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「名言との対話」7月19日。猿谷要「私はアメリカとの付き合いに、一生をかけてきたような気がする」

猿谷 要(さるや かなめ、1923年7月19日 - 2011年1月3日)は、日本のアメリカ史研究者。

東京生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。ハーバード大学の客員研究員などを経て、1971年に東京女子大学教授となる。

第2次世界大戦中は陸軍パイロットで、敵国アメリカに興味を抱いたのが研究の道に入ったきっかけという。黒人や日系アメリカ人、さらに少数民族などの視点からの研究を専門とする。軽快な語り口で歴史叙述を行い、アメリカ史についての知識を広めることに貢献した。

猿谷要『アメリカ大統領物語』(新書館)を読んだ。

アメリカ大統領は国家元首、行政府の長、陸海空軍の総司令官、政党党首、そして道徳を体現するリーダーであるから、大変な重責だ。この本は歴代の40数人の大統領のそれぞれの紹介をしながら、アメリカ史を概観できる構成になっている。それぞれの大統領が登場した背景、業績、私生活などが手際よくまとめられている、総責任者としてこれ以上の人はいないだろう。

大統領のランクづけが興味深い。学者とジャーナリストが数十名参加してランクが5段階で決まる。Aランクは11人いる。1位はリンカーン。2位はワシントン。3位はFDRルーズベルト。4位はセオドア・ルーズベルト。5位はアイゼンハワー。6位はトルーマン。7位はジェファーソン。8位はケネディ。9位はレーガン。10位はジョンソン。11位はウィルソン。そしてオバマは12位でBランクのトップと高い評価となっている。

18世紀末から19世紀初めの建国時、19世紀の中盤の南北戦争という国家分裂の危機時、そして20世紀の前半から中盤にかけては7人も選ばれている。20世紀はアメリカの世紀であることがわかる。

猿谷は建国時というもっとも困難な時期にワシントンのような卓越した人物がいたことを幸運としている。2代目のアダムズについての項を終えるにあたって、「建国の祖父」の時代と記している。この本は、猿谷が育てた弟子たちのリレー執筆となっており統一感があり、また副大統領、ファーストレディなどのコラムも読ませる。人物によるアメリカ史になっており、優れたアメリカ史入門書だと感じた。

猿谷要は1956年の「アメリカ発展小史」(三和書房) から、2009年の「アメリカ黒人解放史」(二玄社) まで、アメリカに関する40冊に近い大量の本を書いている。

黒人史。アメリカ史。リンカーン。旅行記。西部開拓史。日米関係。ニューヨーク。キング牧師。ハワイ王朝。女性。アメリカ史の人物。ケネディ。、、、、。まさに一生をかけて追い求めたライフワークは壮観だ。一人の人物が一つの国についてこれほどの質の高い大量の本を書くことに驚きを覚える。私もいくつかの本は手にした記憶がある。

アメリカを熟知した猿谷は、晩年になって編集した2003年刊行の「アメリカよ!」では、イラク戦争で浮き彫りなったアメリカの姿の読み方を、各界28人のアメリカ通の緊急提言をまとめて提示している。

その延長線上に、2006年刊行の「アメリカよ、美しく年をとれ」(岩波新書)を書く。若く躍動的な国であったアメリカは、20世紀には超大国になった。そして21世紀を迎えて衰退の兆しがみえる。アメリカをこよなく愛する猿谷は、大英帝国と同じように、アメリカには老醜をさらさずに、美しい姿で生き延びて欲しいと願う。長年の恋人を心配している心境を語っている。

「私はアメリカとの付き合いに、一生をかけてきたような気がする」と述懐している猿谷要の、アメリカへの最後の愛のメッセージだ。


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