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世界のEdtech事情 -中国-

noteデビュー

 初めまして、どぅです。初めてnoteに投稿します。20年7月より株式会社コードタクトに参画し、学校向けの授業支援システム「schoolTakt」の事業企画運営に携わっています。

 ファーストキャリアの文部科学省からコンサル会社に転職し、13年程日系企業の海外進出に係る上流案件に携わってきました。仕事で訪問した国の数は33か国で、月1程度のペースで対象国を訪問、そのうち約6割を成長著しいアジアが占めていました。

中国のアリババグループテンセント、タイのCPグループなど、日本でも有名なアジアの著名企業はいずれも時代を見通した上でのリスクテイクに長け、圧倒的なスピードを以てビジネスを推進する姿を目の当たりにしてきました。経済領域のマスゲームで圧倒的不利な状況にある日本に住む若い人々が、自ら幸福を掴み取る最後の砦は教育であるという想いから、再び教育業界に出戻ることができ、充実した日々を送っています。子供じみた表現になりますが、兎に角毎日が楽しいことは本当にありがたい限りです。

 現在国内の教育情勢を追いつつ、これまで手掛けてきた海外での知見や経験値が上手く結びついていき、ゆくゆくは日本でこれから起こる教育の地殻変動が世界とどう結びついていくのか追い続けていきたいと思い、noteにしたためていくことにしました。

何故中国に目を付けたのか?

 中国は、既に多くの皆さまがご存じの通り、世界の警察といわれ続けた米国と対等に競争し合えるまでの国力を身に着けました。鄧小平の韜光養晦(とうこうようかい、「自らの力を隠し蓄える」の意)の通り、1990年代の改革開放時は海外からのヒトモノカネを積極的に受け入れながら成長を遂げてきた中国は、習近平時代に入り、これまで隠してきた爪(政治力、軍事力)を公にするようになり、米国を中心に世界と様々な対立を及ぼしているのは周知の通りです。

 しかしながら、新型コロナウイルスの封じ込めに一早く成功し、世界でも経済をプラス成長に戻すそのスピード感は、民主主義で実現することは難しく、社会変化がより早くなる未来に向けて、これまで世界が数多の争いの中から編み出してきた統治システムを嘲笑うかの如しです。共産党内の様々な政治闘争がありつつも、総論として中国という統治システムが一気に瓦解することは世界情勢に極めて大きな影響を及ぼすことになるため、当面は中国は現行システムを維持しながら、中国の夢を実現する為に走り続けると考えられます。

 この中国の圧倒的成長を支えてきたものが、多分に漏れず教育システムであり、中国の先端の教育動向を追うことで、中国の未来を考え、日本の教育の在り方への示唆が生まれないかと考えました。

中国の教育システムの本質

 一見すると、中国は6‐3‐3‐4制を採用するなど、教育制度面でそれ程大きな違いはありませんし、高校進学率で見ると、依然日本の方が高水準を誇っています。そのような中、中国の教育システムの本質は、圧倒的な人口が徹底的な受験競争により生み出すエリートの輩出にあると考えます。

 中国の人口は統計上約14憶人ですが、一人っ子政策下で戸籍に登録されなかった「黒孩子(ヘイハイズ)」が2,000万人規模で存在するとも言われており、実態はもっと多いと考えられます。日本の人口の10倍どころではありません。

 世界でも科挙制度の文化が根強く残り、かつこれだけの人口を抱える国で立身出世を図る為には、他人を遥かに上回る努力をし、良い学校に行く必要があります。良い学校に入れなければ、自らの価値を他人に認めてもらうことすら難しい風潮があると言われています

 日本では、詰め込み教育の弊害を是正するため、総合的な学習の時間や協働学習等を通じて主体的・対話的で深い学びを実現しようとしていますが、中国では苛烈な受験競争に加え、積極的な自己主張により自らを認めてもらう必要があるため、必然的に主体的な学びや深い学びを選択していくプレッシャーが存在しています。その為日本のように、「詰め込み教育」と「総合的な学習の時間」を二項対立で捉えるのではなく、特に上位エリート層を中心に融合しながら実質的に教育システムの中に組み込まれています

 上記を鑑みると、中国では、依然として教育格差や学歴格差による社会格差が広がりやすいシステムと見ることもできますが、約1億7,000万個に及ぶ監視カメラが普及し、デイリーで反乱分子の予兆検知報告がなされていることを鑑みると、余程の社会格差による動乱が生じない限りは、愛国心を持つ(もしくは持ったふりをして上手く政権と関係を築ける)上位エリート層で国家・経済活動が運営されていくことになると思われます。

中国におけるEdtechの台頭と特性

 苛烈な学歴競争社会を生き残る為に、中国でも他国と同様中資版Edtechの台頭が著しくなっています。

 これまで職業訓練や高等教育を中心に成長してきたオンライン教育市場ですが、K-12の領域で急速にシェアを伸ばしつつあります。特に新型コロナウイルスが拡大し始めた20年1月以降、政府主導で急速にオンライン環境が整備されたことが更なる追い風となり、オンライン教育市場全体の3割強にまで拡大しています。

 オンライン環境整備の観点からも、中国特有の官民合作について目を向ける必要があります。今回K-12でオンライン環境を急速に整備できたのは、教育部を始めとした政府施策に加え、アリババやテンセントなど有力プラットフォームを活用できたことが大きいと考えられます。日本では、新型コロナウイルスによる休校措置が取られた際に、公主導でオンラインの授業内容や配信インフラを整えましたが、中国では、政府が実質的にアリババやテンセントなどのプラットフォーマーのガバナンスに関与しており、これらCXに優れた民間企業のプラットフォームを惜しみなく活用することができます

 一方、K-12におけるEdtechのトレンドに目を向けると、「適応教育(アダプティブ・ラーニング)」が主流となっています。例えばYixue(易学)
グループが展開している「Squirrel Ai Learning」などは、AIを活用して個々人の学習理解度に応じた学習コースを提供し、最適な練習問題をこなすことで、効率的な学習プログラムを実現できることに主眼を置いています。授業料は、小学生で1時間あたり100元(約1,550円)、中学生だと同200元(約3,100円)でサービスを受けることができ、苛烈な受験戦争を生き残る為に、多額の教育費を払えないネット環境の充実した都市に住む世帯を中心に急速に普及していると推察します。但し、学習プログラムの目的は、あくまで児童生徒が知っていることと知らないことを正確に把握することにあり、児童生徒の興味関心を創発するための要素は盛り込まれていません

中国における教育の未来

 前述の通り、中国では歴史的・社会的背景から依然として苛烈な受験競争を通じた必要人材の育成が可能となっている為、Yixueグループのような一斉授業を支援するサービスのみで充足されているのかもしれません。しかしながら、社会変化のスピードが加速しているのは中国も同様であり、上位エリート層以外も、環境に適応しながら生計を立てることのできるマインドセット、スキルセットを醸成しなければ、監視社会でも回避が難しいほどの社会格差を生み出すことにつながることになります。

 以上を鑑みると、この5年で中国の教育において、上位エリート層以外に適用される教育の在り方が変わる可能性は十分に考えられます。例えば日本と同様、総合的な学習の時間に近いコンセプトが導入されることも想定され、その際は、国家主導で急速にアクティブラーニングや協働学習の概念を盛り込んだ教育モデルが導入されることになると思われます。

日本の教育に対する示唆

 これまでの議論を踏まえると、日本の教育に対する示唆としては、アクティブラーニングや協働学習において、中国に対して先行していることが挙げられます。あくまでビジネスベースの話になりますが、中国が詰め込み教育の是正を本格的に検討し始めたタイミングで、日本発Edtech事業者にとって大きな事業機会につながるかもしれません。

 また、日本におけるエリート集団の在り方についても考えさせられます。中国では科挙制度の延長線上で重点大学が機能しており、重点大学を卒業した人材が国をけん引する形式性が残っていますが、日本では歴史的・社会的・文化的側面からエリートという存在を形式化する(社会で認める)風土が根付きにくく、かつての旧帝大のプレゼンスも徐々にメルトダウンしてきています。ボラティリティの高い環境で生きていく為に、相応の知識と経験を積んだ人材を認め、その人材の下で一致団結していく日本ならではのエリートの在り方を考えることが必要なのではないか。あくまで国家的視点ではありますが、重要論点の一つと再認識しました。 

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