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自らの新入社員のころをアイドルに例えて思うこと

そこに名もないひとりの新人アイドルがいるとする。

彼女は夢を抱いてそのアイドルグループに入った。そのグループに入るだけでも大変だったけれども、本当の勝負はこれからだと知っている。ほんとうに入りたいグループだったかと聞かれれば、正直他に好きなグループはあった。でも、彼女はまず「アイドル」になりたかった。だからいまはしゃんと前を向いている。いきなりたくさんの大人たちと出会う。誰が何をやっている人なのか分からない。でもみんな分刻みで働いている。それぞれに厳しそうだ。いままで見たことのない大人の目をしている。彼女はまず与えられた仕事をこなそうとする。こっちに来い、あっちに行け。移動するだけでヘトヘトだ。午後はウトウトだ。でも、なんか夢が近くにある気がする。夢の匂いがする。まるで餌を待つ小動物のようにキョロキョロする。しばらくして初めてのステージに立つ。後ろの方にいる私なんて誰も見ていないのではないかと不安になる。そんな不安は顔に出る。怒られる。でも見ている人がいるということを知る。少しでも自分にできること、自分にしかできないことを考える。悪目立ちすることもあるけれども、失敗してもいい期間はいましかない。よく見ると先輩たちは失敗を恐れている。恐れなくていいのは、新人だけだ。この一年だけは甘えよう。きっと誰かが見ていてくれる、怒ってくれる、助けてくれる。彼女が甘えることで、周りは彼女の個性を知っていく。ただ「はい」と言っているだけでは彼女がどんな人間なのか、誰にも伝わらない。よく見るとステージの後方に並ぶ同期も頑張っている。天性の才能を持った同期ですら、頑張っている。そしてまたきっと不安になる。「私なんかにどこまでやれるだろう」。とびきりの負けず嫌いでもない。争いなんてできればしたくない。そんな彼女がどこまでやれるだろう。でも、そんな彼女だから励ませる人たちがいる。癒せる人たちがいる。てっぺんはひとつじゃない。彼女が彼女を必要としてくれる人を見つけられるかどうか。まずは「アイドル」という仕事で見つけられるかどうかなんだ。さあ、はじまる。違ったと思えば辞めればいい。報われないと思えば辞めればいい。悔しいという気持ちを次の仕事で活かせばいい。

とりあえず彼女は、「悔しい」と思える日までこの仕事を続けてみようと思っている。

#コラム

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