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進撃の巨人|暴力の連鎖を断ち切るには?

最初に断っておくと、ネタバレを含みますので、初回の鑑賞を新鮮な気持ちで迎えたい方は、読まずにブックマークなどに追加して、鑑賞後にお読みください。

暴力の連鎖を断ち切るには?

「進撃の巨人」とは何だったか?それは読み手の数だけ答えがあることだと思います。
僕にとってこの作品を通して考えたことのひとつである「暴力の連鎖」、これをいかにすれば断ち切れるのかを考えさせられました。

物語の前半では、壁の内にいる人類と巨人の戦いでした。
そして、壁の外の世界を知り、後半は人類同士の戦いになります。

進撃の巨人では作中においてのストーリーは、現代に生きる我々にとっても、考えるべき興味深い内容となっています。興味があれば、ぜひ本編をお楽しみいただければと思います。

今回は、物語後半の台詞を参考に、暴力の連鎖を断ち切るには?について考えてみたいと思います。

事実では解決に至らない

正義だと?今、正義を語ったか!?あんたが、あんたらが送り続けてきた巨人に抵抗してきた俺たちが悪だったのか?
いいか、俺たちが必死に戦ったのは巨人に食い殺されたくなかったからだ、それが悪魔の所業だっていうのかよ!おっさん!

あぁ、お前たちは悪魔に見える
パラディ島脅威論は現実となり、今や世界は滅びつつある、お前らが必死に戦った結果がこれだ、違うか?

あのな、そもそも壁破られて目の前で母親が食い殺されていなきゃな、エレンはこんなことしてねぇよ!地鳴らしまで追い詰めたのはお前らだろうが!

おい、今更歴史の話をしようっていうのか?
先にマーレを苦しめ、蹂躙したのはエルディアだってことくらいは理解してるんだろうな?

二千年も前のことでいつまで被害者面してやがる

全くガキと話してるようだ
そのような戯言が、実在する二千年の歴史に通用すると思っているのか?

ん、なんだと…

あぁやめよう、見たわけでもない二千年前のいざこざ話なんて退屈だ

アニメ進撃の巨人 第84話「終末の夜」

これは、主人公の仲間のジャン・キルシュタインと敵国マーレの軍人テオ・マガトの会話で、元々敵同士で殺しあっていた両者が、主人公エレン・イエーガーの人類大虐殺を止めるために手を組もうと焚き火を囲んでの会話です。

背景について簡単に説明すると、二千年前に主人公たちの民族エルディア人はマーレを含めた多くの民族を巨人の力を使って蹂躙していた。その後、エルディア人はパラディ島に逃れた者と大陸側に残された者に分かれました。
現在、パラディ島の外の世界では、エルディア人は過去のことで迫害を受けて、マーレ国では収容区に囚われて自由がない奴隷のような状態です。
また、マーレがパラディ島への攻撃を仕掛けた際に、主人公は母を目の前で巨人に食われたのです。ジャンはそれが事の発端だと主張しているのです。

両者とも主張している内容は事実だと思います。マガトは史実に基づく、世界が信じる事実を。ジャンはパラディ島で戦ってきて主人公の近くで起こった事実を。
お互いの立場で間違ったことは言っていませんが、このスタンスで話続けても歩み寄ることがないことは明白です。

壁の外には人類がいて、私たちを悪魔の民族だって言ってるんでしょ?でも、なんでそんなに恨まれてるのかわからないの
ミア、ベン、教えて?お母さんは一体何をしたの?何をしたからこんなに恨まれてるの?

何千年も世界中の人々を虐殺したからでしょ

何千年?

そんなことも忘れていたなんて、エルディア人は何千年もの間、巨人の力で世界を支配し蹂躙してきたの
他の民族の文化を奪って、望まれない子を産ませて、数えきれないほど他人を殺してきたの、被害者ぶるのはやめて!!

でも、お母さんはこの辺で生まれ育ったからそんな酷いことはしてないと思う

だから百年前あなたたちの先祖が犯した罪の大きさが問題なの

百年前って、じゃあ今生きている私たちは一体何の罪を犯しているの?

つい、こないだだって私の街を蹂躙した…

私のお母さんが殺されたのは四年前だからその罪じゃない

だから、先祖が世界中の人を逆殺したから…

お母さんは誰も殺してない!!
ねぇミア、ちゃんと答えて、なんでお母さんがあんなに苦しんで殺されたのか、何か理由があるんでしょ?そうじゃなきゃおかしいよ?なんでお母さんは生きたまま身体を食べられたの?ねぇ?何のために殺されたの?ねぇ?なんで!?

アニメ進撃の巨人 第70話「偽り者」

壁内人類のカヤと壁外から来た(ミアと呼ばれている)ガビ・ブラウンとの会話です。
カヤの母は巨人に食われ、何のために殺されたのかを問うています。

ガビはマーレの戦士候補生(巨人の力を継承するための訓練を受けた者)で、マーレの教育で自らの民族エルディア人が過去にしてきた残虐な行いを教えられ、過去の罪を償わないといけないと信じています。
そして、パラディ島のエルディア人は悪魔で自分たち大陸のエルディア人は善良であるとマーレに示すには、戦争で活躍してマーレにそれを示す必要があったのです。

ジャンとマガトとの会話もそうでしたが、歴史や民族のことで争っていても、きっと互いが求める答えを提示することは困難だと思います。
解決に至らないどころかむしろ、それがまた別の争いや暴力を生むことになり得ます。

暴力の連鎖

サシャを殺したのはコイツです、あなたの娘さんの命を奪いました
まだガキですが、厳しく訓練されたマーレの兵士です
マーレから退却する飛行船の中で、コイツがあなたの娘を、サシャを撃ったんです

娘?ハッ!?

ブラウスさんどうぞ、あなたが殺さないなら俺が殺しますが、構いませんね?
(中略)

やめて、ファルコは違うの

この坊主はお前のなんだ、お前をかばってこうなったよな?お前の大事な人か?
俺にも大事な人がいたエルディア人だ、悪魔の末裔だ!
だが、彼女は誰よりも俺の料理を旨そうに食った!!
このクソみたいな戦争から俺を救ってくれたんだ、他人を喜ばせる料理を作るのが本当の俺なんだと教えてくれた、それがサシャ・ブラウス、お前に奪われた彼女の名前だ!!

私だって、大事な他人たちを殺された!そのサシャ・ブラウスに打ち殺された!だから報復してやった!先に殺したのはそっちだ!

知るかよ、どっちが先とか!

目を覚まして!あなたはマーレの兵士でしょ?きっとその悪魔の女に惑わされている!悪魔なんかに負けないで!

ニコロくん、包丁を渡しなさい、さぁ…
(中略)
サシャは狩人やった、こめえ頃から弓教えて、森で獣を射て殺して食うてきた、それが俺らの生き方やったからや
けど、同じ生き方が続けられん時代が来ることはわかっとったから、サシャを森から外に行かした
で、世界は繋がり、兵士になったサシャはよその土地に攻め入り他人を撃ち他人に撃たれた
結局森を出たつもりが、世界は命の奪い合いを続ける巨大な森の中やったんや
サシャが殺されたんは、森を彷徨うたからやと思とる
せめて子どもたちはこの森から出してやらんといかん、そやないとまた同じところをぐるぐる回るだけやろ
だから、過去の罪や憎しみを背負うのは我々大人の責任や

アニメ進撃の巨人 第72話「森の子ら」

先ほどのガビ・ブラウンは、主人公たちの仲間サシャ・ブラウスを殺しました。
そして、ニコロは元マーレ軍の兵士でしたが、今はパラディ島で料理人となっており、彼にとってサシャはかけがえのない大切な人でした。その彼女を殺したガビを殺そうと、サシャの父ブラウスさんの前へ連れてきた場面です。
後半の語りはブラウスさんです。

ちなみにこの後、カヤが命の恩人で姉のように慕っていたサシャを殺したのがガビだと知り、殺そうとします。

ガビもニコロも、被害者であり加害者でもある。
殺されたサシャも、加害者であり、被害者でもある。

この会話の人物はそれぞれ大切な人を亡くしています。
暴力の連鎖によって、本人たちには関係のない理由で…。


連鎖を断ち切るには

悪魔なんていなかった、この島には人がいるだけ、やっとライナーの気持ちがわかった
私たちは見たわけでもない他人たちを、一方的に悪魔だと決めつけて、ずっと同じことを、ずっと同じことを繰り返してる
ごめんねファルコ、あんたはわかっていたのに

アニメ進撃の巨人 第77話「騙し討ち」

ガビの語りです。
パラディ島のエルディア人を悪魔だと教えられ、それを信じていたガビが、島で過ごし変化したのがわかる語りです。

私たちは民族や集団などの集団を指して語ることがあります。
その集団はひとりひとりの個人です。当たり前のそのことを忘れてはいけません。


なんで私をかばったの?

そっちこそなんで私を助けたの?それも命懸けで?

さぁ…?

わたしはあなたを殺そうとした、私悪魔なんでしょ?

違う、悪魔は私…
あたしは他人を何人も殺した、褒めてもらうために、それが私の悪魔

そいつは俺の中にもいる、カヤの中にも、誰の中にも、みんなの中に悪魔がいるから世界はこうなっちまったんだ

じゃあ、どうすればいいの?

森から出るんだ、出られなくても、出ようとし続けるんだ

アニメ進撃の巨人 第81話「氷解」

カヤが巨人に襲われているのを、ガビが助け、助けたことで窮地に立たされたガビをカヤが助けたときの会話です。
ニコロも会話に加わっています。

憎み合い、殺し合った3人が互いに自らの中に悪魔がいることを確認しています。


君たちに責任はない、同じ民族という理由で過去の罪を着せられることは間違っている
ピーク、アニ、ライナー、お前たちも世界の憎しみを一身に背負う謂れはない
だがこの血に濡れた愚かな歴史を忘れることなく後世に伝える責任はある
エレン・イエーガーは全てを消し去るつもりだ、それは許せない
愚かな行いから目を逸らし続ける限り地獄は終わらない

アニメ進撃の巨人 第85話「裏切り者」

最後に、最初に紹介した台詞でジャンと何千年前の話で言い争っていたマガトの台詞です。調査兵団やマーレ軍の仲間に語りかけています。

きっと暴力の連鎖を断ち切るということは、何かが変わった瞬間に訪れるものではありません。ひとりひとりの人間が積み重なりで少しずつ切り離されていくものです。

愚かな行いから目を逸らし続けてはいけないのです。
そして、森から出ようとし続けなければならない。


どうでしたか?
進撃の巨人の台詞を、暴力の連鎖を断ち切るには?というテーマの内容で選び、紹介させていただきました。

今回、主人公のエレンは登場させませんでしたが、どのキャラクターも魅力的でいろんな視点で物語を観ることができます。
ご興味ありましたら、ぜひ一度ご覧ください。

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