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採用狙いではない? あの企業のnoteは一体、何を目的に運営しているのか?

大企業によるnote運用が少しずつ注目を浴びている。私もKIRINさんやTHE CALBEE さんの記事が好きで、週末の読書を楽しみにしている一人だ。

最近のnoteを活用した企業広報は、ちょっとしたムーヴメントが落ち着き、少しずつ「定番」の発信手段として認知されつつある。……とまあ、それを言い切れる証拠はないのだけど、肌感覚としてそんな風潮があると個人的に感じている。

つい先日も「社内に眠っている魅力を発信したいので、noteを始めます!」と話す広報担当者とSNSでやりとりをしたばかりだ。

* * *

一方でこんな話もよく聞く。

noteを始めたはいいけど……目的は何だっけ?

特にBtoBの場合、事業ドメインによってnoteの有効性が大きく変わるため、そうした悩みを抱くのも当然だろうなとは思っている。そこで2021年の11月にこんなnoteを公開した(↓)

個人的には「伝えたいこと」をすべて詰め込めて満足したが、読者にとっては内容が複雑で、理解も難しかったという声もあった。

そこで今回、もっとシンプルに「BtoB企業はマーケ・採用・世界観」の3つから目的を整理しよう! とメッセージを伝えたいと思う。note発信の目的を見失ってしまった広報担当者の参考になれば幸いだ。

(※ 本文中ではマーケティングを「マーケ」と表記する)

それでは、はじまりはじまり。


BtoB企業のnote運用「3つの軸」

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BtoB企業がnoteを使うとき、最終的に「マーケの促進」か「採用の促進」のどちらかを目的にすることが多いと思います。

いくら無料でスタートできるとはいえ、「カネ」や「ヒト」などのリソースが必要になる以上、どこかで目的や費用対効果、KPIが求められるタイミングがやってくるからです。

ではシンプルに、マーケ促進に役立つものは何かというと「導入事例記事」になると思います。そして採用促進では「社長/社員インタビュー」などのコンテンツが効果を発揮するでしょう。

もしも採用フェーズにないBtoB企業が「オープン社内報が流行ってるぞ!」と勢いのままにnoteを始めてしまうと、途端に痛い目をみる……という話は以前も書きました。

多くの場合、導入事例はコーポレートサイトやサービスサイト内に、社長・社員のインタビューは採用サイト内で十分だったりします。

採用フェーズではないけれど、ブランディングやコーポレート発信の目的でnoteを始めたい……というパターンもありますが、よほど広報に対して理解がないかぎり、更新の手が止まるのは必至です。

そこで今回は、

採用フェーズではなく、でもゴリゴリの事例記事をnoteで発信することにも違和感がある広報担当者に向けて、第3のアイデアを提案します

それが、企業の【世界観】を発信するという考え方です。

《1章まとめ》
・マーケ促進が目的→「導入事例インタビュー」
・採用促進が目的→「社長/社員インタビュー」
・上記2つに加え「世界観の発信」があるらしい

第3の案「世界観」の内訳を解説

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noteの運用で覚えていてほしいのが、何かしらの「理解促進」が前提にあるということです。

例えば導入事例はお客様が商品やサービスを「理解」するのに役立ちます。同様に社内の様子を伝える社長/社員インタビューは、求人に興味をもった候補者の「理解」に貢献します。

では、世界観の発信は「誰に・何を」理解してもらうのでしょう?

答えは「note読者に、実利的な価値以外の全部」です。

これについては、NEWSPICKSさんに掲載されている『【白熱8000字】これからの採用には「マーケティング思考」が必要だ』Sponsored by Indeed, NewsPicks Brand Design 内で示された、以下の図がとても的確だと感じています。

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(※デザインを一部変更しております)

図について、ソフトバンク株式会社 コミュニケーション本部 メディア統括部 統括部長 井上 大輔氏は次のように解説します。

業務用のネジに必要なのは、情緒的な価値ではなく実体があって機能的な「実利価値」です。逆にミネラルウォーターの場合は、機能価値や実利価値ではほぼ差がつかないので、100%情緒的な価値での勝負になります。これをHRで考えると、実利価値は採用条件保証価値は働きやすさ共感価値は会社の理念やビジョン評判価値は入社することがステータス、などが当てはまるので、どの価値を前面に出して勝負するのかを決めましょう。
引用元:https://newspicks.com/news/3833573/body/

note運用を検討する広報担当者の頭には、無意識に上記の図が浮かんでいると思います。実利だけならサービスサイトや採用サイトで十分。中長期的に考えるなら、それ以外のこと(=魅力)を伝える発信が不可欠だ、と。

そこで社内に対する提案では「ブランディング」「コーポレート発信」などの単語を選ぶことになり、結果、稟議や予算の面で苦労がある……のかなと個人的には感じています。

ここからはそういった事情を乗り越えて、いざnote発信がスタートする企業の広報担当者へ向けてお伝えします。

《2章まとめ》
・世界観の発信は「実利価値」を追わない
・その代わりに「評判・保証・共感」を伝える
井上大輔氏の語りで理解を深められる

企業の世界観を伝えるnoteの書き方

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「世界観」なんていう仰々しい表現をしましたが、オウンドメディアの運営では比較的オーソドックスな考え方です。

まずは自社の商品・サービスを利用してくれているお客様に取材依頼を送ります。ここまでは典型的な、導入事例記事を作成する手順と同じです。異なるのは「インパクトのある事例じゃなくていい」ということ。誤解を恐れず書くならば、浅い事例でもOKだよってことです。

一般的にマーケ視点で考えるならば、事例記事はBefore Afterが大きいほうがインパクトがあります。サービス導入後に売上が●●倍になったなど、量的なわかりやすさが求められます。

しかし今回は「実利価値」を追いません。つまり

定量的な成果を読者に見せるのではなく、自社が目指すビジョンの意味づけ(=世界観)を共有するお客様の声を拾い上げよう

という考え方のもと、実際のnote運用を考えていきます。

事例記事の場合、典型的なライティングの型として

① 商品・サービス導入前の課題
② 導入のきっかけと決め手
③ 導入後の定量的な変化・成果

を必ず盛り込むと思います。しかし世界観の発信は①~③の全部に触れなくても大丈夫です。その代わりに「どんな価値観を大切にしているか」を中心にインタビューします。

つまり「定量<定性」を重視した取材ということです。

* * *

例えばですが、オーガニックテキスタイルの企画・製造・販売をおこなうIKEUCHI ORGANIC株式会社(以下、IKEUCHI ORGANIC)さんの『イケウチな人たち。』というメディアがあります。

そのなかにある「今日も誰かの暮らしの支えになりますように。
- 京都の銭湯「玉の湯」店主・西出英男、晴美 -
」という記事がとても参考になると思います。

玉の湯さんはIKEUCHI ORGANICさんと、オリジナルタオルを一緒に作り販売しているそうです。

つまり事例記事の範囲になるわけですが、本文のなかに「導入後にお客様の銭湯利用者数が増えました!」という表現は出てきません(そもそも測定も難しいかもですが)。

その代わりに伝わってくるのは、IKEUCHI ORGANICさんの世界観です。

そこで「同じことをBtoBでもやりませんか?」と私は思ったのです。そして実際に、こうした運用方法でメディア運営をする企業は存在します。

《3章まとめ》
・導入事例の役割を拡張させる考え方である
・世界観の発信は「定量<定性」の声に注目
・書き方の参考は『イケウチな人たち。

「世界観発信」のメディア運営事例

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では実際に、世界観を発信するメディアを見てみましょう。運営企業を3社ほど取り上げます。1社目は、株式会社ニューピース(以下、NEWPEACE)さん。クリエイティブ集団によるブランディング事業を行っています。

noteでは多様なコンテンツを発信をしていますが、今回提案する「世界観」という括りが一番ぴったりだなと感じています。

マーケ寄りの記事ですと、こちらがおすすめです(↓)

前半は「るうふ」さんの紹介を中心にスタートし、徐々にNEWPEACEさんにリブランディングを依頼した背景へとシフトします。Before After的なことも書かれていますが、雑誌感覚で楽しく読めます。

2社目は事例取材ではなく、ストレートに世界観を表現するロート製薬株式会社(以下、ロート製薬)さんのnoteです。有志で結成された編集部によって運営されています。

マーケ予算とか採用予算とか度外視で、noteらしい発信をするんだ! という超・本質思考の企業ならではの取り組みです。

456スキ(2022/05/25時点)を獲得した大好評記事『主体をブランドからお客さまへ。90以上のブランド数を抱えるメーカーが目指すD2Cとは?』は、まさにnoteらしい作品です。

こういったプロジェクトの裏側系は、意図的にnoteなどで場を用意しないと発信する機会を失ってしまうよね……と思うのです。

小売を通じた取引形態のため、BtoBtoCというよりBtoCに分類されることも多いと思いますが、理想的な発信スタイルの企業さんだったので紹介させていただきました。

3社目は、株式会社プレイドさんが運営する『XD(クロスディー)』を紹介します。こちらはnoteではないので恐縮ですが、世界観の共有という意味ではもっとも代表的なメディアだと思っています。

取材先が顧客かどうかは不明ですが、同社の掲げるコンセプト「CX(顧客体験価値)」を実践する企業が次々と紹介されています。印象としてはマーケ目的よりもR&Dに近いイメージです。

立ち上げ経緯について書かれた下記のnoteは、メディアの本質理解に役立つと思います。

さて、3つの事例をご覧いただき、どんな印象があったでしょうか。自社に使えそうな気もするし、使えない気もする……。まだ全貌がはっきりとは見えてこないかもしれませんね。

では傾向として、どのような企業にとって世界観発信型のnote運用がうまくハマるのか。そのあたりを次章で探っていきたいと思います。

《3章まとめ》
・事例1 NEWPEACE
・事例2 ロート製薬
・事例2 プレイド

運用が効果的な企業と注意点

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ご紹介した企業にかぎらず、note活用がプラスになるケースは意外と多いものです。傾向として取引形態が「BtoC」「DtoC」「CtoC」の場合は基本的にnote導入の価値があります。

難しいのは「BtoB」ですが、自社を「BtoBtoC」であると再定義することで、中長期で効果的に働くケースが多いと感じています。このあたりの整理については、下記の記事が非常に勉強になります。

キシリトールやIntel Inside(日本だと「インテルはいってる」)などの成功事例が挙げられていますが、安易に取り組めない点も警告しています。

過去の成功事例を調べるとどれも美しいストーリーとなりますが、実際にBtoBtoC型ビジネスのマーケティングを経験すると、二つの顧客(中間の企業と消費者)の課題を同時に考えることは組織の問題、予算の問題の両面から非常に難易度が高いと感じます。

まず、顧客企業(toB)に求められる価値と顧客の顧客(toBtoC)に求められる価値は同一ではないことを理解する必要があります。
引用元:https://marketingnative.jp/con11/

ここまでいかずとも、BtoBtoC企業におけるnote運用は、直接の利益につながるまでの中長期戦略と継続力がポイントになりそうです。

個人的には、Web制作会社やブランディング会社、研修会社や人材紹介会社などはもっとnoteを活用してもいいのでは? と感じます。

共通するのは

・企業間取引の先に個人がいる
・成果が見えにくい(機能<情緒)

の2点です。

これを「インテルはいってる」になぞらえて、「●●はいってる? 方式」と仮に名付けてテーマを進めたいと思います。

私個人の主観ですと、小室淑恵さん率いる株式会社ワーク・ライフバランスさんのコンサルティングを導入している企業であれば「ホワイト企業なのかもなー!」と感じますし、株式会社グッドパッチさんにMVVの策定をお願いした企業であれば「先進的な発想の会社なのかもなー!」と勝手に感じてしまいます。

まさに「●●はいってる」の状態です。

ここまでを読んで、実利的な価値だけで成立しているBtoB企業の場合は、noteの導入も難しく感じるかもしれません。事業フェーズによって取り組むべきことも変わりますので、無理に推し進める必要もないですよね。

ただ、柔軟な発想をするためのワークと捉える価値はあります。

すべてのBtoB企業は、自社をBtoBtoCであると再定義することが大切です。その際、インテルやキシリトールが自社の場合はどれに該当するかを考えてみることが大事。

原価率や納品サイクルなどBtoBで重視される項目とはべつに、読者・消費者(toC)にとっての価値を見極めることで、noteで発信するコンテンツにも良い影響があると思います。

では最後に、今回の「世界観の発信」というテーマがビジネスに与える成果を整理して終えたいと思います。

《4章まとめ》
・自社をBtoBtoCと再定義してみよう
・「●●はいってる? 方式」を検討してみよう
・noteでどう表現するかを考えよう

BtoBが世界観をnoteで発信する意味

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BtoB企業がnote運用をする際に困惑するのは、

・マーケ予算なのか、採用予算なのか?
・成果指標をどうするのか?

の2点ではないでしょうか。

マーケ予算であれば「PV×獲得率」でリードの数を定量的に追ったり、そこからの具体的な案件数、受注数に紐づく指標が求められるかもしれません。その場合、果たしてnoteが最適解でしょうか。

採用予算であれば「応募者数」や「選考通過率」「内定承諾数」のほかに、入社後の「離職率」や「パフォーマンス」に関する数値も関係します。この場合のnoteは良さそうですが、採用フェーズではない企業にとってはnoteを運用する意味は見いだせなくなります(無意味なオープン社内報)。

なぜ、noteで発信しようと思ったんだっけ?

そう迷うあなたの心には、BtoBtoCのビジネスにおけるブランディング効果への期待があったのだと思います(たぶん)。中長期で自社のことを生活者のレベルにまで認知・認識してもらい、結果としてBtoB取引を有利にする。

みる兄さんMaeketingNativeへの寄稿から引用すると、以下の取り組みにある4番目のアクションをnoteで試みたのではないでしょうか。

1. 顧客(企業)の顧客(消費者)はだれか? を見極めて、消費者に響く価値(機能/情緒)を明確にする
2. 企業固有の価値を定義化し、消費者に可視化する
(PCに貼ってあるインテルのシールや衣料品に表示されるゴア・テックスのタグ、神戸ビーフ取扱い店の印など)
3. 顧客企業に対する教育支援の場をつくり、消費者に提供する製品やサービスの水準を一定以上保つことを約束する
4. 固有の価値を消費者に認知してもらうために、消費者に直接広告プロモーションやPR戦略を組む(※広告プロモーション、PR活動は、顧客企業と共催する)
引用元:https://marketingnative.jp/con11/

ひどく個人的な主張にはなりますが、noteで記事を展開するのであれば広くたくさんの人に読まれる内容がいいな~と思っています。以前の記事では、「雑誌」のようなコンテンツと表現したこともあります。

「BtoBtoCのブランディング」をnoteで実行することは、有効な手段の一つと考えることはできないでしょうか?

道のりは長く、成果指標の設計も難しいと思います。

だからこそ今回の提案では、マーケ文脈に近いかたちを紹介しました。

顧客インタビューの体裁で、お客様の声やロゴを集めるイメージです。だけど「定量<定性」で共有する価値観・世界観をメインに記事づくりをする

採用広報が必要なフェーズに入ったら、ゆるやかに社長/社員インタビューを導入していく。社員数が増えたらインターナル広報の一環で、社内の情報オープン社内報として発信する。

こうした臨機応変なスタイルで良いんじゃないかなと思います。

その先には「中長期で愛されるブランド」として、継続的な取引につながるビジネス的なメリットがあると私は考えます。

ぜひこの機会に、自社におけるnote発信の意味を再確認してみてください。願わくば、これらの活動に少しでも予算を充てられる企業が増えることを祈って。

《5章まとめ》
・BtoBtoCのブランディング効果を狙う
・マーケ予算なら「顧客事例」を切り口に
・御社の「●●はいってる?」は何ですか?

本日も長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!

今後もソレナをよろしくお願いします!


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