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衝撃の森恵「みずいろの雨」〜『リメイク one』

(4 min read)

森恵 / Megumi Mori Soul Song's Book Re:Make 1

ウォ〜〜!なんだこの「みずいろの雨」は!!やっているのは森恵。もうびっくりしちゃいましたよ。ものすごいグルーヴィじゃないですか。ラテンというかサルサですよね、これは。サルサ歌謡曲。それを収録しているのは森のアルバム『Megumi Mori Soul Song's Book Re:Make 1』で、2013年のリリースです。森にとって初のカヴァー・アルバムになったもので、その後三つリリースして、いままでに計四作のカヴァー・アルバムがあることになります。

森は広島出身のギター弾き語り系シンガー・ソングライターで、にもかかわらず往年の歌謡曲などをどんどんカヴァーすることにある意味本領がある歌手なのかもしれません。オリジナル曲も聴いてみましたが、やっぱり曲の魅力という点では1970、80、90年代の過去の名曲にかなうものじゃないなと(森には悪いんですけど)思いました。そんなわけで四作のカヴァー・アルバムで森恵という歌手を堪能しています。

で、カヴァー・アルバム・シリーズの第一作になった『リメイク one』2曲目に収録されている「みずいろの雨」でぼくはぶっ飛んでしまって、こんなにすごい曲だったのか、これは超絶ラテン・グルーヴ歌謡じゃないか、八神純子のオリジナルはどうだっけ?と思ってそっちも聴きなおしてみたら同じようだったので二度ビックリ。そうか、八神のオリジナルからして最初からこんなにぶっ飛んでいたんだなあと、ソングライターとしての八神の実力にあたらめて感服しました。

それでもこの森ヴァージョンはそれを超えてものすごいんじゃないですか。打楽器は三名かな、ドラムス、ティンバレス、コンガ。+ベース+ピアノ+ギター&ヴォーカルでしょう。ぜんぶアクースティック編成。もう打楽器群の乱れ打ちにからだも心もしびれてしまい、口あんぐりで身動きとれませんが、スティーヴィ・ワンダーの「アナザー・スター」から借用したようなサルサなピアノ・リフも快感ですね。アクースティック・ギター・ソロは森本人かもしれません。違うかもしれません。

歌が出て、さらにびっくりしますね。森の声は張りがあって、しかも太く丸く強力で、艶やかですよね。音程も正確ですし、歌いこなしもみごとです。アーティキュレイションにもディクションにも文句つけるところがありません。実にうまい歌手です。ギターの腕前も一級品だし、こりゃすごい人物を発見しましたねえ。松山の大学を卒業後広島市内でストリート・ミュージシャンをやっていたところ、歩行者がみんな足を止めて聴き入ってしまうので評判になってスカウトされたんだそうですよ。

いやあ、「みずいろの雨」があまりにもものすごくってあまりにも強烈で、それだけでアルバム『リメイク 1』の印象がいいほうに決まってしまうような気がしますけど、ほかの曲だってとてもいいんですよね。5曲目「北国行きで」(朱里エイコ)、11「飾りじゃないのよ涙は」(中森明菜)もグルーヴ・チューンで超キモチエエ〜。前者はやはりラテン・リズムが使ってありますし、後者は4ビート・ジャズですね。

これら三曲とは対照的なしっとりバラード系だって、森のギター&ヴォーカルのうまあじ(とアレンジのよさ)が目立ちます。特に強く印象に残ったのは6「いい日旅立ち」(山口百恵)と8「あの日にかえりたい」(荒井由美)、特に後者ですね。この森ヴァージョンはピアノ一台が使ってあるんですけど、最初無伴奏で歌われるパート「泣きながらちぎった写真を、手のひらにつなげてみるの」部分の切な系感情がきわまっているあたりで、泣きそうになってしまいます。ピアノ伴奏もチェロもいいけど、ここでは歌詞の意味をかみしめるようにていねいにつづる森の哀切ヴォーカルに降参です。

往年の歌謡曲の名曲群を、全編オール・アクースティック編成のオーガニック・サウンドでとりあげ強烈に演奏し強烈に歌う森恵の『Megumi Mori Soul Song's Book Re:Make 1』、個人的には傑作、名作と呼びたいほど、現時点ではゾッコンでヘヴィ・ローテイション中。こんなすごい歌謡曲アルバム、なかなか聴けないと思いますよ。

(written 2020.6.2)


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