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1、徐庶、諸葛亮を推挙する

「伏龍、鳳雛、いずれかを配下にすれば、天下の事は成る」

水鏡先生の言葉を思い出した劉備は、徐庶の言葉に耳を疑った。

「伏龍…。確かにその諸葛亮は、そう呼ばれているのか!?」

「さようです」

徐庶は、去らなければならない無念さを押し殺し、むしろ晴れ晴れとした表情で言った。

「彼こそ、漢王朝を再興する鍵となりましょう。彼の知略は、必ずやあなた様のお力になると思います」

軍師を失う無念さを押し殺し、劉備は晴れやかな表情で言った。

「よくぞ、よくぞ教えてくれた。そなたを失う暗雲が晴れた心地じゃ。伏龍、諸葛亮。どのような者であろうか…。早く会ってみたいのう…」

徐庶は、自分の推挙が、劉備の今後の人生、そして諸葛亮の今後の人生を変えることになることを確信している。伏龍こと諸葛亮の顔を思い浮かべた。そろそろ世に出て、その才能を天下に示すときであろう。畑に埋もれて生涯を終えるような男ではあるまい。

「それでは、名残は惜しゅうございますが、これにて…」

徐庶は、風のように去っていった。

2、リファラル採用

『三国志演義』の一幕から、note記事を始めてみました(文章は、私が情景と心情を思い浮かべて、恥ずかしながら書いてみました)。

三国志好きな方なら、ああ、あの場面ね、と膝を打たれるかもしれません。三国志未読の方は、劉備? 諸葛亮? 徐庶…って誰よ?状態かと思います。

補足しますと、三国志演義の主人公、劉備(りゅうび)が、軍師である徐庶(じょしょ)を手放さざるを得なくなった場面です。その徐庶は、劉備の元を去る前に劉備に諸葛亮(しょかつりょう)という男を推挙します。またの名を孔明(こうめい)。そう、名軍師の代名詞にもなっている、あの諸葛孔明です。三国志演義の後半の主人公と言ってもいい。

徐庶は、それまで武勇に優れた豪傑ばかりだった劉備の陣営にあらわれた優れた軍師です。見事な作戦で敵を倒し、「軍師」はすごい存在なんだな、と読者に見せつけておきながら、「自分以上の男がいる」と推挙して、去っていく。…正史的には正しくない、創作であろうとは思いますが、小説的にはこれ以上ない効果的な演出です。完全に「天才軍師登場」の前フリです。続きが気になった方は、まずは横山光輝さんの『三国志』をお読みください。文庫版で言うと11巻、「孔明の出盧」のあたりです↓。

さて、ここで取り上げたいのは「推挙」について。

推挙、つまり「紹介」です。「この人、できる人ですから採用してはいかがですか?」と、雇用主に勧める方法。三国志の時代では、インターネットも転職サイトもありませんから、基本、誰かが誰かを推挙する形で採用が決まったりします。「赤壁の戦い」あるいは「レッドクリフ」で有名な、呉の軍師である周瑜(しゅうゆ)も、後に自分の後継者となる魯粛(ろしゅく)を採用するよう、自分の君主である孫権(そんけん)に進言したりしています。

現在、このような方法を、リファラル採用と呼ぶそうです。

リファラル=referral。…聞きなれない単語ですね。

英語辞書風に言うと、動詞refer「参照する、言及する、関係がある」ひいては「紹介する」から派生した言葉で、意味はずばり「紹介」。

ちなみに同じく「紹介する」と言う意味の「introduce」は、「初めて会うある人を、名前・職業・年齢などの情報とともに、誰かに紹介する」というニュアンス。対して、この「refer」は、「ある人のために、医師や弁護士などの専門家、あるいは特別な人脈などを紹介して、そこへ向かわせる」というニュアンスになります。徐庶の「推挙」なども、軍師という専門家を紹介しているわけですから、この「refer」の方がふさわしいでしょう。日常生活でも、町のお医者さんにかかったら大学病院の先生を「紹介」してくれた、などと言うときには、この「refer」を使います。

それで、このreferを受けて「紹介」あるいは「紹介された人」のことなどを、referralと言うらしいのです。カタカナ英語だと、リファラル

「リファレンス」ではないのか?と言われますが、referrenceは「参照、照会、保証」などを示す言葉で、図書館などで本がないかを調べたりする照会そのものを指す時に使います。

…と、ここまで書いてきて、ややこしいな~と思ったりします。そもそもが英語で、日本語ではない。何となく響きがいいから使っている感じがする。リファラル採用=要は紹介されて採用する、「知り合い紹介採用」「推挙採用」ですよね。日本語で言えばいいのに…。これは推測ですが、横文字のカタカナを使うほうが、よりカッコヨク聞こえること、また、従来の「コネ入社」「縁故採用」とは違います、あなたとは違うんです、ということを示すために、「リファラル採用」と呼んだりするのかな、と思ったりします。

3、リファラル採用のメリットとデメリット

いわゆる「コネ入社」「縁故採用」は、今までも少なからずありました。勝手に想像するのは、社長とか専務など偉い人の親戚、あるいは取引先の重役の子どもなんかが、「こいつの面倒みたってくれや」みたいなノリで、あまり実力もないのにいつのまにか採用されているイメージ。もちろんこれは偏見で、能力的にも人格的にも素晴らしいコネ入社の人もいるでしょうが、どうも「押し付けられた感」が出てしまいます。血縁者が主で、採用自体が最初から決定事項、というケースが多いですし。

一方、リファラル採用には「押し付けられた感」はありません。これは、コネ入社や縁故採用が「立場が上の者」からの紹介であるのに対し、リファラル採用はフラット。従業員など「立場が下の者」などが「推挙」する方法だからです。ゆえに、押し付けられた感はない。嫌なら雇わなければいい。

もちろん、リファラル採用には、メリットとデメリットがあります。

デメリットから先に言いましょう。天才軍師の諸葛孔明ならともかく、使えない人材だったらどうするのか?また、使えない人材を紹介してしまったら、その「この人いいですよ」と勧めた人は立場が悪くなるのではないか? 加えて、紹介する人は自分と仲が良い、言うなれば自分と似た人を紹介することが多いので、似たような人材しか集まらないのではないか? もし紹介者が辞めてしまったら、芋づる式に辞めてしまうのでは?

メリットはどうでしょうか? まず、会社にとっても紹介される人にとっても、紹介する人というワンクッションを置くわけですから、全くのゼロの人に比べて、信頼感はありますよね。「あの徐庶が言うからには、諸葛亮もすごいんだろう」みたいな。また、紹介される人にとっては、紹介者つまり知り合いが組織内にいると安心感がありますよね(徐庶は組織を去りましたが…)。紹介者を通して、組織の内情を事前に聞くことができるので、ブラック陣営、ブラック企業でないかどうかの見極めもしやすい。あと、会社にとっては、一から人材を探す手間が省ける、つまり安上がり

「リファラル採用 メリット デメリット」などのワードで検索すると、山のように出てきますので、一度ご覧ください。参考までにこちらを1つ↓。

まとめると、こんな感じでしょうか。

【リファラル採用のメリット】

①低コストで人材確保 ②専門性の高い人材確保 ③マッチングしやすい

【リファラル採用のデメリット】

①採用失敗→人間関係悪化 ②同じような人材 ③退職→芋づる式に退職

そう考えると、徐庶は自分が去る時に推挙したわけですから、デメリットを抑えながらも劉備にリファラル採用を勧めているんですね。さすが徐庶。ただ、「三顧の礼」で劉備陣営に加わった諸葛亮は、徐庶という知り合いがいないので、最初は同僚たちに信頼されずに人間関係で苦労した感じですが(最終的にはベストマッチングなんですけど…)。

4、リファラル採用は万能ではない

以前は徐庶のように直接教えるか、または手紙などで間接的に知らせるかしかなかったリファラル採用。しかし現在では、サイトもSNSもたくさんありますので、とてもやりやすくなっています。

例えば、岩崎由夏さんは「YOUTRUST」を立ち上げて、「友達の転職・副業意欲が見える」サービスを提供されています。ありそうでなかったサービス。「意欲の見える化」ですね↓。

株式会社リフカムでは、「リファラル採用を活性化するサービス」である「Refcome」を提供されています↓。

株式会社リフカムの、ミッションのページには最初にこう書かれています。「採用を仲間集めに。」。一部ですが、下記に文章を引用します↓。

「実態よりも良く魅せて、人事担当者だけで、採用人数を追い求めていく」
そんな採用は、もう終わりにしましょう。 採用を、「仲間集め」に変革する。 それを果たすことができたとき、働く人も、会社も、おたがいにとって幸せな世の中となるはず。

このようなリファラル採用は、増えています。国内初のリファラル採用ツール「MyRefer」を運営している、株式会社MyReferのCEO鈴木貴史さんによると、ここ4年でリファラル採用を行う企業は、3倍に増えたそうです。しかし、だからこそ気を付けなければいけないこともある↓。

この記事の中で鈴木貴史さんは、次の5つはNGだと言っています。①年収や残業時間などの条件確認を怠る、②「なんとなく良さそう」で転職を決める、③会社情報をよく調べず面接に行く、④あっさりもらった内定をすぐ承諾する、⑤本音を隠してフェードアウトする。…親しき仲にも礼儀あり、と言ったところでしょうか。しっかりとお互いに、確認すべきところは確認してから入社を検討する。これがミスマッチングやトラブルを防ぐ策ですね。

この記事の最後の文章を、一部引用します↓。

「リファラル採用はあくまで転職手法の一つです。むしろ通常の転職活動の際に『リアルな情報収集を通じてミスマッチが防げる』というリファラル採用の利点を生かしていただきたいですね。希望の会社で働く知人に話が聞ければ理想的ですが、競合に当たる他社や近しい業界にいる人から仕事の実態や希望の会社の評判などの情報を得られれば、後悔しない転職ができるはず。自分の市場価値を高め、自分の描くキャリアを実現するための手法として、そのメリットを上手く活用していただきたいと思います」

リファラル採用は万能ではない。会社と人材、どちらにとっても。

既存の手法を踏まえて、あくまで一つの手法として、タイミングや事業・業界の環境、既存のメンバー、自分のやりたいこと、それらを見極める。そしてその時々で、適切な手法を考えて、実際に行動をしていくことこそが大事だと思いました。

5、逃げ恥

それでは、締めの代わりに、1つ漫画をご紹介しましょう↓。

海野つなみさんの『逃げるは恥だが役に立つ』です。人呼んで「逃げ恥」です。ガッキー主演でドラマ化され、大ブームになりましたね! この漫画では、IT系の企業に勤める人が知人の紹介で転職したりしています(あんまり詳しく言うとネタバレになるので…)。そもそもの設定が「契約結婚」「擬装結婚」ですので、お仕事そのものの意義を考えるのにも、とても良い漫画です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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