無差別の籤引きを震えて待つ夜
星をまいた藍色の空の下でただひたすらに震えていた。
確率の計算は苦手だ。この国の人口だって正確なところはわからない。だいいち世の中で起きたすべてのことを知っているわけではない。それなのに残酷で苦しくて肝が冷えるような計算がやめられない。
どれだけの人が自然の流れに逆らうような形での喪失を味わうことなく人生を終えられるのだろうか。
パチパチと電卓をたたく。
そうこうしているうちに夜は更ける。
おそらくほとんどの人はそうなのだ。
ただ公衆回線にのって知らされるごく一部の悲劇性が強すぎるあまりそういったことがありふれた事象であると錯覚しているだけなのだ。
いくら思っても君は帰ってこないし震えは止まらない。
プロミスキャス。
いつだってどこで何が起きるかなんて誰にもわからない。
心臓を掴まれるような思いに耐えながら籤引きに当たらぬように祈るしかない。
銀砂の思い出
喪失の日は今日と同じような星の夜だった。
最後の言葉は何だったのか思い出せない。
「行ってきます」なんて言葉を残していくほど律儀な性格ではなかった。
メールは機種変更で全部消えてしまった。
帰ってこなかったのは籤引きに当たったからなのだろうか。
それとも別の理由なのだろうか。
確かめる術も勇気もなかった。
知ろうとしなければ知らないままでいられる。現実から一枚壁を隔てたところで心乱されずに立っていられる。耳も目もふさいで自分を守ってきた。
歴史は繰り返すなんていわないでよ。
もう誰もなくしたくない。
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