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【台湾建築雑観】平均地権条例(その二)

前回書いた平均地権条例の件について、いくつかの新しい知見を得たので追記します。

孫文の理論による条例

台北駅のすぐ近くに國父史蹟館があります。日本時代の家屋を保存して、孫文に関する写真や資料などを展示しています。ここに寄った時に、平均地権条例を説明したパネルを見つけました。

國父史跡館

何故ここにこの言葉が出てくるのだと不思議に思い説明を読んでみると、この条例は中華民国の成立の初期に、孫文の考えにより成立したものであることが説明してありました。中華民国にとってはとても由緒正しい、歴史のある条例なんですね。

下記のWikipediaの説明を概略読んだところ、土地の所有権は公に帰する、そして使用権が民のものになると、まるで共産主義の様な主張をしています。

改正の具体的な内容

2023年2月の台湾の建築師雑誌に、この条例についての説明がありましたので、訳出してみます。

平均地権条例案、内政部で可決される。投資による不動産価格の高騰を抑え、健全な流通を目指す

立法院は10日「平均地権条例」の部分修正の草案を可決した。内政部代理部長の花敬群は次のように述べている。今回の修正案は不動産価格の投機による高騰を抑制するのが目的で、健全な不動産の流通秩序を取り戻すことを目指している。市場の正常な交易に影響はしない。長期的にみると、不動産市場の安定的な発展に資するであろうし、不動産産業の永続的な経営にも役に立つ。合わせて国民が不動産を購入する正当な権利は保証する。

  1.  不動産の転売を制限する:青田売りのあるいは建設済みの住宅の売買契約後、購買者は配偶者、直系あるいは二親等以内の親族以外の、第三者に転売することを禁止する。売主側も販売後にこれらの譲渡あるいは転売に同意してはならない。ただし内政部の規定する特殊な状況、例えば購入後自己の希望ではなく失業を余儀なくされた場合などを除く。この規定に違反した場合、一戸(棟)あたり50万元から300万元までの罰金を課す。

  2.  不動産価格を吊り上げる行為を禁止する:事実と異なる情報を流し、交易価格に影響することを、明確に規定を設けて禁止する。この規定に違反し、不動産市場に影響しあるいは、転売により不当な利益を得た場合、一戸(棟、筆)当たり100万元から5,000万元の罰金を課す。

  3.  検挙奨励制度を設ける:国民は不動産売買において実勢価格の交易登録にに違反する行為を、証拠を示して地方裁判所に対して訴え出ることができるようにする。それが事実であった場合、違反業者に課する罰金の一定の比率を奨励金として支払う。

  4.  私人及び法人の住宅の購買を許可制にする:私人及び法人の住宅の購買を、その理由の必要性と正統性に鑑み、「許可の不要なもの」と「内政部の許可が必要なもの」の二種類に分ける。このうち「内政部の許可が必要なもの」については、取得後、或いは取得が予想されるその時期から5年以内の不動産の移転、移譲あるいは登記予告を制限する。これにより短期的な転売による投機的な商行為を防止する。

  5.  解約申請の登録:青田売り住宅の売買契約後、解約があった場合、売主はこのことを30日以内に実際の価格を明記して登録しなければならない。規定に違反したものは3万元から15万元の罰金を課す。

条例改正の影響

この条例改正案の情報は1年ほど前からニュースになっており、最近になってこの改正が具体的にタイムスケジュールに乗ってきたということです。

日本では不動産の投機を抑えるために、この様な規制を設けるとか、罰金を課す、登録制にするという話は聞いたことがないので、これは日本の影響を受けた条例改正案ではないと思われます。他の外国で行われたものであるかどうかも分かりません。

ただし、このニュースの影響は建設ディベロッパーの業務見通しには少なからず影響を与えているようです。聞くところによると、行政に申請される大規模マンションの建築ライセンスが激減しているとのこと。これは、現在建築中の案件ではなく、今年後半以降に着工される案件が激減するということを示しています。市場に出る不動産案件が減少する、そしてこれを購入する投機的な投資者も減る。こうなると、不動産価格はどうなるのか分かりません。

一つ分かることは、建設市場で住宅案件が減ると、建材価格の高騰や職人の不足というコスト増の要因は一段落するだろうということです。そうすると、現在の不動産価格は高止まりしたままになり、購買者の手の届く価格に下がってくるという見通しはあまり立たないように思います。

引き続き建設市場の動向を観察していきましょう。


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