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『弱いほうが強い!』という逆説的な話です。

「弱い紐帯」が大事だ、という言説や理論を、
最近よく聞く気がしませんか?

曰く、強い紐帯はつながりが強いがゆえに、
同じ話題や情報を繰り返したり、
暗黙の了解に縛られたりして、
新しい情報、知見が得られにくい。

それに対して、弱い紐帯のほうが、
(自分にとって)斬新な知見や
新しい情報が得られやすくて、
「強み」がある…。

「確かにそうかもしれないが、
そもそもこの考えを言い出したのは誰で、
いつ頃のことなのだろう?」

私は、そう疑問に思ったんです。
つまり、元ネタはどこか
恥ずかしながら知りませんでした。

そこで、調べてみた。
「マーク・グラノヴェッター」という
人の名前が出てきました。
Mark Granowetter。
アメリカ合衆国の社会学者…!?

この理論が発表されたのは、1973年。
2024年から見れば
「約50年」も昔のことなんですね!
新しい斬新な理論なのかと思ったら
かなり前に提唱されていた…。

本記事では、マーク・グラノヴェッターに
着目しつつ、この「強さ」を書いてみます。

まずは、彼の略歴から行きましょう。

1943年生まれ。2024年時点で81歳。
1970年にハーバード大学で博士号を取った。
ニューヨーク州立大学ストーニー・ブルック校、
ノース・ウェスタン大学を経て、
1995年からスタンフォード大学に勤務…。

「新しい経済社会学」の指導者の一人です。

「経済社会学」とは
経済を「社会学」の見地から考えるもの。
『経済学』と言えば、
経済についてモデルなどを用いて
需要や供給などを分析する学問です。
これに対して『社会学』は、
価値、制度、ネットワークなど、
それまで経済学が重視してこなかった
いわば「マニアック」な要因から、
社会を解き明かしていく
学問。

「新しい経済社会学」では、
経済と社会は有機的に、
相互に、ガチッと結びついており、
経済の理解には「社会構造」こそ
理解することが大事なのだ…
と説きます。

このグラノヴェッターさん、
何の研究をしたか?と言いますと…。
たくさんの業績の中から、
2つ、有名な論文を挙げましょう。

◆The Strength of Weak Ties (1973年)
◆Economic Action and Social Structure:
The Problem of Embeddedness (1985年)

直訳すれば、こうです。

◆弱いつながりの強さ(1973年)
◆経済活動と社会構造:埋め込みの問題(1985年)

1970年、27歳のグラノヴェッターさんは、
ボストン郊外の282人の
ホワイトカラー労働者の男性を対象に
調査を実施しました。

「どのように労働者と職業の
『マッチング』は生み出されるのか?」


その結果は、意外なものでした。

転職する際に『労働者は強い紐帯、
つまり「いつも会う」人より、
弱い紐帯を持っている人、つまり
「数回にしか会わない」人から
役に立つ就業情報を得ている

という傾向を見つけたのです。

彼はこの傾向を分析し、1973年に、
『弱い紐帯の仮説』として発表する。

『いつも会っている人々は、
「既に知られている同じ情報」を
共有する社会構造的な傾向があるため、
労働者は、たまに会う人から
多くの「新しい情報」を入手している
可能性がある
』という仮説です。

さらに1985年に
『埋め込み(embeddedness)』
という概念を発表。
高らかに「新しい経済社会学」と命名する…。

embeddednessの概念は、
この10年前の1975年、
カール・ポランニーによって
「人間の経済は経済的な制度と
非経済的な制度に『埋め込まれて、
編み込まれている』」として
用いられた概念です。

グラノヴェッターさんはこれを
「全ての」市場過程に当てはまるとした。
要は『経済活動は「社会的メカニズム」を
媒介にして起こる』
という考えですね。

抽象的で理想的な市場は現実には存在しない。

人間と人間、組織と組織とのつながり、
その『ネットワーク』こそが重要だ…と。

「人や組織のつながりでネットワークができ、
それが経済へとつながっていく。
当たり前のことを言っているだけのような…」

そう思いましたか?

いや、SNS全盛の現代から見れば
そう思えますけれども、

当時は、かなり画期的な理論だった。
この70年代~80年代あたりから
社会的なネットワークの分析が
活発になっていった…と言えるのです。

彼は『ブリッジ』という言葉を使います。
直訳すれば『橋』。

これが『経路』『紐帯』につながる。

なぜ「弱い紐帯」が強いのか?
それは「広がり」を持つから。
逆に言えば
強い紐帯は広がりを「持たない」。

例えば、ある人が
自分の親しい友人たち全員に噂話をして、
その友人たちが同じように自分の友人に
噂話をしたらどうなるか?

その友人たちの多くは「同じ噂話」を
何回も繰り返し聞くことになる。
強い紐帯で結ばれた人々は、
「共通の友人がいる」がゆえに、
同じ情報がそこで巡りやすい
のです。
「クリークを越えられない」
などの表現をする。クリークとはここでは
「社会的な派閥や小集団」を指します)

これに対して『弱い紐帯』では?
つまり、共通の友人がいない場合。

この場合、噂話が「他のクリーク」へ
飛び火しやすい。広がりやすい…。


…学校のクラスメートとのつながりなどを
イメージすると良いかもしれません。

「いつも同じメンバー」
いわゆる「いつメン」の中だけでは、
徐々に価値観が似て、同じ情報を回し、
いつのまにか「閉鎖的」「排他的」に
なってしまうことがあります。


それに対して、いつメンはいないが
薄くても広く、誰とでもつきあえる人は?
グループやクラスの垣根を越え、かえって
多くの情報を得ることができる…。

グラノヴェッターさんは、1970年の実験で、
『転職情報をくれた人と
どの程度会っていたか?』と聞きました。
この問いに対しての結果は、以下の通り。

◆頻繁(週2回以上):16.7%
◆時々(週2回~年2回):55.6%
◆めったに会わない:27.8%

「頻繁に会う強い紐帯」の人より、
弱い紐帯の人から
転職につながる情報を得ていた…。

最後に、まとめます。

本記事は「弱い紐帯の強み」について、
グラノヴェッターさんの略歴と
その仮説から書いてみました

LinkedInでは、
「強い紐帯」「弱い紐帯」どちらも
築き上げられるツールが揃っています。


その広がりは、無限…。

読者の皆様は、どのようなつながり、
紐帯をつくっていますか?
無意識のうちに「強い紐帯」だけを重視して、
「弱い紐帯」の構築を
おろそかにしてはいませんか?


意識的に、自分の価値観や居場所とは異なる
異質の人たちとの「弱い紐帯」を
広げてみてはいかがでしょう?

※誤解を避けるために補足しますと、
マーク・グラノヴェッターさんの仮説は
「強い紐帯」がダメだ、いけない、という
ことではありません。
「強い紐帯」だけではなくて、
「強い紐帯」「弱い紐帯」それぞれの特徴を踏まえて、
両方をうまく構築していくのはいかがでしょう

という提案かと思われます↓

※グラノヴェッターさんの著作の一つ、
『社会と経済:枠組みと原則』

※私がLinkedIn上で運営している
「千差万別キャリア自己紹介部」では、
意識的に、異質な価値観やキャリアを
言語化、見える化するような試みを
ゆるふわに行っております↓

よろしければ、ぜひどうぞ!

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