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いつも外来で偉そうに診療している医師が、家で我が子のインフルエンザを看病して初めて知った「病児の親の気持ち」とインフルエンザ脳症の恐怖とエビデンス…について綴っておきます。


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(本記事の科学的根拠の部分は2020年1月の段階で最新情報に更新しています。)


こんにちは、森田です。

毎年毎年、冬はインフルエンザで大変です。日々の外来診療でも、インフルエンザの患者さんがわんさかやってきます。

今回は、普段医者として患者さんや子どもたちを診るときは、こんな記事みたいにエビデンスとか、薬を使うメリットとデメリットとかを説明しながら偉そうに診療してる、鼻高々な僕なわけですが…↓↓



そんな僕が今回は、実際に家で子どもたちのインフルエンザを看病する立場になったわけで、そのとき初めて

「あ〜、病気のこどもの親ってこんな気持ちになるんだな…反省…」

(ノД`)シクシク

と感じた部分を今後の自分のために綴っておこうと思います。
書いとかないとすぐ忘れちゃうので。



■長男(小6)の場合


我が家のインフル流行の最先端をいったのは長男でした。
1月の中頃に発熱出現。学校のクラスも男子の半分くらいインフルエンザで休んでる時でしたので、インフルエンザの検査をするまでもなくインフルエンザと判断し、その日からお休みとしました。

ちなみに、インフルエンザの検査は決して100%の信頼性があるわけではなく、インフルエンザに感染しているのに検査で陰性に出てしまう「偽陰性」が4割もあるという報告もあります。ですので、流行期はもう検査ナシで診断を下すほうが理にかなっていることも多々あります。そのへんの詳細はこちらの記事を御覧ください。↓



じゃ薬は?というと、まあタミフルとかゾフルーザとかの抗インフル薬の投与も念頭になかったわけではないのですが、朝発熱して、あっという間に午後には解熱してしまい、ご飯もよく食べて、普通にゲームもしてるし、しかももう身長も母親よりデカイくらいに成長している12歳児なので、まあ言ってみれば検査・投薬の機会もなくそのまま無検査・無投薬で治ってしまいました。

そもそも基礎疾患のない元気な患者に対してはインフルエンザの薬も「症状がおさまるのが半日〜1日短縮するくらい」というくらいの限定的なものなので、まあ、そんな感じの対応もありといえばありなんですよね。

あ、ちなみに、インフルエンザの検査はしていないとはいえ、当然インフルエンザの場合と同様に最低5日間&解熱後2日間は学校休ませました。
逆に言えば、こうして基準どおり休ませることが出来るならば、検査がどうこうとか関係ないわけですよね。


ま、長男はいいんです。かなり症状が軽かったし、もう成人なみに大きいので重症化のリスクも低いし。


問題はこの次、三男です。



■三男(小1)の場合


三男は金曜日の朝に37度台の発熱で始まりました。三男のクラスも学級閉鎖になるくらいのインフル大流行。「もう検査するまでもないな〜」と呑気に構えていられたのもツカノマ。。。

出勤して数時間後に嫁さんからLINEが入りました。


『39℃、かなりきつそう』

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どうやら、大好きなモスシェイクも飲む元気がないらしい(-_-;)


「むむ、これは呑気にしている場合じゃないかも!」


でも、まだ発熱して数時間。検査をするには早すぎる(最近は少し早めに出る検査機器もありますが、基本的には発症して24時間くらい経たないと検査も信頼性が高くないと言われています。しかも上述の通り『偽陰性』もあります。)


さあどうする?

実は、こんな小さい子の場合一番怖いのは…


インフルエンザ脳症!!!


なんですよね。

インフルエンザ脳症って、比較的稀な疾患(全国で毎年50~100人くらい)なんですが、なってしまうと死亡率も後遺症を残す率もそれぞれ30%くらいとかなり高い、まさに恐るべき疾患です。

詳しくはこちら↓


僕も病院の小児科で研修していた時、5歳の女の子のインフルエンザ脳症の症例(残念ながらその後寝たきりになってしまった)を知っていましたので、それを思い出すと、もう居ても立ってもいられないくらい心配になってくるわけです。

仕事しながらそんな不安を感じていた時、また嫁さんからLINE。


「寒い」とお布団に埋もれています。かなりきつそう・・

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う〜〜(-_-;)


どうしよう?


とりあえず、インフルエンザ脳症の症状である。この3つはないか?


◎意識障害

◎痙攣

◎異常行動・幻覚


これはなさそう。じゃ、まずは解熱剤で楽にしてあげよう。熱を下げてあげれば寒気もとれて、食欲も出てくるかも。


「アセトアミノフェン(カロナール)飲ませて」とLINEで送信。


すると嫁さんから

食欲出てきた。37度8分です。

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と。

ほっと一安心。

帰宅後、様子を見てみると、テレビを見ながらソファーに座っていて、まあまあ元気そう。はぁ、よかった。


でもその夜が大変でした。

夜も熱が出たり、解熱剤で解熱したりの繰り返しだったんですが、


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こんな感じでぐったりしてるときは最高で

41度!


まで熱が上がりまして、さすがにもうインフルエンザ脳症が怖くてたまらなくなり、抗インフルエンザ薬をもらいに病院に行こうかと思いました。


でも、実は


タミフルとかの抗インフルエンザ薬を飲んだら「インフルエンザ脳症」の発症リスクが低下するというエビデンスはない


んですよね。


スクリーンショット 2020-01-21 6.32.34

インフルエンザ脳症ガイドライン【改訂版】(厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班)平成 21 年 9 月
https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/2009/09/dl/info0925-01.pdf



なので、今更タミフル飲んでも期待薄か。。。


「でもな〜、ダメ元でも飲んだほういいかな〜」


「病院行ったら余計な病気もらうこともああるしな〜」


「でも、エビデンスとかそんなの関係なく、出来ることはしといたほうがが後悔しないかな〜」


などと悶々としながら、、異常行動や痙攣がないか見ていたり、カロナールを飲ませたり、水分補給させたりしながら、深夜から早朝まで一晩中三男の横で看病していたわけですね。


そんな眠れぬ夜を一晩過ごした結果。


翌朝の三男はこんな感じで、


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お兄ちゃんたちと元気に「あっち向いてホイ」で盛り上がるくらいに元気になりました(^_^;)

良かった良かった。


まぁ結局、長男のときも三男のときもアセトアミノフェン(カロナール)を使ったくらいでいわゆる「抗インフルエンザ薬」は使わなかったわけで、医師としては「インフルエンザは薬を使わなくても治る」という部分を強調したい気持ちもやまやまなのですが、いやいや、親としてはもうそんなのどうでもいい感じがしましたよ。


タミフルとかの抗インフルエンザ薬を飲んだら「インフルエンザ脳症」の発症リスクが低下するというエビデンスはない

とか

インフルエンザの重症化を防ぐには予めのワクチンが一番!(もちろん我が家は全員接種済み)


とか、そんなエビデンスを知っている自分でさえ


「もうエビデンスなんて関係ない!うちの子が大事!なんかわかんないけど手段があるなら何でもやる!」


という気持ちでいっぱいになるのですから、いわんや医師でない親御さんの気持ちをや。というところですね。


今回の教訓:

子供を思う親の気持ちにエビデンスなんて関係ない!


いや、本当にそのとおりです。当たり前なんですけどね。そんな気持ちのときに、

『エビデンスが〜』

『デメリットが〜』


なんて、上から目線で偉そうに言われても、


はぁ?
いいから薬出せや!Σ(`Д´#)ノ


と、なりかねません。


そこをしっかり把握した上で、患児の気持ちにも、親御さんの気持ちにもしっかりと寄り添える診療を心がけないとな〜


と思った47歳の冬でした。





【おまけ】

ま、今回の長男みたいに成人に近くて症状が軽いケースでは、検査目的で病院行かずに解熱剤使うくらいで対処したほうがいいかな〜、、とも思いますけどね(^_^;)。

ちなみに、インフルエンザのときの解熱剤はロキソニンなどのNSAIDsは使いにくく(それこそインフルエンザ脳症との関連が指摘されています)、 アセトアミノフェン(代表的な処方薬はカロナール)という薬が推奨されています。

実はこのアセトアミノフェン、病院でわざわざ処方箋をもらわなくても薬局・通販で買えます。
以下の3つの薬は、他の薬効成分は入っていない「アセトアミノフェン」単剤の市販薬で、基本的に病院で処方されるカロナールと同じものと思ってい頂いていいと思います。(実際に使う場合は、ぜひ薬剤師さんと相談しながら使用してください。)


(病院で処方される場合、アセトアミノフェン300~500mg前後が一般的な大人の一回分です。)


◎ノーシンAC

(1錠中アセトアミノフェン150mg、成人は1回で2錠)

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◎バファリンルナJ

(1錠中アセトアミノフェン100mg、成人は1回で3錠)

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◎小児用バファリンCⅡ(1錠中アセトアミノフェン33mg)

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あと、小さい子供に薬を飲ませるときにとても使えるツイートがあったので貼っておきます。これとても便利ですよ!


注:この記事は投げ銭形式です。

医療は誰にでも公平に提供されるべき「社会的共通資本」、
という信念なので医療情報は基本的に無償で提供いたします。
でも投げ銭は大歓迎!\(^o^)/
いつも一人で寂しく原稿を書いているので、
皆様の投げ銭から大いなる勇気を頂いております!
ありがとうございますm(_ _)m


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著者:森田洋之のプロフィール↓↓

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夕張に育ててもらった医師・医療経済ジャーナリスト。元夕張市立診療所院長として財政破綻・病院閉鎖の前後の夕張を研究。医局所属経験無し。医療は貧富の差なく誰にでも公平に提供されるべき「社会的共通資本」である!が信念なので基本的に情報は無償提供します。(サポートは大歓迎!^^)