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アヴァンのちポップ

昨日はクリス・デイヴィスをかなりしっかりと複数回聴き、その次にビリー・アイリッシュを聴きました。シリアスでハードなインストルメンタル・ジャズのあとにはポップなヴォーカルものを聴きたくなるのがぼくのいつもの傾向で、そしてしばらくヴォーカルものが続くとやはりその後ジャズとかがいいっていう、つまりこれはバランスみたいなものを自分なりにとっているということなんでしょうね。

必ずしもインストルメンタル vs ヴォーカルっていうわけでもなくて、たとえばブラジルのショーロなんかも楽器演奏中心の音楽ですけど、どれだけ続けて聴いても飽きたような気分にならないですからね。ジャズでも、聴いていてこのあとポップなヴォーカルものを聴きた〜い!とは感じないものだってたくさんありますから、自分でもなんだか基準がよくわかりません。

たぶんですね、ジャズのなかでもフリーにハードにアヴァンギャルドに、ソロでブロウしまくっているようなものをどんどん聴くと、その後はポップ・ヴォーカルがいいという気分になっていそうな気がします。複雑な変拍子とかもヤバイな。だからつまり、クリス・デイヴィスってそんな感じじゃないですか。ああいったハード・ボイルドなジャズのあとにはビリー・アイリッシュみたいなのが聴きたいんですよ。

ビリー・アイリッシュを選んだのはとくに理由とかなかったんですけど、そのときの気分というか、ほら、こないだグラミー賞をたくさん獲ったでしょ、それでじゃあどんな歌をやるのかな?とちょっぴり興味があったんですよね。そんなときにパパッとすぐ聴けるサブスクで覗いてみたわけです。ビリー・アイリッシュがどうこうってことはないです、ただなんとなくの中和剤がほしかっただけですから。ビーチ・ボーイズとかでもよかったんです。

こういったあたり、一個のアルバムなどでインストルメンタルとヴォーカルがちょうどいいバランスで出てくるものだと助かります。たとえばフランク・ザッパ 。楽器演奏部分はかなりハードでむずかしい面もあり、アヴァンギャルドなジャズや現代音楽に接近したりしていますが、そのいっぽうでドゥー・ワップ・ヴォーカルみたいなポップなものだってまじって出てきますからね。

そのへんがザッパ(や戦前ジャズ)が麻薬になる理由の一つで、バランスが実にいいんですね。楽器演奏部分はちょっとプログレっぽいような面も持ちつつ、反面とことんキュートでポップでわかりやすい歌ものがあって、それが一個のアルバムのなかにまじって聴こえてくるというのがこれらのスペシャルなところです。なかなかここまでの多彩な音楽性ってないですからね。

じゃあザッパ(とか戦前ジャズ)だけをずっと聴いていればいいかっていうとそうでもないから、自分でもよくわかりません。しばらくザッパとかを聴くと、そのあとたとえばジェイムズ・ブラウンとかマディ・ウォーターズみたいなのを聴きたくなります。なにもかもを満たすという一人の音楽家がいればラクチンかもしれないですけど、世のなかそんなイージーにはできていないですね。

要するに「歌って」いるかどうか、ということがぼくにとっての大きなポイントなんでしょう。この「歌って」いるかどうかはヴォーカルものということでも必ずしもなくて、楽器演奏のもでもよく歌っているものならどんどん聴いて気持ちいいっていう、そんなことかなあって思いますよ。上で書きましたようにショーロならいくらでも聴いていられるというのもここに原因があるという気がするんですね。クラシックでもジャズでもいわゆる歌心がある演奏だとポップに感じます。

だからヴォーカルものでも「歌」が聴こえないやつだと、そんなにどんどん続けては聴かないですね。

そんないわゆる歌心のない、というかそういったのとは別の世界にジャズも最近行っているような気がするんで、クリス・デイヴィスなんかもそうだし、いわゆる21世紀型最新ジャズとかですね、そうじゃないですか。なかにはかなりグッとくるいいもの、おもしろいものだってあると思うんですけど、いつもいつもずっと聴いていようと思わないのは、ここまで書いてきたようなぼくの嗜好によるものじゃないかという気がします。

個人的には歌心とペンタトニック・スケール(ブルーズでよく使うやつ)とラテン・リズムかな、やっぱり。この三つが揃う音楽が快感なんです。それがあるからこそ、ときたまアヴァンでフリーな現代ジャズとかもまぜて聴けるっていう。

(written 2020.2.2)

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