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第17話. 無意味の意味よ。もう一度。(青春電波小説「デザインのむきだし」)

 こんばんは、永井弘人(アトオシ)です。突然ですが、私は「エンタメ」に人生を救われてきました。

 テレビのバラエティ番組や音楽のライブ。“人を本気で喜ばせよう”という意志は、デザインと同じです。

 しかし、中高時代。“勉強”を生活基盤とする中。当時の大人からは、上記「エンタメ」をみたり、取り組んだりすることは、「無駄な時間」とされていました。

 いまこそ、言いたい。

 人生は、「人が『無駄』だと感じることに、本気で取り組む」ことに価値がある、と!

 “おおくの人に賛同される”ことなど、すでに他の誰かがやってらぁよ。だからこそ。いまの時代、“おおくの人に「バカじゃねぇーの!」w”と思われることを真剣にやり、数年後に100万、1,000万以上の価値を築きあげる。

 それこそが、自身が生まれてきた意味であり、生きる証であり、「デザイン」なんだ。

 あ、今回はそんな話しでーす!

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「あらすじ・コンセプト・目次」はコチラ
「第16話. ホワイト×ブラック、ネクストボックス。」はコチラ

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 虚ろな目をしながら、ひたすら、「デザインのむきだし展」の準備を進める。展示用のクライアントストーリーも執筆している。

 僕の専門学校。卒業制作の結果発表後は、卒業式を迎えるだけ。就職が決まっていない学生は、就活に励む。内定をもらっている学生は、旅行だなんだ、今しか味わえない青春を楽しんでいる。

 卒業制作ではなんの賞もかすりもせず、彼女もいなく、遊ぶ友だちもいなく、就職も決まってない僕。就活もしないで、自主企画の「デザインのむきだし展」準備に打ち込んでいる。

 一体、何やってんの、お前? 誰が見ても、そう思うだろう。

 いやいや、僕は今、セックスをしているんだ。「デザイン」と、セックスしているんだ。

 オレの彼女は「デザイン」。将来の嫁は「デザイン」。皆が彼女とセックスしている間、僕は「デザイン」とセックスしているんだ。「デザイン」と結婚する。そうだそうだ。うらやましいかい?

 沸き上がる負の感情を力に変える。それが、強い人間ってもんだ。

 日本語青春パンクロックの楽曲たちが、僕を後押ししてくれた。負けるもんか。負けるもんか。勝つ相手、闘う相手は、自分自身か。ひたすら、文章を打ち込む。閉店間際、誰もいないベローチャで。

  *

 2月末。開催日間際の「デザインのむきだし展」。搬入日が近づく。持ち込むもの。B1パネル10枚、その他、自前の照明やら機材やら諸々。

 よーく考えたら、とてもじゃないけど、一人では持っていけない。バイクの免許はあるけど、車の免許はない。大きいパネルを引っかけたり、設営準備も一人じゃ厳しいだろう。……ちゃんと考えてなかった。

 今まで、「一人でも、必死こいて頑張ればなんとかなる」って考えてきた。現実、なんとかなっていない。そして、頼る相手、頼れる相手もいない。

 学校内の不真面目なクラスメイトを見ては、反骨心でデザインに打ち込む。「デザイナーになる」ことの現実から目をそむけやがって。なんて思っていたけど、一番、「現実を見ていなかった」のは、僕自身だったのかもしれない。

 「現実」を考える。

 一人じゃ、設営も開催も無理だ。最高の展示には、最高の準備が必要だ……一人じゃ、とても……。……ベローチャおっさんの言葉を思い出す。……「人を頼れ」。そうだ、人を頼ろう。でも、誰を……?

  *

 さすがに、本展示のクライアントである、「高橋・佐川・優美・千夏」を頼るのは避けたい。どんな展示になるか、期待してくれているはずだ。サプライズ的な意味も込めて、ちゃんと設営が終わった、正式な開催後に会場を見てほしい。

 加奈子、樺島? ……論外である。この2人には意地でも頼りたくない。他、春休み中なので、多くの学生は東京を離れていたり。

 こんなにも、僕には頼れる人がいないんだな……と改めて。なにが、「人に向けたデザイン」だ。僕の周りに、「人」がいないじゃないか。みじめだ。

 一度、空を見上げる。ため息をつきながら、スマホの連絡帳をスクロールする。……ふと、指がとまる。「箱森くん」。

  *

 箱森くんは、高校の時にやっていたコンビニバイトの同期。勤務先のコンビニは、エイトイレブン、中野坂ノ上店。

 僕と箱森くんは同い年で、とても気が合った。17時〜22時のバイトが終わった後、帰らずにバックヤードでひたすらしゃべっていた。おかしなお客さん、学校での出来事、恋愛、好きな音楽……話しても話しても、トークのお題は全く尽きない。

 あまりにも盛り上がって、気づけば日をまたぎ、深夜2時、3時を過ぎていることも多々あった。夜勤の人がバックヤードに戻る度、「お前ら、まだいんの!?」と驚いていた。

 高校卒業のタイミングで、僕らはほぼ同時にバイトをやめた。お互い、それぞれの道に進み、離ればなれになった。そこから、2年間。特に連絡は取ってこなかった。

 ひさしぶりに連絡がきたと思ったら、「搬入と設営、手伝ってほしい!」……なんて内容。相手の立場だったら、きっと、迷惑だろうな……。

 ……いや、お願いしてみないとわからない。頭を下げて、真摯にお願いする。まずは、やってみる。ダメだったら、その時に考えよう。

  *

 緊張しながら、箱森くんに電話をかける。プルルル、プルルル、プルルル、プッ、

「おぉ、ひさしぶり!」
「……あっ箱森くん、ひさしぶり! 最近、どう?」
「こっちはボチボチだよ〜。働きながら、自分のペースで音楽やってるよ」

 そうだ。箱森くんは、色気あるエロい歌声と、技術あるギター演奏が得意だったんだ。高校卒業後、地道に楽しみながら音楽やっていくよ、って言ってた。

「そっちはデザインだっけ? 調子はどう?」
「ははは……いや、まぁ、その、がんばってるよ」
「……そっか。で、どうしたの?」
「実は、ちょっとお願いがあって電話したんだ。ひさしぶりの連絡で、“お願い”ってのもかなり野暮なんだけど……」

 展示企画、搬入・設営のことを話す。黙って聞いてくれている。

「大丈夫だよ! 車も出せるし。搬入日? 仕事終わってからでよかったら、そのまま設営も手伝えるよ」
「……ありがとう…………」

 正直に伝えよう。僕は、ここで涙してた。先日、自室で流した涙とはちがう涙。“いい人すぎる”箱森くんのやさしさに触れた。

 それ以上に、「人は人を頼らずして、生きていけない」。

 そんな、当たり前のことに気づかず、デザイン力をつける! なんて猛進していた自分。本当に周りが見えてなかった……。ありがたさ、切なさと情けなさ……。

  *

 搬入日。仕事終わり、箱森くんは車で僕の自宅まできてくれた。パネル諸々の準備物を車にのせる。展示会場「リバーギャラリー」へ。搬入、設営開始。

 一緒に設営を進めながら、ここ2年間に起きた、お互いのことを話す。

 時に真剣に聞き、時に爆笑。それは大変だったね! そいつ、ヤバイね! 悔しいね! 嬉しいね!

 ……バイト終わり、バックヤードの時間を思い出す。高校生のアホな雑談時間。こんな感じだったな。時間を忘れて、「無駄」な話をたくさんした。そんな時間。人間くさい時間。実は、“大切な意味ある時間”だった。

 「無駄」な時間のようで、まったく「無駄」じゃなかった。むしろ、「無駄な時間」は間違いなく、僕自身の生きる気力や活力になっていたんだ。

  *

 ある著名デザイナーの言葉。「『無駄』って素敵ですよね。『無駄』こそ、いいんですよ」。

 なんでも無意味に過ごす時間ってのは、人間にとって、睡眠と同じぐらい必要らしい。ソース? ネットメディアの25チャンネルだよ。情報源としては、かなり正確だろう? あながち間違ってはいないと感じる。

 超合理的に生きるのであれば、「睡眠・仕事・食事・ウンコ」のみやっていればいい。でもさぉ、それじゃあ、味けない人生になっちゃうよなぁ。だから人生に、「エンタメ」の意識を取り入れる。

 すると、「無駄」に「刺激」が増す。「エンタメ」は、十人十色。趣味の映画であったり、男女集まるBBQだったり、漫才見ての抱腹絶倒だったり、コスプレイヤーのインスタアカウントを見て、妄想デートする時間だったり。

 その「価値」のわからない他人から見れば、「な〜んでそんなことに時間費やしてんの? 『無駄』じゃん! 笑」とバカにされるだろう。最低限の衣食住は、誰も「無駄」とは言わない。逆に言えば、そこ以外は、すべて「無駄」だと思われる可能性大。でもね。それが普通なんだ。

 生きている? 生かされている? 嘆く「無駄」な人生であれば切ないが、「あひゃひゃ、『無駄』だったなぁ」と笑い飛ばせるのであれば、オールOK。だから恐れるな。「無駄」を、「無意味」を。

 デザインだって、なきゃないで別に生きていける。でも、あったらあったで、生活がより豊かになる。

 つまり、「デザイン」は「エンタメ」でもある。「デザイン」を伝えることも「エンタメ」。自ら「楽しむ」、見る人、読む人、訪れた人を「楽しませる」。

 「デザインのむきだし展」よ、ここだぞ、ここ。

 開催後、この会場に来る人たち。「睡眠・仕事・食事・ウンコ」時間は削られるかもしれないけど、その分、心がちょっとでも豊かになったのならば、「最高の無駄時間」のはずだ。

 ありがとう。「無駄」に、「無意味の意味」に、改めて感謝。さてさて、僕の、あなたの心は豊か?

  *

 あっという間に設営が終わる。いや、物理的な時間はかかったけど、近況報告雑談が盛り上がりすぎて、とても短く感じた。好きな女の子との楽しいデート時間も、あっという間に感じる、あの感覚。

 ふん、もう好きな子は取られたけどね! ……ってか、そもそもお前のものじゃない。そんなんだから、ふられたんだよ。ほっとけ! あ、取り乱しました。

 箱森くん、帰りも車で僕の家まで送ってくれる。本当にどこまでいい奴なんだ、この人は……。いい奴すぎて、逆にこわいよ……。

 やさしさ、こわい。まんじゅう、こわい。こわいこわいこわい。次、お茶がこわい。

 車の中。将来の夢を語る。

 箱森くんは、「自分のペースで、楽しみながら音楽をずっと続ける」こと。僕は、「日本一、デザイナーではない人に、デザインを伝える人になる」こと。

 各々の価値観。いろんな人がいる。だからこそ、接すること、話しをすることが面白い。

 僕の家についた。何度も何度も礼をいって、車を降りる。ドアをしめる。見送ろうと、振り向くと。ウィーーーンッと窓があいた。箱森くんが口をひらく。

「……あのさ、こんなことしか言えないけど」
「ん?」
「がんばりすぎずに、がんばってね」
「…………ありがとう」

 今の自分に響く言葉。いろいろ察してくれたのかな。沸き上がる感情は、目に見える形にしよう。明日から、「デザインのむきだし展」。開催だ。

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◎ 次の話、「第18話. 『デザインのむきだし展』初日。人と感情とリンクする。」はコチラです。
「あらすじ・コンセプト・目次」はコチラをご覧ください。

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感謝の気持ちを込め、一曲、歌います。「ありがとう」。聴いてください。あ
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グラフィックデザイナー。グッドデザイン賞受賞。東京デザイナー学院講師。日本タイポ協会会員。YouTube→bit.ly/2KHHgo1 著書「デザイナーになる!MdN」→https://amzn.to/2USvPvi デザイン事例サイト→https://atooshi.com
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