見出し画像

エンゲージメントドリブンの新しい獲得戦略〜刈り取り型獲得の終焉〜

■ はじめに
こんにちは! Repro Growth Marketerの稲田宙人(@HirotoInada)です。

先日8/5に、これからのカスタマーエンゲージメントに関するカンファレンス「CEC Next」が開催されました。
当日は、約1,000名の観客の方に視聴頂き、Repro大型カンファレンス第一弾である2019年12月に開催された「Customer Enagagement Conference」にも引けを取らず大盛況の内に幕を閉じました。
参加できなかった方はイベントレポートをお楽しみにお待ちください!

そんな「CEC Next」ですが、僭越ながら実はひっそりと僕も、「顧客エンゲージメントを重視したこれからの獲得戦略」をテーマにOrganizer Pitchにて登壇させて頂きました。
本noteはそのPitch内容を当日話せなかった部分を拡充してまとめたものです。
是非、当日視聴参加された方も参加されなかった方もご覧ください!

1. 旧来の獲得戦略の限界

さて、まずはそもそも何故これからの獲得戦略はエンゲージメントを重視しなければいけないのかに関してです。

獲得戦略と聞くと、多くの方は如何に効率良く獲得するかを模索し、KPIとしてはCVRやCPI・CPAを設定されるケースが多いのではないのでしょうか?
しかし、旧来の上記の戦略では今後どんどん獲得パイが小さくなるだけでなく、アプリ全体の定着率が低下し成長が鈍化していく恐れがあります。

ここでは以下3つのトピックをその理由として挙げます。

①:個別最適施策の終焉
②:アプリ保持数は頭打ちに
③:IDFA取得のオプトイン制導入

①:個別最適施策の終焉
旧来のマーケティング戦略では、広告・オーガニック・アプリ内マーケティングがそれぞれ別の部署により実施され、KPIもチームごとに個別に設定されていることが主でした。

しかし、この状況は顧客目線で考えると強い違和感を覚えます。なぜなら、事業者側からすると施策実施箇所は分かれていても、ユーザー側からするとタッチポイントして一貫した流れになっているからです。

画像1

Source:Reaching Coherency between ASO , Performance Marketing and Brand

では、各部署が個別最適を図るとどのような問題が発生し得るのか?想像に容易い点で言えば、各部署が自身のKPIを最大化しようとする為、部署間の軋轢が発生する恐れがあります。ただ、それ以上に大きな問題として、各タッチポイントの体験に整合性が存在しないことで、顧客との長期的な関係性が築けなくなる恐れがあります。

この一貫した施策実施の重要性は、世界最大のASO(アプリストア最適化)に関するカンファレンスである"ASO Conference 2020"でも声高に各登壇者から主張されています。実際、獲得から定着までを一貫した施策を実施した所、全体としてのアプリ成長に繋がったケースは多く報告されています。

それなりのものが簡単に誰でも手に入るようになったアフターデジタル時代においては、各タッチポイント単体の最適化ではなく、長期的な顧客との関係(=エンゲージメント)を見据えた戦略設計が獲得から必要になるのは否定しようがない事実でしょう。

②:アプリ保持数は頭打ちに
世界全体で見るとまだまだアプリDL数は上昇トレンドにありますが、日本は既にマーケットとして成熟段階に入っています。日本においても、一応まだDL数自体は微増にはあるのですが、注目するべきなのは、A:保持アプリ数と利用率B:日あたりスマホ利用時間の2つのデータです。

スクリーンショット 2020-08-08 15.31.23

Source:AppAnnie「State of Mobile 2019」より稲田作成

まずは、A:保持アプリ数です。上の図はAppAnnieが発表している「State of Mobile2019」のデータを元に、ユーザーあたりの保持アプリ数と利用率の推移を表したものです。ご覧頂くと分かる通り、時間を経ても保持アプリ数・利用率の傾向に大きな変化はありません。しかし、DL数全体自体は未だ伸びいているのは前述の通りです。これは、今後益々限られた利用枠を巡って熾烈な戦いが起きることを意味しています。

この傾向はスマホ利用時間の推移からも読み取ることができます。

スクリーンショット 2020-08-08 15.40.03

Source:AppAnnie「State of Mobile 2020」

上図から分かる通り、日本においては毎年スマホの利用時間が継続して上昇しています。しかし、保持しているアプリ数・実際にアクティブに使用するアプリ数は既に頭打ちになっている。つまり、ユーザーは気に入ったアプリは継続的に使用するが、気に入らなければ次の違うアプリのインストールの為にすぐに削除されてしまうんですね。

ここまでのデータをまとめると以下のようになります。

増加:
・ストア上のアプリ数
・日あたり利用時間
・全体のDL数

横這い:
・一人当たりアプリ保持数
・アクティブに利用するアプリの数・率

→見つけてもらえる可能性の低下(= 自社アプリのDL率・DL数の低下)
→継続して使ってもらえる仕組みの重要性の上昇

ASOなどで見つけてもらえる可能性を挙げる取り組みは勿論ですが、ユーザーが真に求めるものを流入から定着まで一貫して提供し続けることの重要性が上昇している背景がお分かり頂けるでしょう。

③:IDFA取得のオプトイン制導入
先日のWWDCでのiOS14からのオプトイン制の導入は業界に大きな衝撃を与えました。TapResearchの調査によると、IDFA取得許諾のダイアログへのオプトイン意向は僅か19%となっています。

画像4

Source:How might IDFA deprecation have minimal impact?

これは、アプリ利用後に休眠をしてしまったユーザーに復帰を促す手段としてのアプリリエンゲージメント広告のリーチ可能ユーザー規模と価値が大激減することを意味しています。プッシュ通知などを使用して眠らせないようにする・眠ったユーザーを復帰させる施策も勿論大事になります。
が、それよりも更に重要になるのが、そもそも眠らせないように獲得の段階からエンゲージメントベースで戦略を設計することであるのは言うまでもないでしょう。

長くなりましたが、以上3つのトピックを端的にまとめると以下のようになります。

■ 旧来の獲得戦略
手法:リーチ数と獲得効率を意識した面の刈り取り型
KPI:CVR・CPI・CPA
→競争は激化しパイは窄まっていく

■ これからの獲得戦略
手法:タッチポイントのユーザー体験を一貫させた線の農耕型
KPI:RR・LTV
→顧客と長期的な関係を持つことでサービス全体の成長に繋がる

では、実際にエンゲージメントドリブンの獲得戦略とはどのように設計すればいいのでしょうか?次章で詳述します。

2. エンゲージメントドリブンの新しい獲得戦略

■ カスタマーエンゲージメントとは?
具体的な獲得戦略に関して触れる前に、そもそものエンゲージメントの定義に関して簡単に振り返ります。Customer Experience(顧客体験)と混同されがちなCustomer Engagement(顧客エンゲージメント)ですが、以下のようにそれぞれ定義されます。

Customer Experience(顧客体験)
・マーケティング部署からサポート部署まで、あらゆる企業との接点における顧客体験のこと
・CRMに見られるように顧客は「管理」をする対象であり、顧客は受動的
Customer Engagement(顧客エンゲージメント)
・CXを長いスパンで改善していくこと
・複数回の体験の積み重ねを念頭に置き、企業全体の収益改善を図る
・顧客はただ体験(experience)を与えられる立場なのではなく、主体的な参加者

つまり、この後詳述するエンゲージメントドリブンの獲得戦略とは、「最終的な収益をゴールとする為に、獲得から継続的な利用の一貫した体験をユーザーの主体的な行動・意向を元に設計していく」ことを指します。

尚、上述のCustomer Experience(顧客体験)とCustomer Engagement(顧客エンゲージメント)の違いに関しては手前味噌ながら、弊社オウンドメディアの「カスタマーエクスペリエンス(CX)とカスタマーエンゲージメント(CE)の違いとは?定義・歴史的背景から考える。」が非常に参考になりますので是非ご覧ください!

■ エンゲージメントドリブンの獲得戦略
さて、では具体的にどのような手法がエンゲージメントドリブンの獲得戦略になるのでしょうか?ここでは3つの軸で考えてみたいと思います。

①:アプリ内のデータ→獲得領域にフィードバック
まずは、アプリ内での実際のユーザーの行動データを元に獲得戦略を設計する方法です。

スクリーンショット 2020-08-08 16.20.20

上図は、ユーザーの行動を横軸に取り、それぞれの段階で取得できるデータをどのように獲得領域にフィードバックできるかを表したものです。具体的には以下のようなフィードバック方法が存在します。

1. RR・LTVベースのキーワード対策
・旧来のCVR・CPI・CPAベースではなく、長期的な成果としてRR・LTVを設定してキーワード対策を行う

2. アプリ内使用キーワードの転用
・実際にユーザーがアプリ内で使用している・興味があるキーワードを獲得領域にも転用する
例:ショッピングアプリ内での商品検索キーワード
例:漫画アプリでの漫画ジャンルごとの閲覧傾向

3. UGC内出現キーワードのマーケティングメッセージへの転用
・SNSやブログなどでユーザーによってそのサービスに関して言及する際に使用されているキーワードをマーケティングメッセージに転用する
・自社として推したいポイントと実際にユーザーが評価している点に乖離があるのは往往にして存在する

ここで注目頂きたいのが、どの転用方法も獲得・定着・収益の段階横断的に実施される点です。推測ではなく、実際に長期的に利用してくれているユーザー(=エンゲージメントが高い)の行動・興味に基づいた戦略を一貫して適用することが重要になります。

②:認知・流入から利用開始〜定着までの一貫性
次に、アプリ外(認知・流入)からアプリ内(利用開始・定着)までの体験の一貫性の担保です。アプリ初期離脱要因として大きいものとして以下2つが挙げられます。

1. アプリ利用前と後の期待値の乖離
・サービス認知時の体験イメージと実際の体験に乖離が存在する
例:広告内容と実際のゲーム内容が乖離し過ぎている など

2. アプリ利用開始の手間

・サービス認知のキッカケとなった体験をするのに利用開始からステップが存在し手間がかかる
例:広告で見た漫画を読みたくてアプリをインストールしたのに、利用開始時に検索をしなければいけない、しかも興味のない漫画がレコメンドされる など

両要因にある課題とは、アプリ内外でユーザー体験が分断されている点にあります。この状況を改善するには、ディファードディープリンクCustom Details Page機能(未実装)などを活用する必要性があります。

画像8

ユーザーが認知をしたきっかけ・興味を元に表示するコンテンツをアプリ内外で動的にカスタマイズすることで、獲得から利用開始までの体験がシームレスに繋がり、継続利用に繋がっていきます。

ディファードディープリンクやCustom Details Page機能の活用方法詳細に関しては以下noteをご覧ください!

③:認知・検索キーワード→プロダクトへのフィードバック
最後は新規獲得ユーザーの認知のきっかけ・興味を既存プロダクトの改善方向性にフィードバックしていく方法です。具体的には、サービス認知のきっかけとなる検索クエリをアプリ内体験と照らし合わせることを指します。

■ 音声配信アプリの例
マーケティングメッセージ・アプリ内体験:
・視聴者層を獲得することを目的とする
・「ラジオ 無料」「音声配信 暇つぶし」などで検索されていると推測

実際のユーザー検索クエリ:
・配信者層の流入がほとんど
・「ラジオ 配信」「音声配信 簡単」などで実際は検索されている

→直近の配信者層の流入に合わせてマーケティングメッセージを変更・配信者向けの機能改修に注力

上記は極端な例ですが、アプリで推しているポイントと、実際にユーザーが求めている体験の乖離を小さくするのが一貫した体験提供に重要になります。
尚、前述の ①:アプリ内のデータ→獲得領域にフィードバック とは逆の戦略になるので事業方向性に合わせて適切な戦略を選択する必要がある点に注意です。

■ エンゲージメントドリブン獲得戦略のKPI
次に、どのKPIに注目して獲得戦略を設計するべきかに関して記述します。

旧来の獲得戦略ではCVR・CPI・CPAなどの指標(下表赤色部分)をKPIとして設定していました。つまり、如何に効率よく利用を開始させるか・新規サービス利用ユーザーの最大化が目的となっていました。しかし、この刈り取り型戦略では前述の理由より、獲得パイは窄まっていくばかりになります。

スクリーンショット 2020-08-08 16.20.46

今後のエンゲージメントドリブンの獲得戦略は、アプリ全体の長期的な成長・即ち収益(上表青色部分)をゴールとして設計をすることが必要になります。

ここで、上表のキーワード別のパフォーマンスを見てみましょう。旧来の獲得戦略では、CVR・CPIがゴールとなる為、キーワードAに注力するべきという結論が出るはずです。しかし、エンゲージメント関連の指標を見てみると、実はキーワードAは残存月数・月売上が最も低く、キーワードBが最もユーザーが長く使ってくれるだけでなく、アプリ全体の成長にも寄与していることが分かるのです。

上記はキーワード単位での例ですが、キャンペーン単位・オーディエンス単位でも同じ考えは適用できます。アプリ内外を分断したKPI設計がアプリ全体の成長には繋がらないことがお分かりいただけたでしょうか?

3. エンゲージメントドリブンの獲得戦略の効果

さて、最後にエンゲージメントドリブンの獲得戦略がどのような効果をアプリ全体の成長に及ぼすかを図解して終わります。

2章の ①:アプリ内のデータ→獲得領域にフィードバック で用いた図はユーザーの認知からシェアまでの行動を一本線で表したものでしたが、下図はアプリ全体の成長循環構造を表しています。

スクリーンショット 2020-08-08 16.21.31

ポイントになるのが、継続ユーザー数・継続率の上昇・売上の増加と離脱率の低下は、獲得領域のASOの検索順位向上・露出量増加にも影響をする点です。ASOにおける検索順位決定には直近のDL数や売上などの量的指標以外に、継続率・アンインストール率・評価などの質的指標の重要性の比重が増している為、カスタマーエンゲージメントの向上は認知・獲得領域にも成長循環としてフィードバックされることになります。

さらに、獲得領域でのグロースはアプリ内定着率にも好影響を与えます。以下のグラフは広告経由と自然検索(オーガニック)経由のユーザーの継続率の比較をしたものですが、長期的な継続率に関しては自然検索(オーガニック)経由のユーザーの方が高いのが見て取れます。

画像9

Source:Appsflyer 2019 App Retention Benchmarks

認知・獲得から定着・収益化まで一貫した顧客体験を提供することで、ユーザーエンゲージメントは向上し、それがアプリ全体の成長の好循環エンジンとなるのです。

最後に

以上が これからのエンゲージメントドリブンの獲得戦略とその効果 です。

繰り返しにはなりますが、各ユーザータッチポイントごとの部分最適施策は今後は長期的関係性の構築には繋がらずパイは小さくなっていきます。
今後大事になるのは、ユーザー体験を時間軸として捉え、ユーザーを「管理」するのではなく、1人1人の興味・嗜好・行動を考慮した状況に合わせたコミュニケーションを行うことです。

エンゲージメントドリブンの戦略を獲得領域から一貫して行うことで、顧客との長期的関係性を構築できるだけでなく、サービス全体の成長好循環が回り続けることになるでしょう。

----------
Twitterでは獲得領域だけでないアプリのグロース全般に関する発信を行なっています!
良ければシェアやフォロー頂けると嬉しいです!
また、ご意見やご質問があればお気軽にどうぞ!

https://twitter.com/HirotoInada

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?