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プリンス1987年大晦日のペイズリー・パーク・コンサート

(12 min read)

Prince - Sign O The Times (Super Deluxe Edition) disc 9 DVD

2020年9月25日にリリースされたプリンス『サイン・オ・ザ・タイムズ』スーパー・デラックス・エディションの九枚目DVDは、1987年12月31日、ミネソタはミネアポリスにあるプリンスの本拠地ペイズリー・パークで行なわれたベネフット・コンサートをフル収録したものです。同年の『サイン・オ・ザ・タイムズ』発売記念ワールド・ツアーの最終日。

それがYouTubeで完全無料フル公開されていますので(上掲リンク)、フィジカル買わない人間でも問題なく楽しむことができるんですね。いやあ、ありがたいありがたい。と思うと同時に、いまやこれからはこういったリリース形態がスタンダードになってほしいという時代感覚もあります。音楽フィジカルの時代は終わっているんですから。

この1987年大晦日コンサート最大の話題は、やはりなんといってもジャズ・レジェンド、マイルズ ・デイヴィスとのステージでの唯一の共演がふくまれている、それが観られるということでしょう。たぶん熱望したのはマイルズ側で、前年にワーナーに移籍してレーベル・メイトになっていたマイルズは、音楽的にプリンスに接近していましたし、現実の交流も望んでいました。

ステージでも共演したかったはずで、日頃からマイルズ はプリンスのコンサートに参加する機会をうかがっていたのかもしれないですね。そこへもってきて1987年大晦日に規模の大きなベネフィット・コンサートをやるとなって、じゃあというんで、プリンス側もマイルズにちょっとやらないかと持ちかけたのではないでしょうか。

公式YouTube音源の説明文にはセット・リストが添えられていて、その左に書いてある時刻をクリックすればその曲へジャンプしますので、1:43:51 の「マイルズ・デイヴィス・ジャム」をご覧ください。曲はアンコールだった「イッツ・ゴナ・ビー・ア・ビューティフル・ナイト」です。

パープルの衣装(!)を着たマイルズは、しばらくたむろしてからおもむろにオープン・ホーンで吹きはじめます。バック・バンドに演奏させておいてその上で適当にパラパラっと遊ぶようにフレーズをつむぐというのはこの時期あたりから自分のバンドでもマイルズはやっていたことです。

マイルズが吹いているあいだはプリンスも完全に主役を譲っている感じ。ステージ上をぶらぶらしているだけで、バンドに指示する以外とくになにもしていないですね。四分ほどマイルズが吹き、ツー・ショットにおさまって、ステージ上手(向かって右)にマイルズが消えていく際に「Mr. Miles Davis!」との声で見送ります。

さてさて、この日のライヴ全体は1987年の『サイン・オ・ザ・タイムズ』ツアーの最終日でしたが、きのう書いた同年六月のユトレヒト・ライヴと基本的な流れは同じです。この二枚組新作からの曲を中心に、しかしこの大晦日は特別に長尺のイベントだったということで、そうじゃない古い曲もわりとたくさんやっています。

出だしはやはり「サイン・オ・ザ・タイムズ」(ボスのギターがブルージーで快感!)「プレイ・イン・ザ・サンシャイン」「リトル・レッド・コルヴェット」と続き、その後「エロティック・シティ」とか「ドゥー・ミー・ベイビー」とかやっているのはこの日の特別メニューでしょうね。

このあたりの中盤に「アドア」がありますが、この曲、ほんとうに美メロなバラードですよねえ。スタジオ・アルバム『サイン・オ・ザ・タイムズ』で聴いてうっとりしていましたが、こうやってライヴでやると美しさがいっそう際立っているような気がします。会場の観客も酔ったのでは。

「レッツ・プリテンド・ウィア・マリード」「デリリアス」「ジャック・U・オフ」なんかは古い曲で、しかしそれらも1987年のコンテンポラリーな様相に変貌しているのがおもしろいところ。おなじみの曲はメロディをきれいにぜんぶは歌わず、バンドの演奏に乗せて観客に要求しているのはペイズリー・パークでのライヴならでは。

またシーラ・Eが生演奏ドラムスを叩いていますけど、曲によってはそれと同時にコンピューター・プログラミングによるデジタル・ビートをも並行して鳴らしていて、その混合がえもいわれぬ肌触りで、実に快感なんですね。「サイン・オ・ザ・タイムズ」「ホット・シング」「イフ・アイ・ワズ・ユア・ガールフレンド」なんかリズムだけ聴いていて気持ちよさに身を委ねられます。

「レッツ・ゴー・クレイジー」「ウェン・ダヴズ・クライ」「パープル・レイン」という三曲連続の『パープル・レイン』セクションはユトレヒト・ライヴにもありました。大きな違いは、曲「パープル・レイン」の大半が「オールド・ラング・サイン」(スコットランド民謡、「蛍の光」として日本でも有名)になっていることです。

バンドはまず「パープル・レイン」のコード進行とリズムで演奏をはじめるんですけど、それに乗せてプリンスは延々と「オールド・ラング・サイン」をギターで弾いていますよね。後半でちょろっと歌ってもいます。

日本の「蛍の光」はお別れの歌ですけど、アメリカでの「オールド・ラング・サイン」は新年や誕生日などのお祝いで歌われることが多く、この日のこのコンサートは大晦日の深夜でしたから、日付を越えて新年になったという記念として「オールド・ラング・サイン」をやっているのでしょう。その前のほうの曲のときに、途中すでにプリンスは「ハッピー・ニュー・イヤー!」と叫んでいます。

いちおうその最後に「パープル・レイン」も歌い、それふうなギター・ソロも弾きます。そのまま「1999」へとなだれこみ。この日のこのヴァージョンはかなりカッコイイし、タイトにキマッていますよねえ。特に決め手はビートとホーン・リフかな。そして次の「U・ガット・ザ・ルック」でコンサート本編は終わりとなります。

アルバム『サイン・オ・ザ・タイムズ』での「U・ガット・ザ・ルック」はポップなロック・ソングでしたが、この日のコンサートでは、サイド・ギターリストのカッティングのおかげもあってすっかりファンク・チューンに変貌しているのも楽しいですね。シーナ・イーストン・パートはキャットが歌っています。キャットは同時にティンバレスも演奏。

「U・ガット・ザ・ルック」が終わると、ボスの「サンキュー、グッドナイト!」の声で全員がいったんはステージからはけますが、すぐにふたたびビートが入ってきてアンコールの「イッツ・ゴナ・ビー・ア・ビューティフル・ナイト」に突入。プリンスはギターを持っていません。

ドラムスの席をプリンスとシーラ・Eが交換し、シーラが前に出てのラップ・パート。ふたたび戻ってボスが前へ。そのままホーン・ソロやリフなどジャム・パートになって、上のほうで書いたマイルズ参加のセクションに移行していきます。

マイルズ・ジャムのパートが終了すると、「イッツ・ゴナ・ビューティフル・ナイト」のまま一瞬「ハウスクエイク」になったと思ったら、次いでアリーサ・フランクリンの「チェイン・オヴ・フールズ」(ドン・コヴェイ)になると同時にジェイムズ・ブラウンの「コールド・スウェット」のホーン・リフが出たり。このへんは要するにライヴならではのフリー・ジャムみたいな感じなんですよね。

エリック・リーズの長尺サックス・ソロがあり、演奏が止まったり再開したりしたあと、パッとキーをチェインジして別のジャム・パートがくっつきはじめている気がしますが、そこからは完璧JBマナーのライヴ・ファンク・メドレーみたいな雰囲気です。「マザー・ポップコーン」も出ますしね。ふたたびエリックのジャズ・ファンクなサックス・ソロ。

ボスが「サンキュー、グッドナイト」となんども言うけれど終わらず。そのたびに、あるいは「キック・サム・アス!」と叫ぶたびに、キーとリズムをどんどん変えてはジャムが続いています。デューク・エリントンの「A列車で行こう」がちらっと出て、やはりジャムは連続。

このあたり、音だけ聴いているとピンとこない部分もありますが、視覚的にかなりショウ・アップされていて、だから映像も見ながらだと楽しさが増しますね。プリンスはどんどんアド・リブで歌ったり(ウィルスン・ピケット「ダンス天国」の例のリフも出てくる)声で指示を出したり。ギターは持っていませんが、ちょろっと壇上のグランド・ピアノ(登場の機会はここだけのはず)を弾いたりはします。

バンドはずっとジャムを続けていて、一定の演奏が延々と連続していますが、結局この、マイルズが退場してからのジャム・パートは20分以上も続いて、現場にいれば楽しかったかもですが、ヴィデオで見ているとイマイチ冗長な感じもあります。「コンフュージョン!」(ぐちゃぐちゃ!)とのボスの掛け声でリズムとホーンズがなだれのように入り乱れ、コンサートは本当に終了します。

(written 2020.9.27)

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