見出し画像

モダンでポップなターキッシュ・フォークロア 〜 アイフェール・ヴァルダール

(4 min read)

Ayfer Vardar / Sır

アイフェール・ヴァルダールという読みでいいでしょうか、Ayfer Vardar。トルコの歌手です。そのアルバム『Sır』(2019)をエル・スールのホーム・ページで見て、それまでちっとも知らなかったひとですけど、歌手名とジャケットの雰囲気になんだかピンとくるものがあって、Spotify検索してみたらすんなり見つかったので、聴いてみました。

カラン・レーベルが出しているハルク(民謡)・アルバムということで、さすが内容はしっかりしていますね。『Sır』、かなりいいと思います。最大の特色は、だれがつくったともわからない民謡ばかりとりあげつつ、かなりモダンでポップなアレンジを施してあるところ。それは伴奏の楽器編成にも端的に表れています。

アクースティック・ギターやピアノなどが中心で、ドラム・セット+パーカッションの組み合わせがダイナミックなリズムを刻んだりする曲もあります。さらにストリング・アンサンブルが起用されていて、曲によってはかなりダイナミックなオーケストレイションを聴かせるものだってあり。エレクトロニクスもちょっぴり活用されているようです。

特にいちばん活躍しているのはスティール弦のアクースティック・ギターでしょうか。カランという会社はわりとこういうのが得意だという面があって、ハルクだけでなくオスマン古典歌謡なんかでも現代的な楽器編成とモダンなアレンジで楽しく聴きやすく仕上げることがありますよね。このアイフェール・ヴァルダールのアルバムでも、なにも知らずに聴いたら民謡が素材とは到底思えないポップな聴きやすさを実現しているなと思います。

ちょっとアメリカン・フォークみたいだったり、ものによってはポップ/ロック・ミュージックっぽい曲調にアレンジしてあったりなどして、それでもサズ(はアイフェール自身かも)やウードなど伝統楽器もそこそこ使われているんですけど、モダンな楽器&アレンジとのブレンド具合が絶妙で、これ、アレンジャーやプロデューサーがだれだったのか、とても知りたい気分です。正規の音楽教育を受けたアイフェール自身かもしれないんですけれども。

彼女の歌声そのものも、ちょっぴりモダンというか、ハルク向きというだけじゃなく現代的なポップスでも似合いそうな資質を持っているんじゃないかと聴こえます。パワフルに声を張ったりしながらも、落ち着いておだやかに揺れるような、それでいてメランコリックで、かつ澄んだ声ですよね。澄んでいながらややくぐもったような、陰なフィーリングもあります。哀感をともなった切ないフィーリングでフレーズをまわす歌いかたがなんともすばらしいですね。

ハルク・アルバムですけれども、モダンでポップなフォークロア。そう呼んでいいと思います。伝統ものは伝統的スタイルでやったほうが好きだと思われる向きにはイマイチかもしれませんが、この歌手の過去の作品には伝統スタイルでやったものがあったりしますから、要検索。

(written 2020.8.6)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?