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機能別組織は破綻に向かう。KPI毎にチームを組成する”多極分散型”組織のススメ

メンバーみんなに活き活きと、自立自走して働いてもらいたい。

そういった想いは、起業家・経営者なら誰しも強く思っているところだと思います。一方で、実際に「自分の会社ではそれが実現できている」という会社は多くなく、多くの会社で「どうしたらもっとメンバーが当事者意識を持ってくれるんだろう」、「どんどん決めて欲しいのに、なぜいちいち確認されるんだろう」などの悩みを持っていることと思います。

ご多分にもれず、ナイルでもそういった悩みがあり、創業以来12年にわたり、幾たびも組織づくりのための施策を走らせてきました。その中で、ここ数年は「多極分散型の意思決定組織」を意識して作ってきて、それが今だいぶ機能してきています。本記事ではナイルの組織変遷についても簡単に紹介しつつ、組織についての私の考え方について公開させていただきます。少しでも多くの経営者の一助となれば幸いです。

トップダウンとボトムアップ

組織についてよく聞かれるのが「トップダウンとボトムアップ」という議論です。「ボトムアップで解決策が出てこないのはやばい」などの文脈でよく聞かれますよね。

結論から言うと、ボトムアップでうまくいってる会社を私はこれまで見たことがありません。断言しますが、仮にボトムアップでうまくいっている会社があったとして、それは相当難易度の高いことを実行することに成功した稀有な存在だと思います。

事業・組織を運営していく上で、情報は当然に組織の上流に集まります。

である以上、組織の末端のメンバーが全体のことを考えて適切な打ち手を打てるということはありえません。

もしあるとしたら、組織の末端メンバーの眼前に広がっている課題に対する対処なのですが、これをいちいちボトムアップしてたら時間がいくらあっても足りません。つまり、そんなものは本来全て現場で解決されるべきものであり、「うちは現場メンバーが課題についてエスカレーションしてくれるボトムアップな組織が出来ている」と言っている経営者がいるとしたら、かなりおめでたいと言わざるを得ません。それ思いっきりトップダウンです。決裁権を上流に集約しているということですからね。

ちなみに2007年〜2009年までのナイルはまさにこのおめでたい状況にありました。トップダウンの何がまずいかというと、決裁権が上に集中することで施策の速度が遅い、打ち手の数が少ないという問題が発生することです。多くの会社が権限を現場に移譲して高速PDCAを回しながら戦っている市場では、こういった組織体は致命的に弱いです。

機能別組織と目的別組織

次によくある議論が、機能別組織と目的別組織です。

機能別組織は、例えば開発だけが所属する開発室を作り、全ての開発事案をこの箱の中でこなそう、とか複数のプロダクトの指標を良くするチームを5人くらいで作ろうというような発想のことを指します。

一方、目的別組織は、例えば受注を最大化するというゴールがあったとして、それを目的としたチームが職種に関係なく作られている目的ドリブンな組織を指します。

ナイルでは(私の不確かな記憶によると)2010年〜2016年くらいは機能別組織を作っていたと思います。特にエンジニアチームについては、複数のプロダクトがある中で、エンジニアのリソースを最大限効率的に運用し、かつ労働満足度を高めるために、開発室という組織を作り力を入れました。

結果、何が起きたかというとエンジニアを中心に大量離脱が発生しました。そしてその結論として、ナイルでは、機能別組織は極力作らないというコンセンサスが経営陣の中でとられています

まさに、開発事案をすべてこなす開発室を私の決断で作ってしまったのですが、これがかなり大きな問題を抱えました。何が起きたかというと、開発室のメンバーのプロジェクトに対する帰属意識がSier化しました。つまり外注業者のようになってしまったのです(ちなみに誰かを責めているわけでもなんでもなく、経営者である私の落ち度でした)

プロジェクトの成功がゴールなのに、求められていた要件を満たすことがゴールになったりします。事業部の中で、事業部の采配でリソースがふるえなくなることで、開発の優先度に問題が起き始めるし、事業のためではなくエンジニアの満足度や効率性のために開発物を作ってしまうという問題も発生しました。

エンジニアが働きやすい環境というと聞こえはいいですが、事業をスケールさせなければいけないフェーズにおいて、エンジニアだけが好き勝手に仕事をできてしまう治外法権的状況が生まれ、組織のハレーションをかなり生んでしまったと思います

目的別組織と多極分散型意思決定組織

上記のような変遷もあり、ナイルでは開発室を解体。2017年頭ごろから徐々に目的別組織への移行が始まりました。そして、2017年の後半からは、目的別組織を前提としつつ多極分散型の意思決定組織へと変化を始めています。

目的別組織に変えていった成果はすぐに現れました。一つのゴールに向けたメンバーが組織の中に集まっている状態が作られたことで、職種の違いを超え、みんなのフォーカスポイントが明確になりました。

多極分散型意思決定組織とは、誰か一人に意思決定権限が集中するのではなく、色々なところに権限が分散している状態を指します。目的別組織が浸透した状況からの多極分散型の意思決定組織への移行はかなり容易でした。

何をやったかというと、目的をKPIツリーで細分化したのです。例えば先の目的別組織で紹介した「受注を最大化するチーム」について言えば、受注を構成するKPIは「商談数×受注率×単価」と分解できます。そこで、商談を取るためのチーム、受注率を上げるための営業チーム、受注単価を上げるための商品企画チームをそれぞれ作ったのです

これが結果として組織における大きなブレイクスルーになりました。何らかの目的があったとして、それはいくつかの指標の掛け算で作られています。これを全て同時に追うとなると人間の集中力が持ちません。指標1つについて徹底的に考えてもらい、打破する方策を探ってもらうことで始めて大きな成果が出始めます

結果として、当社のモビリティサービス事業においては事業責任者の私はリソースを3割程度しか使っていません。多くの事案が、各KPIチームの中で意思決定されており、私が全く関与しない成果の掛け算によって、しっかりと事業成果を出していける状態になっています

上記をOKR制度の中で3ヶ月ごとにPDCAし続ける状態とすることで、多極分散型意思決定組織において弊害として発生しがちなセクショナリズムによるリソースの偏りや適切な意思決定をできない人間がチームのトップになるリスクをカバーしています。

「自分が決める」から人の決断を支援する文化へ

起業してから実に9年間くらいの間(長い)、自分がもっとも適切な意思決定ができるから自分がしっかりしなければという意識が強かったですが、実は権限と責任の与え方が下手だっただけで、メンバーには課題を自力で解決していける能力が十分にあるのだとわかってきました。

もちろん、意思決定権限を持ったメンバーの中には戸惑ったり、適切に権限を行使できなかったりする人もいます。彼らをフォローアップするために、私は自分の直接の部下全員と原則週1回の1on1をします。その上で、私の支援が必要なくなってくるならその頻度を落としていくかたちです。

1on1で大事にしているのは、「自分が決めない」ということ。助言をしたり、気づきを与えるだけで、最終的に決めるのはメンバー自身

昔は「こうすればいいじゃん、そうしたらこうなるじゃん」っという具体的なアクションまで提示していましたが、これは当事者意識を損なってしまいます。正しいことよりも、本人の心が燃えるきっかけを与えることの方が重要です。

「こうしろ」と指示をするのではなく、「こういうことって考えた?」「この本読んでみるといいよ」「このアナロジーを活用できるんじゃないの?」「経営者として、私はこういう結果に期待しているよ」など、本人が気づきを得て自分で決めて進むことができるような言葉をかける。あとは、期待を伝えてやり方は任せる。なるべく人の気持ちをレバレッジさせるようなマネジメントを意識しています。

現在ナイルでは自社で独自の組織サーベイを取っていますが、カルモなど多極分散型の組織に移行している事業部の労働満足度は非常に高い水準になっています。

今後も会社全体でエッセンスを共有しながら、社員一人ひとりが権限と責任を持つ、事業家集団を目指していきたいと思います。