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ブライアン・リンチの豊穣

(4 min read)

Brian Lynch Big Band / The Omni-American Book Club: My Journey Through Literature In Music

Astral さんのブログで教えていただきました。

ブライアン・リンチ・ビッグ・バンドの『ジ・オムニ-アメリカン・ブック・クラブ:マイ・ジャーニー・スルー・リタラチャー・イン・ミュージック』(2019)。昨年度のグラミー賞でジャズ・ラージ・アンサンブル部門を受賞したアルバムだそうです。Astral さんに教えていただくまでなにも知りませんでした。でもジャケットがなかなか雰囲気ですよね。きっと中身もこれはいいぞと直感して耳に入れてみたら大正解。これは傑作でしょう。

フロリダ大学のフロスト・スクール・オヴ・ミュージックで教えるブライアン・リンチの同僚や学生たちを中心に編成されたビッグ・バンド+多数の著名ゲスト・ソロイストたちで録音されたこの『ジ・オムニ-アメリカン・ブック・クラブ』は、アフロ・カリビアン・ジャズとストレート・アヘッドなジャズとのブレンドと言えるでしょうね。はっきりとしたアフロ・キューバン・ナンバー、メインストリーム・ジャズ・ナンバー、両者合体のナンバーと、三種並んでいるように思います。

ラテン・ミュージックのある意味象徴的な管楽器ともいえるフルートがなめらかにすべりこんでくる1曲目「クルーシブル・フォー・クライシス」からグイグイとこのアルバムの音楽世界にひきずりこまれます。この1曲目はラテンとメインストリームの合体といえるスケールの大きなナンバーで、コンポーザー/アレンジャーとしてのブライアン・リンチの優秀で豊穣な才能を見せつけたスケールの大きな一曲ですね。跳ねるリズムもカリビアンながら、ストレート・ジャズのフィーリングもあります。

全体的にアンサンブルとソロのバランスがとてもうまくとれているのが大きな好印象のこのアルバム、続く2曲目もラテンふうなストレート・ジャズですが、3曲目「アフェクティヴ・アフィニティーズ」ではっきりとアフロ・キューバンに舵を切ります。これはボレーロで、後半がチャチャチャ。ヴァイオリンがなんともいえず実にいい感じで響きますよね。パーカッションの響きも上品でコクがあります。リズムの上に乗るアンサンブルも極上のエレガンスで、ラテン・ボレーロ/チャチャチャならではの官能を引き立てていますね。

すべての曲でブライアン・リンチはホーン・アンサンブルを書いているだけでなくリズムもアレンジしていると思うんですけど、全体にわたりそれがきわだってすばらしく、どの曲でも有機的に一体化していて、スムースに流れるところ、ドラマティックにもりあがるところと、それぞれみごとで、計算され尽くしているようでいてスポンティニアスななめらかさがあり、ヴィヴィッドで、も〜うこのペンの前には降参ですね。ラテン・ジャズ・トランペッターとしてはぼくもいままでちょっとだけなら聴いてきたひとですけど、作編曲でこれだけあざやかな仕事ができるとはビックリです。

アルバム後半の6曲目「トリビュート・トゥ・ブルー(・ミッチェル)」からは主にストレート・ジャズで構成されていてリズムも4/4拍子ばかりですが、聴きごたえがあります。8曲目「アフリカ・マイ・ランド」だけは曲題どおりアフロ・ラテン方向へ向いた一曲。パーカッションが西アフリカ系のリズムを刻みはじめてから、その後そこに徐々に音が加わっていきます。アフリカン・リズムはこの曲全体をずっと貫いていますし、ホーン・アンサンブルは点描的に折り重なります。ピアノはちょっぴりサルサっぽくもあり。

ストレート・ジャズ・ナンバーのなかでは9曲目の「ウディ・ショウ」の出来が出色だなと思いますし、それ以上にやはり1、3、8曲目などアフロ・カリビアン方向にあるものがかなりの充実を感じさせるし、ゲスト・ソロイストの演奏内容もいいけど、バンドのリズムやアンサンブルがそれにも増してゴージャスで、全者あいまってブライアン・リンチというジャズ作編曲家&バンド・リーダーの最高度の豊穣を見せつけたマスターピースに違いありません。

(written 2020.2.17)

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