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最後に全速力で走ったのはいつだっけ

映画館で『言の葉の庭』と『天気の子』を観てきた

劇場再開後の特別企画として、新海誠監督 セレクション上映が行われるというので、6月13日に『言の葉の庭』を、翌14日に『天気の子』を観に行ってきた。両作品とも初見ではなかったが、もう劇場で味わうことはないだろうと決めていた作品たちだったので、公開情報を知ってすぐにチケットの予約を済ませた。

高円寺から新宿まで中央・総武線(各駅停車)で10分足らず。新宿駅東口から歌舞伎町へ出て、TOHOシネマズ新宿へ向かう。映画館へたどり着くまでの道中に胸が高鳴るこの感覚も、久しぶりだった。

言うまでもないが、映画は実に素晴らしかった。ただ僕はここで映画評論を垂れるほど薀蓄を持ち合わせていないし、公開から随分経っているから両作品について論じたブログは数多ある。だから今回は、僕が作品を見ていて目頭が熱くなったシーンを振り返り「なぜあそこで泣いてしまったか」について考察を深めていきたい。

新海作品には「走る」シーンが多いと思う

僕が泣いたのは、『言の葉の庭』終盤、雪野先生がタカオに駆け寄った後、タカオが雪野先生を抱き寄せるシーン。そして『天気の子』終盤、帆高が陽菜にもう一度会うために、代々木の廃ビルへ向かうシーンだ。

映画の中でもクライマックス中のクライマックスなので、泣いてしまうのは当然といえば当然なのかもしれない。しかし注目したいのは、両シーンとも主人公あるいはヒロインが「全速力で走っている」ということだ。

映画に偶然はなく、すべてのシーンに意味があるとすれば、クライマックスにほど近いシーンに「全速力で走る」というカットが例外なく差し込まれているのは、必然の作用が働いているというほかあるまい(『君の名は。』にも三葉が全速力で走るシーンが象徴的に描かれているのを思い出した)。

全速力で走る──この行為に込められた新海誠監督の思いとはなんだろうか。

振り返ってみると、僕は、自分が最後に全速力で走ったのがいつだったのか、まったく思い出せなかった。そもそもここ数年、持っている力を最大限に振り絞って何かに尽くした経験は果たしてあったろうかと自身に問うた。誰かのために祈って、遅れたらもう二度とチャンスはないと、文字どおり全身全霊をかけた経験はあったろうか、と。

映画に出てくる主人公らは、自分の大切な人、救われていた人、忘れたくない人、生きていてほしい人のために全力で走っている。過去や未来、世界、世間のことなど顧みてなんかいない。

雪野先生は走ってタカオの居場所へ向かう際、階段で派手に躓いて転んでしまう。それでもすぐに前を向き、再び走り出すのである。帆高が新宿・渋谷あたりのJR線路上を走っている際、待ちゆく人が彼を指差して「あいつやばくない?」と嘲笑するカットが這入っているが、それでも、彼は脇目も振らずに陽菜のもとへ走っている。

この光景に僕は不意に胸を打たれ、涙が流れてしまったのだ。

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交換可能な存在だってわかってる、それでも。

自分が交換可能な存在だってことを、いやほど思い知らされるのがこの世のつらいところだ。人手不足とはいえ、3年間勤めた職場においても僕の替わりになる人材なんて山ほどいる。過去に愛した恋人さえも、いまは知らない誰かと手を繋いでいる。そういうものだ。

自分でどう足掻いたって「君の替わりなんていくらでもいるよ」って言われ続けると、人は全速力で走るのをやめてしまう。全速力で走ったところで、どうにもならないように世界が作られてしまっていることを、すでに知ってしまったから。

しかし新海誠監督作品では、必ず劇中で主人公が全速力で走る。彼らが走る先にあるのは、いま自分の心が欲している「大切ななにか」だ。

走るという身体経験を通して、自分にとって大切な何かが身体感覚として知覚され、揺るぎないものになっていく。極論、走らずにタクシーを使ったほうが目的地までは速く着くだろう。そうだとしても、自分の肺と脚と腕を使って、心臓のBPMが高鳴るのを感じて、途中転んだとしても再び立ち上がって誰かのもとへ向かう。そんな若者の姿が、新海誠監督作品では度々描かれてきた。

大人だって、全速力で走っていいんだと思う。

たとえ取るに足りない小さな自分の人生であったとしても、脇目も振らずに走っている最中にしか見えない世界があるかもしれないのだから。「大切ななにか」は、その先の世界で待っているものなのかもしれないのだから。

そういう美しい世界の存在を教えてくれるのが、新海誠監督作品の真骨頂ではないかと、僕は思っている。


愛の歌も 歌われ尽くした 数多の映画で 語られ尽くした
そんな荒野に 生まれ落ちた僕 君 それでも

愛にできることはまだあるよ
僕にできることはまだあるよ


(愛にできることはまだあるかい/RADWIMPS)


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最後まで読んでくださって、ありがとうございます!

ありがとう。
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私事を書き連ねたポエムでありますから、あまりじっくり読まないでください。

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心に留めておきたいnote
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コメント (2)
素晴らしい
ミムセイさん コメントありがとうございます!また読みに来ていただけると嬉しいです☺️
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