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マイノリティを花開かせるオウンドメディアの使い方

「オウンドメディア」で検索するといろいろな解説サイトが見つかります。ですが、基本的にほとんどのところで書かれていることは「嘘」なんじゃないかと思ってます。

…なんていきなり過激な発言になっちゃいましたが、でも実際のところ運用面でのむずかしさはあるものの、ここまで成功事例って生まれないものなのか? ってやっぱり思ってしまいます。

ってことはつまり何かというと、成功の定義から見直さないとそもそもオウンドメディアって価値が出ないんじゃないか…みたいなことをここ1~2週間ずっと考えていました。

そこで今日は、

第一部:オウンドメディアの嘘
第二部:オウンドメディアの本当

でお話していきたいと思います。

第一部:オウンドメディアの嘘

よく語られているオウンドメディアのメリットを引用しながら、どのあたりに嘘があるのかを見ていきます。

1.広告の費用対効果が改善される

これが達成されるのは、SEO対策されている企業ブログなどで十分なリード獲得ができる場合などで、そもそもオウンドメディアなのか、という定義からしてギモンがあります。

私からすると、顕在化されているニーズに働きかけるものはメディアというよりは、コンテンツマーケティング的な話であって、その手段にって達成される話だと思うんです。

このケースで想定される事例としては、BtoBであれば『ferret』さん、BtoCであれば『北欧、暮らしの道具店』さんかなと思います。

メディアは、深いインサイトにある潜在的な欲求に働きかけることができる優れたツールだと思うのですが、欲求や悩みそのものがすでに顕在化されている見込み客にアプローチするやり方はコンテンツマーケティングの文脈だけでおなかいっぱいという感覚です。

理想は「ファン」という考え方の中にあると思っていまして、例えば私は世代的に元JUDY AND MARY のYUKIが好きだったりするのですが、普段飲んでるビールはサッポロ黒ラベルだと知ったその瞬間から黒ラベルを飲むようになった経緯があります。笑

これと同じイメージで、〇〇のメディアで「これがいい」って言ってたから買ってみた、という効果が発揮できてこそのメディアだと思っています。

これはメディアがブランド化されているとも言える状況で、インフルエンサーなどは個人がブランド化しているので、紹介した商品はなんでも売れていくみたいな現象がありますよね。

オウンドメディアも、そうあってこそ初めて価値を持つのかなと思います。

2.自社ブランドや信頼性を高める

有益な情報を流すことによって専門家としての信頼が高まる、という流れでメリットが語られることが多いのですが、これも本当にそうかなと思うことがあります。

というのも、そのメディアに対しては確かにブランド力や信頼性は高まりますが、企業や製品に対してのそれと本当に紐づくのかな?というところです。

例えばなんですが有名どころでいうと『サイボウズ式』さんや『アドタイ』などがあるかなと思います。

これも私個人の感覚ですが、『サイボウズ式』がオウンドメディアの成功事例らしいという認識はあるのですが、だからといってサイボウズの製品、たとえば「kintone」などへの信頼が高まるかというとそうではありませんし、一番最初の頃に関しては運営会社の名前が「サイボウズ」であることも認知していませんでした。

『アドタイ』にしても同じで、確かに「AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議」と表記はしているものの、記事検索で見つけた時点でそれを認知するかというとそうではなく、偶然にも何回、何十回と同じ特徴的なレイアウトの記事に触れていく中で「ところでここのサイト、なんていう名前?」と思うレベルです。

さらにここから「ところでここのサイト、どこが運営してるの?」なんてまず思わないと思います。今でこそ職業病で私は調べてしまいますが、多くの人にとってはそうではないと思います。

以上の理由から、オウンドメディアは認知の部分で多少の効果があるものの、ほとんどのケースにおいては企業ブランドや製品への信頼は高まらないのではないかと考えています。

3.顧客のロイヤルティが高まる

いや~…。本当にそう思いますか?

顧客のロイヤルティが高まるというのは、例えばサイトの運営会社に対して信頼が増したりとか、製品に対しての愛着がわくなどのことを指すと思うのですが、これはこれ、それはそれ、という感覚が私はあります。

逆は確かにあると思うんです。無印良品の製品が好きなので、きっとメディアも面白いんじゃないかなって。でも、読み物が良いからといって製品も良いとはあまり私は考えが紐づきません。

そう考えた時に、すでにブランドが確立されているものがより顧客をファン化させることはできたとしても、その逆はむずかしい気がしています。

最初の実績がなく、だけど読み物がおもしろいから製品にも興味を持つ…という文脈で成功しているオウンドメディアを私がまだ事例として見つけられていないだけかもしれませんが…。

近しい事例でいうと『THE BAKEMAGAZINE』や、企業ブログになりますが『Goodpatch Blog』が確かにあります。

でもどちらも、すでにある企業やブランドの価値にレバレッジを利かせた良い事例ではあるのですが、このメディアがあったから急成長したのかというとそうではないと思うんですよね。

グッドパッチさんはStand.fm のラジオの中で「グノシーのUIデザインがきっかけで依頼が増えた」との発言がありますし、ベイクマガジンも初期の記事タイトルが「1人から120人に増えたBAKEのこれまでと、今後のミッション」でした。

いずれにしても、オウンドメディアはすでにあるブランドにレバレッジを利かせることはあっても、これがあるからといってブランドロイヤルティが高あるということに紐づけるのは無理がある気がしています。

もしこれを成立させたいのであれば、個人でSNSアカウント運用する方がぜったいに早いと思います。ニックネームでTwitter を運用しているインフルエンサーの方々が山ほどいますが、そういうやり方になると思います。

4.幅広く情報を拡散できる

ポスティングチラシに比べればそりゃあオンラインなので情報拡散力はあると思いますが、SNSと比較したら圧倒的にSNSの勝ちです。

もしこれが理由でオウンドメディアを始めたいのであれば、その前にTwitter やInstagram、YouTube を始めた方が賢明です。同じテキスト媒体であったとしてもnote の方が有利だと言わざるを得ません。

5.発信内容をコントロールできる

おそらくこれをメリットに掲げる理由というのは、PRなどで他社のメディア媒体に掲載された時との比較だと思います。

テレビにしろ雑誌にしろ、本当に伝えたいことを適切な量で伝えるということは難しく、それを実現するには自社メディアである必要があります。

ですが……。

これも自社のブログやコーポレートサイト内のどこかに書けば済む場合の方が圧倒的に多く、オウンドメディアにして伝えたいほどのことがあるのかというとかなり疑問があります。

自社の商品やサービス、プロダクトの宣伝がしたいケースがほとんどだと思いますので、それが目的なのであればプレスリリースを書いてPR TIMES に掲載依頼した方がまだ費用対効果も高そうです。

6.広告費を削減できる

こちらもかなりムリがあるメリットの提示かなと思っています。

多くの場合において、オウンドメディア運用と並行して広告費の運用が続いていたり、仮に広告費を削減ができたとしても記事制作の外注費や社内での人件費がかかってしまいます。

そしてこちらもメディア事業として広告収入を得られるのであれば話は別ですが、自社利益と直接のつながりを持たないオウンドメディアでは、広告費の削減と紐づけたメリットの展開には疑問があります。

まだ自社ブログを通して、お問合せやリード獲得につなげた取り組みの方が効果的といえるため、オウンドメディアである必要はないと思うのです。

第二部:オウンドメディアの本当

これまで言われてきたオウンドメディアのメリットをことごとく潰してきたわけですが、ではそもそも世の中的に不要なものなのかというとそうではないと思っています。

オウンドメディアが役立つシーンというのがあると考えています。同時に、必要とする人たちがどういった方々なのか、も併せて考察します。

まず結論から申し上げると、私は「中小のベンチャー企業」こそがオウンドメディアを必要とするのではと考えています。

それも、志やビジョンを熱くしている経営者が旗振り役で、届けたいと思っている商品やサービス、プロダクトのニーズやウォンツが、まだ顕在化されていないビジネスをしている場合です。

極端に言ってしまえば、まだ市場に顧客が誕生していない分野については、オウンドメディアが大きな役割を果たすのではと考えています。

イメージは、”マイノリティによる署名活動” です。

例えばですが、20代~30代の働く独身女性のための、自分らしい人生を選ぶひとのための仕事と好きを応援するメディアとして日経Doorsがあります。

2019年2月創刊という、オウンドメディアとしてはかなり後発で、コンセプトもかなりありふれています。

これを基盤の弱い中小企業がやってしまうと認知をさせることが大変です。

しかも、すでに顕在化した悩みや欲求が見えやすいので、オウンドメディアではないマーケティング施策の方が早くに効果が出そうです。

現時点で250万PVを超えるアクセスがあるようですが、これは日経ウーマンなどの雑誌ブランドとしての影響力もかなり相まっていると思います。

メディア事業をしたいというのなら話は別ですが、自社の商品やサービス、プロダクトへの認知を目的にするのであれば、この領域に後発で入っていく意味はほとんどないように思えます。

では、正解は何か?

正直なところ、私が考えるオウンドメディア論の「正解」を貫いている骨太な企業なんて実はないんじゃないかと思っていました。

「もしかしたらそうかも…」と思えるメディアがないわけではないのですが、その目的が何なのかという裏付けまでが欲しかったんです。

そうして検索しまくること2週間以上…。
ようやく見つけました。

CXプラットフォーム『KARTE』を提供している、株式会社プレイドさんです。もう完ぺきなるオウンドメディア運営で、その目的の置きどころも本当に理想的でした。エビデンスは下記のnote になります。

以前運営していた『Shopping Tribe』というEC専門メディアの話からした方がいいですね。KARTEがCXプラットフォームとしてリブランディングする前は、ウェブ接客プラットフォームと呼んでいて、プレイドには「ウェブ接客」という市場を作るというミッションがありました。
ところが、この概念をどのように伝えていくかを検討していた2013年の段階では、当初サービスのターゲットとしていたEC業界の人々が購読するメディアがほぼない状態でした。ウェブ接客の概念を伝えるための場所がないだけでなく、この業界自体がまだ盛り上がっていなかったんです。だから、業界の人々が集まるメディアを自分たちで作ってしまって、ウェブ接客の概念を伝えられる場所を作ることにしました。
ただ、運営していてしばらくして状況が変わりました。ひとつは、EC業界が盛り上がり、ECをテーマにしたメディアもどんどん登場してきたこと。
KARTEが誕生したのは、インターネット上の顧客の体験を良くしたかったから。それが私たちにとってウェブ接客という意味でした。ただ、ウェブ接客という単語は、チャットやポップアップなど、ユーザーの目の前に表示されるインターフェースや仕様のみを切り取って、何かをユーザーにプッシュすることがウェブ接客と言われるようになってきたのです。これは、私たちが当初目指していたものとはずれているのではないかと感じはじめました。
KARTEがCXプラットフォームにシフトするタイミングで、プレイドにとって必要なメディアとは何かを改めて考えました。CXという概念は以前からありましたが、具体的にどのような取り組みを指すのかは、ほとんど情報が流通していない状況でした。そこで、「CX」の概念を伝えていくメディアが必要だと考えて、『Shopping Tribe』を卒業して、新しくCX特化型メディア『XD』を立ち上げることにしました。
XDのミッションは、人々に「CX」の重要性に気づいてもらうこと。KARTEの広告を一切出していませんが、CXの重要性が伝われば、自然とKARTEを必要としてくれる市場が広がっていくと考えているので、ミッションを達成することに注力しています。
例えば、私たちが開催している「CX DIVE」というカンファレンスは、CXの様々な考えを知り、体験するイベントであり、その目的を達成するために何があるべきかという視点で考えています。CX DIVEはスポンサードセッションがなく、自社のプロダクトであるKARTEの宣伝も一切していません。これはスポンサードセッションや宣伝が良くないという話ではなく、「CXを本質から学び、アップデートする」という目的に沿うかどうかを考えたときに、今までのCX DIVEではそのようなコンテンツは入れるべきではないと考えたからです。
イベントというのは、一つの旗印であり、多くの人たちが集まり、熱量が可視化される貴重な機会です。一つの大きな旗を立てて、そこに集う人たちと一緒に、世の中がこういう方向にいってるんだと体感できる場を作りたいと考えていました。メディアとイベントの両立は多角的に仕掛けられるので、メディアで取材した人にイベントに出てもらうなど、メディアとイベントはさらに連動させていきたいですね。
XDも最初は苦労しました。そもそも「CXに取り組んでいます」と発信する企業がいない。そこに注目するメディアもなく、情報が出回っていない。だから、「この企業はきっとCX的な活動をしているのでは」という仮説を立てて、取材していきました。
CXが注目されるということは、社会がより本質に向かうということなんですよね。これまでは、流行る・流行らないなど、マーケティング的なテクニック論が注目されがちでした。企業は顧客に喜んでもらうために商品やサービスを提供しているのに、その根底にある思想や熱意などは取材であまり聞かれなかったんですよね。
メディアはどうしても、表面にあるわかりやすい事象やユニークさのみを取り上げてしまいがち。だから、企業が熱意を持って取り組んでいることとは違った面を取り上げられてしまうこともある。結果、本質ではないところが注目されすぎてしまって、企業が自分たちの価値を見失ってしまうことさえも起こります。私たちは、企業の根底にある思い、顧客をどうやって幸せにしようとしているかを届けている。そこは絶対にぶらさない。XDを運営する上での軸ですね。
最近は、オンラインで発信していたXDと、CX Clipというメディアの記事を再編集して、手に取りやすい冊子形式でまとめた季刊誌「XD MAGAZINE」を創刊しました。「XD MAGAZINE」は冊子形式で情報を再編集することで、情報量や順番に制限をかけて、読む人の体験に介入しています。オンライン上に膨大な情報があると言われても、そこにアクセスするのは興味がある人だけ。CXへの興味や関心が高まっていない人の入り口となるためにはどういう形式にすべきか、という観点から考えたものです。
我々が提供している「KARTE」はBtoBのSaaSなので、普段は、なかなかエンドユーザーの声を拾うことがむずかしい。ですが、メディアやイベントを通じて、エンドユーザーと接触することができる。エンドユーザーとの接点は貴重です。だから、メディアやイベントを通じて得たフィードバックは全社にしっかりと共有して、学びにしないといけないです。

ここまでの引用文をお読みいただければもう十分かと思いますが、プレイドさんはこれまでに何度かメディアを立ち上げています。

ひとつは「WEB接客」という概念がまだ弱く、市場が育つ前の段階で運用を始めた『Shopping Tribe』です。

そしてもうひとつが「CX(顧客体験)」という定義がまだ曖昧で、市場に浸透する前に始めたという『XD(クロスディー)』です。このメディアは私も大好きで以前からよく読んでいました。

特にお気に入りの記事がこちら。

(ゆえに、もっと早くにオウンドメディアの正解エビデンスをつかめたのではという悔しい思いでおります…)

どちらも共通しているのが、市場がまだ育っていない、定義があいまいで明確化されていない、概念が整っていないという状況です。

そして、運営メディアの認知度が上がりPVが増えた現在でも、KARTEの宣伝もしなければ、リード獲得にも踏み切っていません。あくまで『XD(クロスディー)』の新着をお知らせするメルマガのみです。

さらにそこから「カンファレンス」や「雑誌」などを手掛けている点も理想的だなと感じましたし、そこでもまたスポンサードの収益を得ていないという貫いた方針。

今はとにかく「広告」が嫌われる時代です。ここまで潔い本質的なオウンドメディア展開をしている事例は稀ではないかと思っています。

企業ブログという選択肢

ここまでを読んで、「もっと短期で自社利益につなげたいのだけど…」と呆然とした方もいらっしゃるかと思います。

ご安心ください。そういった方には「企業ブログ」という選択肢があります。そしておそらく、世の中的にオウンドメディアとして定義づけられているほとんどはこちらの「企業ブログ」です。

ぜひ合わせて「企業ブログ」の成功事例をご覧ください。


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