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「雑草には除草剤をまく派」に教えたい、手で取ることの楽しさ

「いつの間にこんなに
生えてしまったんだ? 
まるで緑のじゅうたんだな」

前回の住民一斉清掃で、
近所の草むしりをして、
その足で我が家の庭も
草むしりをした。

それから手をつけずにいたら、
そこら中から
雑草や桜の新しい枝が
地面からぽつぽつ
生えてしまっている。

ウッドデッキ前の
土の隙間からも
ミント草が生えてしまっている。

「ミントは蚊や虫を
寄せ付けない効果もあるよ」

と父親は言っていたが、

本当かどうか
効果の程は怪しいし、

これだけ生えてくると
そうも言っていられない。

放っておくと
雨後の竹の子よりも、
髪の毛よりも
もっと早いスピードで
雑草は伸び放題。

ついには、
敷き詰めてある小石や
砂利が見えなくなるほど、
雑草が覆ってしまった。

「これ、全部むしるの
大変なんだよな。
見て見ぬ振りして
ほったらかしにしたけど、
そろそろやばいな。

庭に出ていると日焼けして暑いし、
ずっとしゃがんでいると腰が痛いし、
右手も左手も筋肉痛になるし、
よし、除草剤まいちゃおう」

そう決心した私は、
倉庫から除草剤を探す。

前回使ってきれいに拭かなかったのか、
キャップに得体の知れない
粉の様なものがこびりついているが、
かまわずに開ける。

「何倍に薄めて使うんだったかな?」

ラベルを見ながら分量を調べる。

「原液は100倍に薄めて使用、か。
じゃあ、水は1ℓあれば足りるか?」

そう言いながら、
倉庫に保管していた
霧吹きを手にしたところで、
私の動きは止まってしまった。

2ℓペットボトルに入れていた
汲み置きの水が空っぽになっている。

「あ~、やっちゃった。
庭の水道は通ってないから
家の中に戻んなきゃな。

それも面倒くさいから、
除草剤まくのや~めた。

ちょこっとだけ草むしりして
終わりにしよう」

元々こだわらない性格もあるのか、
小さな鎌でやることにした。

鎌を持って、
駐車場の草を少し取る。

根っこを土ごと掘り起こし、
次に生えてこないよう
しっかりと取り去る。

髪の毛は毛根ごと取ると
大変なことになるが、
雑草は取ってしまっても大丈夫だ。

しゃがんで道路との境界面の
雑草を取りきると、
犬が食い散らしたみたいに、
土と雑草ののこりが横たわっている。

2~3㍍程きれいになると、
やりきったという達成感と、
腰を伸ばせる解放感が相まって、
スッキリした。

と同時に少し先の駐車場と
庭の境目も雑草が
生えていることが気になってきた。

「ついでだから、そこもやるか」

雑草目がけ、
てくてく歩いて刈り取る。

土と根っこを掘り起こすたびに
伝わるザクッザクッ
という感覚が楽しい。

雑草を掴んでは、
鎌を下ろす。

鎌を振り上げては、
雑草を掴む。

餅つきの様に
右手と左手を交互に動かす。

単調な作業だが意外と
楽しいではないか。

それに色んな音が重なりあって
耳に聞こえてくる。

音に合わせて体を動かすのは
踊っているみたいで楽しい。

時折手元が狂い、
ジャキン、
とコンクリートをえぐって
火花が出るのも、
ちょっとした演出みたいだ。

それに雑草のひとかたまりを
刈り取るごとに
得られる達成感は、
脳みそが喜んでいるのか、
次々と手が雑草に伸びて
やめ時が分からなくなっている。

いや、止めたくないのだ。

もう、草むしりは、
やめられない止まらない
状態になっているし、
無心でやっている
写経みたいじゃないか。

頭の中がスッキリと
冴え渡るような
坂を下っているような
感覚になっている。

腰を伸ばす時と、
手が痛くなるときに、
ふと現実に戻るが、

「どうせあと少しだから
最後までやってしまおうよ」

ともう1人の私が、
秘書の様にささやいて、
草むしりを続けさせる。

額から出てくる汗ですら、
ジムで流す汗みたいに
健康になっていくようで、
不快さよりも
どちらかというと爽快さを感じる。

一旦家に戻り
ペットボトルの麦茶を取ってきて、
補給しながらマラソンの様に続ける。

しかし最初の頃の勢いはなく
段々とペースが落ちる。

やっぱり除草剤を撒いた方が
よかったのか?

そんなことを思ってしまうも
目に見える範囲を
やり遂げたいという思いが
私の体を動かしていく。

土に手をつけ
片膝をつく。

左手で雑草を掴み
右手で刈る。

この動作を何十回
何百回繰り返したんだろう。

そんなこと思う間も無く
繰り返す。

もうこの後の予定なんか
関係ない。

体力の続く限り、
刈ってやろう。

そしてとうとう、
ぐるりと家の周りの
草むしりをやりきった。

刈り取られた雑草は、
勢いはもうなく、
そこら中に横たわっている。

「やった、やりきったのか!」

マラソンのゴールテープを
体で切った瞬間だ。

体は火照って汗も流れているが、
3ヶ月放置した
庭の草むしりをやりきったのだ。

なまけぐせがある私が、
ついに手で雑草を刈り切った
という達成感を得られた。

自分で表彰状をあげたいくらい
よくやったぞ。

仕上げは庭を歩き、
刈り取ったあとを確認して、
体をクールダウンさせる。

少し残っている草を
かがんで引っこ抜く。

熊手を倉庫から出して、
サッサとまとめて庭の一角にまとめる。

次のゴミ出しの日に
袋にまとめて捨ててしまおう。

再び家の中に戻り
ゴミ袋を取りに戻っていった。

あれだけ水をとりに戻るのが
めんどくさかったことなんか、
もう忘れてしまっている。

家の中はひんやりしていて
ほほをやさしく風がなでる。

もう一度庭に行く足取りは
とても軽かった。
《終わり》

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