卒就職ができなかった」という
重い氷河があって、それが少しずつ心を、
深く鋭く、削ってきた。

その後の政策で「埋め立て」がされれば
このU字谷も少なくなったかもしれませんが、
実際には何十年か「放置」されてきましたよね?
今になってやっと「支援」されてるんですよね?
いわば、このU字谷に
「塩辛い海水」がたっぷり入っている状態。
…まさにフィヨルド、なのです。

バブル世代とゆとりさとり世代に挟まれた
この氷河期世代は、上にも下にも
なかなか理解されない、苦難の時代を
過ごしてきた(過ごしていく)のです。

『THE WAVE/ザ・ウェイブ』という
ノルウェーの映画があります
(津波のシーンあり、閲覧にはご注意を↓)

ガイランゲルフィヨルド。
標高1000m級の切り立った断崖絶壁。
両岸に迫る渓谷が続く世界的絶景スポット。
この自然地形を舞台にした映画です。

実はフィヨルドでは、
岩山崩落によるディザスター(巨大津波)
起こることがあるんですよ。
この自然災害をテーマにした映画。
日本のリアス式海岸でもそうですが、
海岸地形が複雑な場所では、
巨大な津波が起こりやすいものです。
映画では、海抜80メートルもの高さの波が
住民たちに容赦なく襲い掛かります。

…氷河期世代の人が事件を起こすにつれ、私は、
「ああ、この人の心の岩山が崩落して、
津波が引き起こされたのだろうか…?」と、
ちょっと暗澹たる思いに襲われるのです。

まとめます。
…なんか暗い方向の記事になってしまったので、
なんとか明るい方向に向かって。

自然災害の脅威もありますが、
フィヨルドは「天然の良港」にもなりえます。
(ノルウェーのサーモン、美味ですよね!)

U字谷は、水深が深いために、
大きな船も座礁することなく
入ることができるのです。
内陸部にまで船で入ることができるため、
内陸の物産も容易に運ぶことも、できます。

…氷河期世代の「心のフィヨルド」も、
同じではないでしょうか?

重い氷河。深く鋭く刻まれた深い谷。
塩辛い辛酸を舐めるかのような海水。
これらがあるがために、

人の心の喜怒哀楽を想像することができる
「奥深い懐」があるように思うのです。

他の世代の人よりも。
人の心の中にまで、すっと入り込めるような。

そのフィヨルドを「良港」として
活用することにより、

氷河期世代の人は
これから50代、60代、70代になっていく中で、
辛い人たちの心を実感として理解した
ハートフルな奥深い活動ができるのではないか?
そう、思うのです。

人を傷つける方向ではなく、
傷ついた人を支援するような方向へと、
その心のフィヨルドを活用してほしい。

私は、氷河期世代の一員として、
強く、そう思っています。
「〇〇氷河期」と言われる他の世代の人たちも、
苦しんだその分、「奥深い懐」を持っている、
そのように思うのです。

さあ、読者の皆様は、いかがでしょう?
氷河期世代の方、そうでない世代の方、
色々と思うところはあるかと思いますが、

それぞれの世代の「心の地形」を
うまく活用していただきたい
、と思います
(実用地歴提案会ヒストジオ、ですので…)。

◆記事に対して2つのコメントをいただきました。
ありがとうございました。
回答とともにコピペ引用しておきます↓

【コメント1】

ぎりぎり氷河期世代だった一人です。確かに「辛い人達の心を実感として理解したハートフルな奥深い活動」をしている人もいますが、そうではない人、自己責任論の人も少なくなく、氷河期世代も一枚岩ではないところです。

【回答1】

おっしゃる通り、氷河期世代と一言に言っても千差万別で、一枚岩ではないと思います。特に、ぎりぎり氷河期世代という、バブル世代やさとりゆとり世代に近い『周辺氷河期世代』と、2000年、2001年頃に社会に出た『超氷河期世代』とではだいぶ感覚に違いがあるように思います。
また、ご指摘の通り、同じフィヨルドを持つ人であっても、『辛い人達の心を実感として理解したハートフルな奥深い活動』に向かう前向きな方もいれば、『悪いのはすべて時代のせい!すべてはこの社会が悪い、自分は一ミリも悪くない』という自助努力を放棄した方、『時代のせいにするんじゃない!悪いのは自分の努力が足りないから!すべては自己責任だろ』という自己責任論に極端に傾く方、などなど、かなり人によって差があるのも、この世代の特徴のように思います。
フィヨルドが『良港』にもなれば『自然災害の原因』にもなるように、たとえ同じ時代を経験していてもその活用法、昇華は人によって違うのだ、ということを論じやすい世代なのかもしれませんね…。
だからこそ、少しでも前向きに、人の心を想像し寄り添えるような姿勢が大事なのかな、と思います。

【コメント2】

アナ雪がきっかけでフィヨルドの絶景に魅せられたのですが、こういう風な見方もできるのですね。

【回答2】

アナ雪のように『ありのまま』で全員が望む就職先に新卒で就職できれば氷河期世代とはならなかったと思いますが、そういかなかった人が多い分、改めてありのままのやりたいことを自覚して頑張りたいですね。

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