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ニュージーランドで知った、私の関西魂

約15年前、大学の卒業旅行ではじめて友達の山田ちゃんとと女子ふたりで海外へ行った私。
行き先はニュージーランドで、空港に到着したのはちょうど日付が変わる時刻だった。

「さぁ、スーツケースを受け取ったら、ホテルに行こ〜!」と山田ちゃんと荷物を待っているけれど、私の荷物が全然出てこない…。

ぐるぐると目の前を回っている荷物たちは、どう見てもさっきから同じスーツケースばかり。山田ちゃんのはすでに届いている。
あれ、おかしいなぁ?と思っているうちに、とうとうベルトコンベアの動きが止まってしまった。

えっ!?私の荷物やっぱりないんだけど…!

動揺する私をみて、山田ちゃんが
「確かホテルの人がエントランスまで迎えに来てくれるって言ってたし、私どうしたらいいか聞いてくるね!」と、外へ駆け出していった。

「山田ちゃんが助けを求めにいってくれたから、もう大丈夫〜!」
と私は急に楽観的になり、これからニュージーランドで訪れる場所を思うかべてにんまりする。

けれど、5分経っても、10分経っても山田ちゃんは戻ってこない。


………………………。



人の気持ちはとても移ろいやすいもので、さっきまで「もう大丈夫〜!」とお気楽だったのに、もしかしてこのまま荷物が出てこない可能性もあるんじゃ…と急に不安になってきた。

そして、旅行に持って来たスーツケースが私物ではなく、親友のさっちゃんに借りたものだったことを思い出す。

今日が初めての海外旅行である私とは違い、何度か留学経験もあるさっちゃんのスーツケースには、旅先で買ったステッカーがたくさん貼られていた。

あれ、弁償はできても、めちゃ思い出詰まってそうやし、失くすとかあり得ないよね…。

どんどん気分が沈んでいく私をおいて、時間だけがただただ過ぎていく。
やっぱり、山田ちゃんは戻ってこない。



………………………。


そして15分が経過しようという頃、ようやく
「ここ、きっと一度出たら外からは入れない場所なんだ」
と自分の置かれている状況を受け入れた。


だから、助けを求めに行った山田ちゃんは戻ってはこれない。
もう、自分ひとりでなんとかするしかない!


当時はスマホも翻訳アプリなるものもなく、頼れるのは己の中学レベルの英語力とボディーランゲージのみ。

意を決して、ニュージーランドの空港スタッフに話しかけることを決意する。


とりあえず、スーツケースにくくりつけた番号の控え札を差し出して聞いてみようと、通りがかった空港スタッフらしいおじいちゃんに恐る恐る話しかけた。

「エ、エクスキューズ ミー。マイ スーツケース イズ ロスト。プリーズ ヘルプ ミー。フェアー イズ マイスーツケース??」

単語も文法も、発音もめちゃくちゃだったと思うけれど(今こうして書くだけで恥ずかしい…)スーツケースの番号を差し出しながら聞いたのがよかったのか、おじいちゃんは
「OK〜!」
と言って私の手から番号のふだを取り上げ、カタカタとパソコンに番号を入力してくれた。

「なんとか通じた〜!!!」
とほっと油断していると

「Oh! Your luggage is now in Sydney !」

え??

 Now in Sydney !」


シドニー?


って、
ここニュージーランドなんですけどっ!!!


どうやら、私の荷物は乗り継ぎで利用したシドニーの空港に、置き去りにされてしまったらしい。

私は、はぁ〜…とため息を漏らしつつも

「初めての海外旅行で、いきなりネタができてしまった!!」

と心の中でガッツポーズをしている自分にも気がついていた。

関西人ならでは?の喜びにも似た変な感情。

さっきまで親友さっちゃんの大事なスーツケースなのにどうしようと青ざめていたのに、そんな喜びが湧いてくるんだなと冷静に自分を見つめつつ、とにかくシドニーに置き去りにされた荷物をなんとかせねば!とカタコトの英語で、必死に話を続けた。

聞くと「明日には荷物が着くから、また空港に取りにきて!」というようなことを言っているらしい。

こっちは明日から出かけるし絶対無理!そっちのミスなんやから、ホテルまで持ってきてよ!!と、宿泊先のメモを示しながら交渉。
通じているのか、通じていないのか、おじいちゃんは最後には「OK〜!OK〜!」と言ってくれたので、ホテルまで届けてもらえると信じるしかない。

そして、「これを使ってね」と言う感じで、トラベルセット的なポーチを手渡され、私はポーチを片手に山田ちゃんが走っていった出口へと向かった。



扉を出ると、ホテルの人の隣に立っていた山田ちゃんが、わ〜と駆け寄ってくる。

「ごめん〜!!中に入りたかったんやけど、一回出たら入ったらあかんみたいで無理やってん。荷物どうなった??」

私は荷物がなうシドニーであること、明日ホテルに届けてもらうように頼んだことを山田ちゃんに伝え、ホテルの人の車へと一緒に乗り込んだ。



それから10分ほど車を走らせ、ようやくホテルに到着。


ふぅ〜〜〜〜っっ。
無事に着いた〜〜〜〜。

とふたりとも脱力。


もう日付も変わっているし、今日は寝よう〜となり準備をはじめる。

といっても、私の着替えはスーツケースの中。
頼りになるのは、空港でもらったトラベルポーチだけ。

着替えが入っていたらいいな…とポーチを開けてみると、Tシャツが入っていた。

わ、Tシャツまであるなんて意外と気がきく!
と思ってそれを広げると。


でかい。

でかすぎる。。



どんな国の人でも着られるサイズにしてあるのか、LLどころか5Lぐらいのサイズ感。フリーサイズにもほどがある。

普段、日本のSサイズを着ている私にはもう規格外の大きさで、Tシャツなのに7部丈のひざ下ワンピースぐらいの大きさだった。当然、ダボダボ。

でも、他に着替えがないからこれを着るしかない。

そして、ポーチの中身を全部出し切り、下着がないことに気がつく。
(まぁ、入っていても大きすぎてきっと意味をなさないのだけれど…)

うぅ…初めての海外旅行で下着もかえずに寝るのか…と肩を落としていると、自分のスーツケースを広げていた山田ちゃんがそっと声をかけてくれた。

「あのさ。私、旅行のためにパンツ新調してん。
だからひとつあげる!
新品やし、それならいいやろ!」と



や、山田ちゃ〜〜〜〜ん!!(涙)


山田ちゃんの優しさにうるうるしながら、お礼を言ってありがたくパンツをいただく。


海外旅行初日、私はダボダボのTシャツ(見た目はワンピ)と、普段自分では選ばない、ちょっとラブリーな柄のパンツを頂戴して眠りにつくのだった。


そして、私はこう思う。

「あ〜、踏んだり蹴ったりのニュージーランド初日。
でもそれ以上に、さっそくネタができてめちゃうれしい!!

ニュージーランドに来ても、やっぱり私は関西人なのだ。



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