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タペストリーのような大風呂敷 『三体2 黒暗森林』

翻訳モノには、独特のマゾヒズム的な楽しみ方がある。

もう「新刊」は出ている。
でも、読めない。
ギリギリ行ける英語でも大作は躊躇する。
原書を読んだ人たちから「傑作」といった評が耳に入ってくる。
ジリジリしながら、訳を待つ生殺しに耐える日々。

『三体』3部作にそんな思いを抱く方は多かろう。

『三体II 黒暗森林』早川書房
劉慈欣/著 大森望、立原透耶、上原かおり、泊功/翻訳

私もこれほど「まだか…まだか…」と待ち焦がれるのは『フロスト警部』シリーズ以来だ。
待った甲斐はあった。
2作目にあたる『黒暗森林』はシリーズ最高との下馬評に違わぬ傑作だ。

1作目について私は当サイトで「一気読みのエンターテインメント性をそなえた第一級のSF」と評したうえで、読者を引き付けるのは「精緻さと強引さのバランス」と書いた。

今回も同様に「ギリギリあり」の綱渡りで構築されるスリリングな世界で、荒唐無稽と紙一重の稀有壮大なストーリーが展開される。

ネタバレはご法度なのでこれ以上は踏み込まないが、コン・ゲーム系のミステリー好きなら「面壁計画」で描かれる裏の裏、そのまた裏をかくトリッキーな心理戦に間違いなくハマる。
だましあいの相手は何光年という距離を隔てた地球外生命体で、スケールの大きさも文句なし。人類の中の対立、「人間vs人間」の近距離戦の妙味もたっぷりだ。
物語としての面白さだけでなく、全体を通す「別の星系で発展した知的生命体は共存共栄できるのか」というテーマの掘り下げも興味深い。

三部作の完結編『死神永生』は今作をさらに超えたスケールの「大きなSF」で、日本語版の刊行は2021年春ごろだという。

まだ半年以上、焦らされて待つ羽目になってしまった。
待ちきれずに既刊2作を再読しようものなら、禁断症状が悪化するのは目に見えている。

1作目、2作目とも未読の方にご提案。
ひとまず「積読」にしておいて、3部作がそろうまで待ってはどうだろうか。この壮大な作品を一気読みできれば、極上の読書体験になるだろう。

とても我慢できないというせっかちな方々、あるいは「待たされるのも、また良し」というマゾヒズム的な同志諸氏はすぐさま手に取って、半年間、悶絶して待ちましょう。

どちらにしても、読まない手はない。

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本稿は光文社のサイト「本がすき。」に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

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