デザイナー5年目が、ポスターで自己表現したら「良いデザイン」を作るヒントをみつけた。
自己表現をしてください、と言われたらどうしますか?
「わたしはあれが好きだからこれをする!」とすぐ答えれる人もいれば「自己表現とは??」となる人もいると思います。
私は圧倒的に後者のタイプでした。作文も苦手。なんなら自己紹介で好きなもの聞かれるのもわりとしんどいです。
だけど、自己表現から向き合うべき機会がきてしまいました。
ポスターで自己表現の追求をする
みなさん初めまして。
株式会社NASUでデザイナーをしている、ひさもとはるかといいます。今年でデザイナー5年目になります。
冒頭にあったように、私は自己表現が苦手で、自分の好きがわからないタイプでした。ですが、突如、自己表現に挑戦することになったのです。
遡ること今年の2月。
弊社の代表である前田さんがTwitterで
6月1日にNASUのポスター展をやる。
と発表しました。
会社の新たな取り組みが社内ではなく代表のTwitterで先に発信されるということは弊社ではあるあるです。なのでツイートを見ながら素直に「そっか〜〜6月は創立記念日だしちょうどいいな〜〜〜」と呑気に思ってました。
それからあっという間に6月が近づき、NASUポスター展の企画を取り進めているメンバーから展示会概要のお知らせが。
テーマ「NASU」。うんうん、初めて自社メインの展覧会だし創立記念日だからわかりやすいよね。でもちょっと待った。キーワードの箇所に仕事でできない自己表現(必殺技)の追求という言葉が見える。
仕事でできない自己表現の追求???
「自己表現の追求」という言葉に拒絶反応が起きてウウッとめまいがおきました。
そもそも“自己表現”が苦手だからデザイナーになった
私は物心ついた時から絵を描くのが好きです。よくある話だけど、小学生の時の夢は漫画家で、中学生の時の夢はイラストレーターでした。けれど、今の私はデザイナーをしています。
なぜ、漫画家とイラストレーターの夢を諦めたのか?それは自己表現への苦手意識を取り払えず、挫折したからでした。
まず、漫画の道具で絵を描くことができても、漫画を通して表現したいこと伝えたいことが全く浮かばなかったんです。いくら考えても、なんか違うの繰り返し。結局、漫画ひとつ仕上げることなく漫画家の夢は諦めました。
「イラストレーターになりたい」という夢を諦めた時も同じです。世の中で活躍しているイラストレーターさんや、同年代で人気の絵描きさんみたいな「自分らしさ」が当時の私では見つけられませんでした。他の人と比べて私の絵って何だかつまらない。それが事実でした。
「上手い」と「良い」って全然違う。
「良い」を作るには絵が上手いだけじゃなくて「これが好きなんだ!これがしたいんだ!」という飛び抜けた何かが必要。
自分に足りないものはそういう偏愛なのだと、その時に気づきました。だけど、ずっと部屋に閉じこもって絵が上手くなることばかり考えていたから、映画も音楽もアイドルも知らないし、自分が何が好きなのかわからない。そもそも本当にイラストレーターになりたいのかもわからなくなって、そのまま夢を諦めました。
それでも、ものづくりから離れたくなかった私がたどり着いたのがデザイナーという仕事でした。
大学に入ってから「デザインは課題解決すること」という言葉に出会います。課題解決。つまり答えがあるもの。そう受け取った私は「それならできるかもしれない」と勉強しはじめました。もちろんデザインも最初から上手くいくわけがないです。何度も泣かされているのですが、だんだん出来るようになってきてからは楽しめるようになり、今に至ります。
なんとかするしかない!
そんな感じで私の人生には偏愛探しと、自己表現への苦手意識がこびりついているのです。今まで逃げてきたという自覚があるからこそ、最初にあった“自己表現の追求”という言葉にウウッと眩暈が起きてしまったのです。
だけど、そんなこと言い訳してたって何も変わりません。
諦めてきたことだけど、私だって本当は「上手いだけ」じゃなくて「良い」ものが作れるようになりたい。昔よりも外の世界を見るようになったし、好きなものも少しずつ言えるようになってきた。小中学生の私と比べたら、かなり変われていると思う。
弊社の代表である前田さんの著書『勝てるデザイン』p151にある「フェチを極めろ」という章にも“自分のフェチがあってそれを追求しているほど、これからの時代のデザイナーとして生き残れる”とあります。
クリエイターとして生きていくなら「自分のクリエイティブな偏愛はどこにあるのか?」という問いは、いずれぶち当たる壁です。
これは、昔から逃げてきたことに向き合う絶好のチャンス!
と、捉えて「今度こそ逃げない!なんとかする!」なんなら私が今後クリエイターとして生きていけるかどうかが賭かっているんだ!!という勢いで腹を括りました。
まずは広げて俯瞰する
とりあえず、今回は何をやるべきなのか?現時点でわかっていることを俯瞰しながら分解していきました。
仕事でできないことをする、というのはつまりどういうことなのか?自己表現につながりそうな自分の好きなビジュアル表現をPinterestで集めて言語化したり、よく他人に言われることを思い出したり、普段仕事でやっていないけど私ができること、やってみたいことは…と分解していきました。
どこをどう掛け合わせたらお互いが最大化できるか。思いついたのが次の3案でした。
アカン!!!考えすぎや!!!!!!!
なんとなく前に進んでる気もするけどコレやー!!ってかんじがしない。本当にこんなかんじでいいんだろうか?
客観的に離れて考えてみたら「いや、考えすぎやろ」と自分ツッコミが入りました。しかも、私のことを知らない人がみたら…と考えた時「いや、あなたが仕事で大事にしてることなんて知らんし…」という声まで聞こえました。ほんまそれ。
自分は意識たかいんですよ〜とかっこつけようとしてる節もあるし、価値のありそうな意味合いで飾ることで、自分を守ろうとしてるのではないか?そんな己が見えてきて、なんて自分は悲しくて小さな生物なんだろうと自己嫌悪により100くらいダメージを受けました。
落ち着いて考えれば、かっこつけようとするのも、意味合いに価値をつけることも間違いではありません。けど、今回は自己表現の追求でありクリエイティブ表現の追求。
つまりデザイナーである私の場合は、ビジュアル的な表現で価値を示すことが今回の展覧会で大事なんじゃないか?
だから、しのごの言わずビジュアルでガツンと殴って説明せずとも「なんかいい!」と感じてもらえる。そして、一番大事である自分が「いい!」と感じれるものを作りたいと思いました。
そして考えるのをやめた。
いちいち考えてたら、作品制作が進まないと思いました。
でも案の中にある「茄子の花」の意味合いが好きすぎたのでそれは残したい。その要素は残しつつ、ビジュアル表現を何にするか?
どんな花がいいかな?と自分のカメラロールを振り返っていたら、アンディウォーホル展に行った時の写真が出てきました。
そういえばアンディーウォーホルの『花』よかったな。言語化するとしたら迫力のある堂々とした感じと、リアルとイラストの間みたいな不思議なシルエットが好き。
あとは、絵を描く中でもやっぱりアナログの質感が好き。手書きって世界に一つしかないし、偶発的に思ってもいない形が生まれて、そのちょっとした違和感がおもしろい。
綺麗なものも好きだけど、綺麗すぎるものより愛着の湧くものが好き。今まで一番お金かけてきたものも画材だとも思いました。
最近読んだ瀧本幹也さんの『写真前夜』にある、以下の話も好きです。
デザイナーでいうと新村則人さんのポスターが感覚的に好きだ。アナログによる絶妙な違和感に遊び心と温かみがあるし、ポスターのド真ん中にモチーフがドカンとレイアウトされている潔さもロックで渋い。みているだけで、ドキドキする。
論理だけで考えるのではなく、感性と理性を行き来することを意識して再度ヒントを集めました。
こんなビジュアル表現ってドキドキするな〜好きだな〜とふわふわイメージを思い浮かべ、純粋な状態でかいたラフがこれでした。
おおっ
なんか、いいかもしれない……?
まだ言語化はできないけれど、自分の偏愛の端っこを掴めた瞬間でした。
実際に作ってみる
私が選んだのは、茄子の花をアナログの質感で表現し、ドン!!とレイアウトしたものでした。
とはいえ「アナログの質感で表現」が曖昧すぎます。アナログの質感の中でもどんな質感が一番好きなのか?
選んでいくために、時間は少なかったけど頭で思いつく限り、手元にある画材ですぐできるもので、実際に花を描いて、撮影して、photoshopで軽く処理をしてイラレにはめてみました。
油性ペンや鉛筆、絵の具など画材を変え、左手で描く、など描き方を変え、小さいのを超拡大してみたり…色々試しました。
その中で私が「これは確実にキテる!!!」と感じたのがこちらです。
これいい…と感覚的にドキッとしました。
指でてきと〜〜に描いたやつなので、描き終わった時は特に期待してなかったのですが、イラレのアートボードにはめた途端に輝きはじめました。
細かくみても、指紋でできてる細かい線の感じとか、アナログならでは揺れてるシルエットとか、温かみがありつつ強さもあってなんか良い。
このラフのおかげで、私はアナログ質感の中でも生命力のある感じが好きなことに気づきました。細いよりも太い。薄いよりも濃い。必然性より偶発性のあるもの。私のクリエイティブ偏愛はここにあったのか…!?
それらを表現するには、今回は絵の具が最適だと思いました。
絵の具の質感を深堀りする。
曖昧だったアナログの質感から、もう少し狭い絵の具の質感へ。
範囲が絞れたら、あとはもう時間が許す限りひたすら深掘りです。今回することは、クリエイティブ表現の追求。絵の具の質感で茄子の花をどう表現するか?ひたすら試しました。
「かっこつけすぎか?いやいや、自分がやりたいんやったら今回はそれでいいねん!」と自意識を打ち消すためにハイボールで酔拳を使いながら(休日です)制作を進めていきました。
正直、前に出たやつが結構よかったので稀に起きるラフを本番で越えられない現象が起きるんじゃないかと不安でした。が、絵の具の偶発性、生命力を深堀りしていく中で
より一層ときめき、そして
これやー!!と言える表現を発見することができたのです!!
色校正!最終アウトプットに向けて、調整する。
色校正の日が近づきました。原寸のB1サイズよりも小さなものを撮影し画像として出力するので、大丈夫とは思うけどちゃんと確認しておきたい。その時に第一候補だった花を色校正用のデータにしていきます。
最初は黒の絵の具だから、データをモノクロ画像の設定をしていました。が、途中で謎現象が起きてしまい…
NASUのチーフデザイナーであるはっちゃんさんに相談すると「モノクロの作品でもグレースケール一択じゃなくて、カラー写真のまま白黒を表現してもおもろいよ〜」と教えてもらうことができました。なるほど…絵の具でいう、黒の絵の具ではなく混色で黒を作って使うと良い感じになるみたいなアレが写真の世界にもあるのか…!
また、今まではラフとして簡単に撮影していたので、より綺麗に撮れるカメラの設定はないか前田さんに相談したり、事務所のミニ照明をお借りしたり。
絵の具の質感以外の最終アウトプットに向けた試行錯誤も行なっていきました。
そして入稿日
絵の具の質感は、2つまで絞っていて、どちらにしようかを悩んでいました。原寸で実際に展示されるギャラリーに、しばらく並べておくことで密かに頂上決戦をさせていました。
まだ悩みたい。まだ試したい。けど粘りすぎて時間無くなってワ〜〜ッと入稿すると絶対ミスが起きるので、それはしたくない。
入稿日の早朝に出社し、どちらの花にするか?を決め、最後の最後の微調整を行いました。花の大きさ、角度、レイアウト位置の検証。下側に少しではありますが、文字を入れているので文字校正。書体の検証、文字間の調整、文字の大きさの検証。花以外の細かい部分も試して、決めて、をギリギリまで繰り返しました。
そして無事入稿データを担当メンバーに渡せました!やった〜〜〜〜!
ポスターで自己表現したことで、見えたものは?
私はこのポスター制作を通し自己理解をすることで、クリエイターとして一歩強くなれたと思いました。
自分の武器(スキル)がわかった
今回のポスター制作は、上司もチームもいません。自分の身一つで戦うからこそ、自分のとっておきスキルはどこにあるのか?を棚卸しし、見つけられる機会になりました。
自分の“好き”の見つけ方がわかった
自分が何を好きなのか?がわからなかった私ですが、今回はなんとかできました。昔と何が違ったのか?“好き”を見つけた時のことを振り返ると、自分の内側だけでなく外のことに対して自分がどう感じたか?がヒントになっていると思いました。
つまり、外のことを知らなすぎたのです。自分の好きを探すには、外との触れ合いと自分の心の動きを観察することの繰り返しが自分に向いていると思いました。
今回見つけた私の偏愛が、本当に真の偏愛か?と聞かれると、わかんないのが正直なところです。でもこの自己表現を追求する制作を続けていたら、たどり着ける!と思いました。
制作時の自分の癖がわかった
制作過程でつまずいたところを振り返ると、自分の癖がよくわかります。私はとりあえず、バカ真面目に考えすぎることが多いと思いました。あと、プライドが高いから自分をよく見せようとしている。
あとは、今ある情報たちを繋いでからビジュアルを作るのではなく、ビジュアルから入ってあとから意味をつける方法が身体に染み付いてないなと思いました。
前者は答えを探っていくようなやり方で、後者は答えを作るやり方に近いのかも。
最初に書いてあった「デザインは課題解決=答えがあるもの」からデザインの世界に入ってきたことによる、思い込みが強かったのだと思います。たしかに課題解決であることは変わらないのですが、実際に仕事をしていると答えがわかっている仕事などほぼありません。デザイナーであればどっちもできるようにならないと、と思います…。
というか、自分で答えをつくる勇気が出ないんだと思いました。デザイナーは勇気も必要。今回の制作で、自分で答えを作る勇気がわかりました。
もっとたくさん良いデザインを作りたいと思えた!
クライアントワークもあるなか、時間の隙間で制作を進めるのは大変でしたが、とっても幸せな時間でした。自分が良いって思えるものを追求するってとても幸せ。
これからもNASUでもっと良いデザインを作っていきたい。こんな時間を沢山NASUのみんなや、NASUに関わる全ての人と過ごしていきたいと思いました。
さいごに
自分の心を動かせるものを作れなければ、他人の心を動かせるものも作れないと思います。
今回のポスター制作を通して、デザイナーとして大事なことが沢山学べました。私みたいに自己表現が苦手、だけどクリエイターとして生きていきたいんだ!という方にはぜひクリエイティブ偏愛の探求をおすすめしたいです。
自分の嫌なところを見なければいけませんが、それも向き合っている証拠だと思います。ぜひ勇気を持って挑戦してみてください!
最後まで読んでいただいている皆さまに超重大なお知らせです。
こんな長い記事を最後まで読んでくださってありがとうございます!あなたはいい人すぎる!
そして、この記事の中にでてきたNASUポスター展は現在、大阪で開催中です!
私を含めた弊社のクリエイター9名が参加しています。みんなで自己表現の追求とクリエイティブ表現に向き合って作品を制作しました。
もし、このnoteがおもしろかったなーという人がいたらぜひご来場いただいて、クリエイターと作品についてお話してください。こんな話を人それぞれ持っているので、それを聞いていけばきっと自分の制作の鍵がみつかるはずです。
ちなみに代表の前田さんもポスター制作についてのnoteを書いています。こちらから!
展示期間は6月16日(金)までなので、なにとぞなにとぞ、よろしくお願いします…!会場の場所や時間など詳しい情報はこちらから!
トークイベント&パーティーやります
しかも、最終日の16日には、スペシャルトークイベントとパーティーも行います。トークイベントはオンラインでも視聴できますので、会場行けないよ〜という方はぜひチェックしてください。テーマは「なぜデザイン会社がポスター展をするのか?」。少しでも興味がある方は、ぜひお申し込みください。
イベントの詳細はこちらから!
図録も販売中です
これが最後の宣伝なので許してくださいい…図録もECサイトで販売中です。NASUポスター展で展示された作品全9部を収録しております。各作品には制作者のコメントや制作の背景についての解説も掲載しており、作品に込められた思いや意図をより深く知ることができます。自分のクリエイティブ偏愛を探求するヒント付。どんだけやるねんって話ですよね。NASUってそういう会社なんです。
詳細はこちらから!
それでは、このポスター展がみなさんの制作のヒントや刺激になればとっても嬉しいです。また、会場で色々お話しできるのを楽しみにしております!
それでは、最後の最後まで読んでいただきありがとうございました〜!
ありがとうございます!アイス買います!