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「名言との対話」 7月29日。辻邦生「死ぬまで続ける」

辻 邦生(つじ くにお、1925年(大正14年)9月24日 - 1999年(平成11年)7月29日)は、日本の小説家、フランス文学者。

1957年から1961年までフランスに留学。1963年、長篇『廻廊にて』を上梓し、近代文学賞を受賞。この後、芸術選奨新人賞を得た1968年の『安土往還記』や1972年に毎日芸術賞を受けた『背教者ユリアヌス』等、独自の歴史小説を次々と発表。1995年には『西行花伝』により谷崎潤一郎賞受賞。他の作品に、光悦・宗達・素庵を描いた歴史ロマン『嵯峨野明月記』、メディチ家とボッティチェルリの生涯を描いた『春の戴冠』等がある。

辻邦生と北杜夫の対談本『完全版若き日と文学と』(中公文庫)を読んだ。2人は旧制松本高校以来の気の置けない友人である。辻の発言を追う。

「子供の頃から本を書く人になりたいと思っていた」。「芸術家っていうのは、非常な速度で人生を突っ切っていって、どうもその向こう方に出て行ってしまうんじゃないかと思うわけだ」。「小説家は天国から地獄まで見ている」。「この世の事は結局は有限だと思う。文学者はそれを超えるということが大事だと思う」「保留をつける。知ったことを固定化しないで、さらにより広く広げていく」「いつもストレート球しかほうらないもの」「生命とは歓喜であり、文学はそれを自覚させる手段である」。

「長編には無駄な部分が必要だ」との北杜夫のアドバイスを受けて、2000枚を超える長編『背教者ユリアヌス』で、ガリア統治を成し遂げ皇帝に即位するユリアヌスの生涯を描く。私も長いファンである北杜夫の長編『楡家の人々』は2年半で1500枚だ。どちらも史実にのっとった小説である。私が毎日書いている「名言との対話」は一回6枚とすると一年間で2000枚を超える、4枚とすると1500枚になる。ペースがわかる感じがする。

北杜夫が、2人の極端な資質の差からかえって気楽に読める漫才となっているのではなかろうかと語っているように、 2人の対談は面白く、かつ実がある。2人の共通項はトーマス・マンである。マンの師匠はゲーテだということだ。作品には、著者の性格と気質が出るという結論は二人に共通している。

信濃毎日新聞で連載したエッセイは、「死ぬまで続ける」の言葉どおり、急逝の直前まで続き、『辻邦生が見た20世紀末』として出版されている。それを証明するように 妻の辻佐保子 には『たえず書く人 辻邦生と暮らして』( 中央公論新社)というエッセイがある。北杜夫が全集は15巻なのに対し、躁鬱に悩まされる北杜夫とは対照的に、禁欲的、継続的に仕事をし続けた正統の速球派の端正な顔立ちの辻邦生は、12年も早く亡くなったにもかかわらず『辻邦生全集 』( 新潮社)は全20巻という厚みがある。学習院大学史料館に辻邦生関係資料がある。これを機会に前々から気になっていた代表作『背教者ユリアヌス』を手にしたい。

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