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躍動的で多彩なポリリズムが魅惑的な、ルデーリの二作目

(4 min read)

Ludere / Retratos

ブラジルのというだけでなく現代最高のジャズ・ユニット、ルデーリ(Ludere)の二作目、2017年の『Retratos』ではゲストがけっこういるっていうのも特徴ですよね。1曲目のヴァネッサ・モレーノ(vo)、2&3曲目のヴィニシウス・ゴメス(gui)、そして1、3、4曲目で弦楽四重奏団も参加…、ということになっていますけど、1曲目で声みたいなものは聴こえませんよねえ?どうなってんの?喉を使ってなにか違う音を出しているのかなあ?それもわからないですけど。

どうしても声は聴こえないので、ゲスト参加はギターとストリング・カルテットだけということにして、アルバム『Retratos』の前半でゲスト・ミュージシャンたちは演奏しています。そのパートはどっちかというとスムースな感じのするジャズなんじゃないでしょうか。聴きやすく、つっかからないサウンドとビート。ドラムスのダニエル・ジ・パウラはそれでもやはり細かい先鋭的なリズムを叩き出しているのが印象に残りますけれどね。

個人的にグッとくるのは後半5曲目からです。5曲目は「アフロ・タンバ」と題されているのでもわかるようにアフロ・ラテンなリズムを採用した一曲。こりゃあいいですねえ。ちょっとサンバ的であり、同時に汎ラテン・アメリカンな躍動的ビートを持ったこの曲では、リム・ショットも多用してやはりダニエルが大活躍。いやあ、いいドラマーです。

このアルバムでは、5曲目以後、こんな感じでリズムに躍動感と(ブラジルからみたときの)エキゾティックな香りがただよっているのが大きな特徴にして、聴きどころ、個人的愛好ポイントになっているんです。リズムの躍動感に満ちた表現は、前半部とはあきらかに異なるもので、ゲスト参加を中心とする前半とリズム表現に重きを置く後半とでアルバムははっきり二分割されています。

6曲目「エスパソ-テンポ」でもピアノの弾くかたまりの反復のようなリズム表現が目立っていますし、そうかと思うとストップ&ゴーで色彩感に富む表現を聴かせたりしておもしろいですね。それから7曲目「レトラトス」でもそうなんですが、四人はそれぞれ異なるリズム・パターンを同時に演奏していますよね。6曲目でも、特にトランペットのルビーニョ・アントネスは大きくゆったり乗っていますが、背後のブロック・リズムは細かいです。

ポリリズミックな演奏という意味では7曲目「レトラトス」がいちばんでしょうね。ここでは四人が並びながらそれぞれ異なるパターンを演奏し同時進行させているじゃないですか。これは作曲段階でかなり意識的にそう組み立てられているんだなとわかります。ピアノのフィリップ・バーデン・パウエルがリズムを牽引していると思いますが、フィリップの演奏するパターンにドラムスもトランペットも合わせないんですよね。異なるリズムを同時並行で演奏していっています。

8曲目「インディカ」でも大きくゆるやかに乗るトランペットと細かくガンガン弾くピアノとのコントラストが印象に残りますが、フィリップのピアノ・ソロになってからは完全にフィリップが主導権を握ります。そうなって以後、今度は(ピアノに合わせながら)ダニエルがかなり激しくパッショネイトなドラミングを聴かせるようになり、四者合同でアツくなってアルバムはおしまいです。

(written 2020.4.28)


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