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あの時代のアメリカと都会的洗練 〜 リー・ワイリー

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Lee Wiley / Retrospective of a Jazz Singer

2022年リリースとのクレジットになっていますが、なにかの発掘音源でしょうね、リー・ワイリーのアルバム『Retrospective of a Jazz Singer』。 数ヶ月前、いつだったかのSpotify公式プレイリスト『Release Rader』で知りました。

これしかしネット上にな〜んにも情報がないですね。CDだってあるのかどうか、検索してもなにも出ませんが、そんなわけでくわしいことがちっともわからず。聴こえてくる音だけですべてを判断しなくちゃなりません。つらい…。

それでもなにか書きとめておきたいと思えるほどこの歌手の声がぼくは大好きだから。惚れたきっかけはもちろんかの『ナイト・イン・マンハッタン』でしたが、あれは1951年のレコード。リー・ワイリーは1930年代から録音を開始していて、50年代いっぱいまで活動しました。

そして本作『Retrospective of a Jazz Singer』には『ナイト・イン・マンハッタン』を連想させる摩天楼の夜会みたいなおしゃれなムードがあります。そもそもそういう特質の歌手なんですが。音楽性がどうこうっていうより、伴奏もふくめてのムード一発でひたってなんとなく楽しむっていうものですよ。

マイルズ・デイヴィスにしたってはじめからずっとそうだし、近年の原田知世とか、考えてみればそういった雰囲気重視のムード音楽、BGM的なものが好きでずっときた音楽愛好歴なのでした。真剣に対峙して正面から向き合ってじっくり聴き込まないと、っていうものも好きだけど、もちろん。

それにしてもリー・ワイリーの本作はちょっと不思議です。伴奏のオーケストラがちゃんとしたステレオ録音なんですよね。1975年まで生きたひとだけど、歌手キャリアは50年代末で終了しているので、う〜ん、これはちょっとどうなんだろう…、歌もふくめ何年ごろの録音なんでしょう?

あるいはひょっとしてオーケストラだけ録りなおした現代録音で、それを重ねたっていう可能性がかすかにあるような気がちょっとしてきましたが、50年代末ごろの未発表音源でこうした音響もあるいは可能だったかもしれないし、とにかくいっさいのデータがどこにもないんだから。

それでも音源を聴けばいい気分にひたれるのがぼくにとってのリー・ワイリー。ちょっとスウィートなしゃれた声質で、だから人気が出たんだと思います。本作ではスタンダードな有名曲を中心に、おだやかでさわやかな小洒落た伴奏に乗せすっと軽く歌いこなしていて、こうした都会的洗練こそジャズ(系のもの)にぼくが求めているもの。

リー・ワイリーはそうした世界を体現した歌手でしたね。あの時代の、しかもアメリカ固有の、音楽だったなあ、それを象徴した歌手だった、と思えます。

(written 2022.6.28)

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