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再読必至!文系向けオススメ理系本10選

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理系になれなかった文系君

「文系・理系という分類は日本独特のおかしなモノだ」なんて説があるが、現実には、この仕分けはある程度ワークしていると思う。
私は文系だ。残念ながら。
なぜ残念かというと、正確には「理系に憧れたけどセンスが無かったのであきらめた文系」だからである。

理系の道を断念したのは高校時代のバスケ部の友人Tの存在が大きい。
高校2年の初夏のころだっただろうか、私は数学の問題集を開いて別の友人と「この問題さっぱり解き方が見えないんだけど」と話していた。
すると、居合わせたTが一瞥するなり、
「なかなか面白い問題だね、これ!」
と一瞬で解法を見抜いた。秒殺である。

Tとは帰宅の方角が同じで、部活後などの帰り道にたくさん話をした。
そう頻繁に勉強が話題になったわけではないが、折に触れて「ああ、こいつと俺は生まれ持ったセンスが違う」と痛感した。
高3になり、私は文系、Tは理系を選んだ。その後、Tは国内トップクラスの大学に進み、今は半導体関連の研究職に就いている。

「理系になりたかった文系」の私は、文系としては割とたくさん理系本を読んできた人間だと思う。
今は年に数冊程度に減ってしまったが、中学生から大学にかけては、読書の3分の1ぐらいは理系本だった。

理系本を読む効用は、世界と人間を理解する手がかりが増えることだ。
高井少年は、中学生になったころから、

「人間は、どこから来て、どこに居て、どこに行くのだろう」

という、子どもらしい、大上段かつ漠然とした問いにとらわれ、「いろんな本を読めば、段々、いろいろと分かるに違いない」という、これまた子どもらしい素朴なソリューションを選択した。
そこから始まった乱読は、大雑把に言えば、

「どこから来て」→宇宙論、進化論、歴史
「どこに居て」 →近現代史、脳科学、心理学、数学、小説
「どこに行く」 →地政学、経済、IT、AI含む認知科学

といった方面にわたり、その時々の疑問の「穴」を埋めるような読書を積み重ねた。
このスタンスは今も変わらない。
変わったのは「読めば読むほど疑問は深まる」という恐ろしい真実に気づいたことぐらいだろうか。
ともあれ、理系本は、この穴埋め作業に欠かせないパーツだ。

まあ、そんな大層なテーマなど置いておいても、宇宙スケールの問題や数学の深遠な美、浮世離れした奇人・変人が多い科学者・数学者の人生に触れると、「俺ごときが地球の片隅でチマチマ悩んでもしょうがねえな!」という爽やかな達観が得られる。
仕事や生活に倦んだら理系本に逃避するのは、悪くない一手だ。

前置きはこのあたりで切り上げて、本題に入ろう。
以下、無理やり10冊に絞った、私の理系愛読書です。

1 10歳からの相対性理論(都筑卓司)

宇宙はビッグバンで始まったらしいが、私の理系本への道は都筑卓司先生から始まった。同年代なら「イエス!」と叫ぶ方も多いと思う。
Wikipediaにある通り、都筑先生は講談社BLUE BACKS史上、最大のスーパースターだ。累計300万部とは、恐れ入ります。

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(娘用に買い直した新装版)

「10歳からの相対性理論」との出会いは鮮烈だった。
本書が世に出て2年ほど経った1986年の秋。中学2年生の高井少年は名古屋市内(今池か池下)の映画館に「エイリアン2」を見に行った。
夏休みに稼業の手伝いに連日駆り出されて珍しくお金に余裕があり、「1人でふらりと映画館に行く」という大人っぽいことをやってみたくなったのだった。かわいいな、俺。

初の単独映画鑑賞は映画史に残る大傑作を引き当てる幸運に恵まれ、映画館を出たときにはかなり気が大きくなっていた。
「これで帰りに書店に寄って本など買うと、さらに大人っぽいのではなかろうか」と駅前のウナギの寝床みたいな書店に入った。
入店してすぐ、1冊だけ棚刺しになっていた「10歳からの相対性理論」に引き寄せられるように手が伸びた。SF映画を見た直後でもあり、「10歳」と「相対性理論」という意外な組み合わせが強い引力を発していた。タイトル、大事です。

パラパラめくり、カラー、モノクロを取り混ぜたイラストに心臓の鼓動が早まるほどの衝撃を受けた。一番印象的だったのはこのカットだ。

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この髭剃りアインシュタインの絵には、

「自分がもし光と同じ速さで走ったなら、鏡には自分の顔がうつらないだろうか?」

という文言が添えられている。有名なアインシュタインの思考実験だ

「ん?映るよな?あれ?でも映らないか?あれ?」
高井少年は、今まで考えたこともない問いに戸惑った。
他のイラストも、常識(古典物理学)からは考えられない、相対性理論の不可思議なエッセンスにあふれていた。
「なんだこの本!全然知らないことばかり書いてある!
「10歳からの」とあるのだから、中学生でも読めるんだろうと信じて速攻でレジに行き、帰りの電車で読みふけった。

帰宅してから2階で寝転がって一気読みし、すぐさま最初のページに戻って斜め読み気味に再読した。自分の理解度を確認するためだ。
ちなみに、これ以降、この「読了→即、再読」は、最高の本に出会った時の私の癖になった。

読了したときの興奮も鮮明に覚えている。
これまたほほえましいのだが、母や兄をつかまえて相対性理論の概要をまくしたてたのだ。反応は「完全スルー」に近かったが、とにかく誰かに新しく知った「真実」をシェアしたかった。本を読んでそんな気持ちになったのは初めてだった。

この経験はその後の私の読書の姿勢を大きく変えた。
本を読んでいる最中から、「この内容を自分の言葉で他人に説明できるだろうか」と自分の理解度を確かめるようになった
読みながら「こう説明すれば伝わるな」とシミュレーションし、「ここがポイントだ」と思えばファクトやデータを暗記するよう心掛ける。そして読み終わったらすぐ、誰かに「まあ聞けや。こんな面白い本を読んだんやけど…」とプレゼン(?)をするようになった。
これは、本で得た知識を「我が物」にする最高の方法の1つだろう。読書術のノウハウ本でもちょいちょい紹介される手法だ。
私の場合は単に「俺の話を聞いてくれ!」という欲求から身についた長年の癖でしかないのだが

「10歳からの相対性理論」に戻ろう。
アインシュタインを中心とした科学者たちの評伝と相対性理論の初歩的な解説を組み合わせたこの本は極上の科学読み物だ。都筑先生、文章うますぎ。
「10歳からの」はさすがに誇張で中高生以上じゃないと理解は難しいと思うが、文系が物理学の面白さに触れるには最高の入り口だろう。理論だけでなく、現代物理学を築いた主要な科学者を幅広くカバーしているので、「人モノ」読書の横展開にもつながりやすい。
中2の高井少年、偶然とはいえ、ナイスチョイス、ベストチョイスである。

実際、私はこの本を入り口に、中学生のうちに都筑先生の既刊のBLUE BACKSを片っ端から図書館で借りた。
どれも面白かったが、なかでも量子力学の基礎を解説した「不確定性原理」には「10歳からの相対性理論」並みの衝撃を受けた。その後、他の著者へとターゲットを広げてBLUE BACKSを借り倒し、読み倒した。

高校生・大学生になってからは、都筑先生の新刊が出ればすぐに買った。wikiのリストを見ると、17冊ある都筑BLUE BACKSのうち、読んでいないのは「パズル」シリーズ3冊だけ。相対論、量子論、素粒子論を扱った「10歳からの」シリーズと「不確定性原理」は、何度も再読している。

数えたことはないけれど、BLUE BACKSシリーズ全体なら、これまでに100冊近く読んでいると思う。今は廃止された「10冊買えばブックカバープレゼント」も2度ほどゲットしたはず。はて、どこに眠っているやら…。

今回の「10選」にはBLUE BACKSはこの1冊しか入れていないが、文系諸氏は「困ったらBLUE BACKS」です。
ま、たまにトンデモ本が混じってますが。

都筑先生への敬慕の念がほとばしり、本稿はすでに3000字を軽く超えている。ここからはサクサク参ります。

2 ソロモンの指輪(コンラート・ローレンツ)

「再読必至!」とうたう限り、自分が再読した本を紹介しないとフェアではない。その点、「同じ本が2冊ある」のは再読の強力な証拠だろう。

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言わずと知れたこの動物行動学の古典は我が家に2冊ある。長年、片一方のカバーが見当たらなかったのだが、今見たら上の写真の左の方に表紙が2枚重なっていてビックリした。どうでもいいですね、はい。
2冊あるのは「学生時代に買って就職で上京する際に実家に置いてきたけど無性に再読したくなったので東京でまた買った」からである。
(訂正:2冊ある理由、勘違いしてました。こちらに裏事情が

こんな名著をくだくだしく解説するのは野暮というものだ。今、パラパラめくっただけですでに再読したくなっている。「ガラスの仮面」同様、忙しい時に手にとってはいけない危険な本である。
万が一、あなたが未読なら、黙ってポチって読めば良いレベルの傑作だ。
ローレンツは「攻撃 悪の自然史」も面白いのでオススメ。

3 ゲーデル、エッシャー、バッハ あるいは不思議の環(ダグラス・R・ホフスタッター)

アバウトに「読んだ順」で紹介している。
お次はこちら「GEB」。初めて読んだのは大学生のときだった。滅法面白いが、難解でうねるような文体が2段組み700ページ超にわたるので、初読は暇な学生時代に済ませたい本だ。
例のごとく「面白れえじゃねえか!」と読後にすぐ再読し、10年前に記念版を書店で発見してまた読んだ。コレを3回読むのは相当の物好きだろう。

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(20年経って「本当は何を書いた本なのか?」って…)

タイトルは、「自己言及型パラドックス」が中核にあるゲーデルの不完全性定理と、反復性を持ったエッシャーの絵画、主題への回帰を繰り返すバッハの音楽には、「ループ性」という共通項があり、この特性が人間の知性の本質にも関与しているのでないか、というテーマを示している(のではなかろうか)

何かの「答え」が書いてあるわけではなく、読む過程で受ける知的刺激を楽しむ認知科学分野の最高のエンターテイメントだというのが私の認識だ。
人工知能本ブームの今、「ところで、GEBは読んだ?」とオジサンが若者にマウンティングするにも打って付けの本である。

超面白いが、読みかけると10ページぐらいで確実に眠くなるので、就寝前の読書に最適。ゲーデルの不完全性定理に詳しくない方は、先に「番外編」で紹介する野矢茂樹先生の「無限論の教室」を読んだ方が無難かもしれない。

4 赤を見る 感覚の進化と意識の存在意義(ニコラス・ハンフリー)

「読んだ順」と言った舌の根も乾かないうちに手順違いで割と新しい本です、と思ったら10年以上前の本だった…。しかも、絶版なのか、Amazonの中古市場で高値が付いているな…。

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(カバーに開いた「窓」からのぞく赤。装丁、素敵やん…)

ちょっと割り込みでこれを入れたのは、同じ著者の「内なる目 意識の進化論」を入れたかったのだが、本棚から発見できなかったからであります。ご容赦を。
手元に本がないので記憶を頼りに書くが、同書では「一部の類人猿が獲得した『群れの他者を観察して感情・行動を類推する能力』が『内なる目』として自分自身に向かうようになったのが自意識の原型で、その進化の先に人間の知性が生まれた」という考察が展開される。
養老孟司先生が(たしか)週刊文春の書評連載で「これで『当たり』ってことで良いんじゃないか」と推薦していて、手に取った。

この「赤を見る」は、「内なる目」からさらに踏み込み、意識の存在意義についての仮説を示す。タイトルが示唆するように、いわゆるクオリア問題を起点として、「内なる目」や「GEB」のようにフィードバックループの重要性に着眼し、最後はアクロバチックな結論にたどり着く。

理系と言っても哲学に近いので、文系でもすんなり入れる良書だ。
控えめに言っても、睡眠時間を削られるほど面白い。

5 囚人のジレンマ フォン・ノイマンとゲームの理論(ウィリアム・パウンドストーン)

ここからは社会人になってから読んだ本。つまり「クソ忙しくて『積読』も山ほどあるのに再読した」という珠玉のラインナップである。

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(「表紙を取って読む派」なので紛失の惨事が絶えない)

私見では、フォン・ノイマンとラマヌジャンは地球人ではない。地球人のふりをした宇宙人の伝記が面白くないわけがない。
(業務連絡:ラマヌジャンのこの伝記が見当たりません。誰かに貸したような気がする。お心当たりのある方、返却願います)

フォン・ノイマンの変態的天才ぶり&クズっぷり全開エピソードが満載で、なおかつゲーム理論の歴史と基礎が身につく、大変お得な1冊。これまで3回ほど通読し、たまに開いて拾い読みしている。

6 放浪の天才数学者エルデシュ

本というモノは、壊れる。
写真ではいまいち伝わらないかもしれないが、手元のこの本はそろそろ限界で、巻頭の写真コーナーが抜け落ちかけている。

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(日本語版です。表紙を取って読む派…以下略)

つまり「壊れる寸前まで読み返している」わけで、再読回数では「10歳からの」といい勝負の、屈指の愛読書だ。同レベルで読み返しているのはアゴタ・クリストフの「悪童日記」三部作と三浦綾子の「氷点」ぐらいだろう。
ちなみに「悪童日記」は、単行本と合わせてなぜか我が家に3冊ある…。しかもロンドン時代に我慢できず、Kindle版も買ってしまった…。

自宅を持たず、スーツケースにわずかな全財産を詰め込んで世界各国の「同業者」の家を渡り歩き、講義と共同研究に明け暮れた天才数学者の伝記だ。型破りなエピソードに満ちたヒューマンストーリーだけでなく、数学的業績の解説も抜群に面白い。
エルデシュの取り組んだ整数論やグラフ理論は文系もとっつきやすい分野なのでハードルは低いからご安心を。

「数学者の伝記に外れ無し」というのは私が勝手に作った法則だが、これもその正しさを示す1冊。
前述したラマヌジャンの伝記も読む価値あり。こちらは何と映画化されたので、ロンドン時代に映画館に見に行ったら、客の過半はインド人であった。
映画は、悪くはないのだが、同レベルの変人だったイギリス人数学者ハーディがまともな紳士すぎて、「変人数学者同士の奇妙な関係」という味わいが薄れた感は否めない。本の方をお勧めします。(今、ググったら、海外ではThe Man Who Knew Infinityと原作の伝記と同タイトルだったのに、邦題は「奇跡がくれた数式」なのか…。ビミョー)

7 素数の音楽(マーカス・デュ・ソートイ)

これも単行本と文庫本で2冊持っていて、それぞれ2回ほど読んでいる。

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(タイトルは直訳に限りますな。単行本も日本語版です)

パラパラと目次を見返して、このnoteの執筆が終わったら、まずこれから再読しそうな予感がしている。

リーマン予想という難題(悲しき文系には理解できないという意味の難題)のイメージが微かにでもつかめるだけで、我らが文系にとって読む価値はある。これは掛け値なしの偉業だ。
そのうえ、ヒルベルト、ハーディ、ラマヌジャン、エルデシュ、ゲーデル、チューリングとオールスターメンバーが続々と登場し、暗号解読やコンピューターの歴史、カオス理論から量子論まで展開される。
若干、ハードルは高い。でも、個人的には、売れに売れたサイモン・シンの「暗号解読」より深みがあって数倍面白かった。

8 ミトコンドリアが進化を決めた(ニック・レーン)

冒頭に書いた、
「人間は、どこから来て、どこに居て、どこに行くのだろう」
という少年時代からの疑問へのピースとして、進化論は欠かせない。

中学生のころから、基礎的な入門書に始まってリチャード・ドーキンスやスティーブン・ジェイ・グールドなどを渡り歩き、原点であるダーウィンの「種の起源」も拾い読みした。最近はエピジェネティクス関連の本で何冊かヒットがあった。
ただ、いずれも「これ読んどけ!」とまで言えるオススメ度ではない。

難度はやや高いが、「ミトコンドリア一点突破」で進化の謎を解きほぐす本書は、新鮮な視点とファクト、そして何より文系が通読するために不可欠な読み物としての面白さに満ちている。

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(推薦文は「パラサイト・イブ」の瀬名秀明先生)

訳題はみすず書房らしい堅実なものだが、書影にうっすらみえる原題の方が「この本は鉄板で面白い」と伝えている
だって、アナタ、

POWER,SEX,SUICIDE Mitochondria and the meaning of Life

ですよ?
「大きく出たな、おい」と思う方もおられようが、読んでビックリ、タイトルに偽り無しの内容なのだ。

真核生物が「パワープラント」であるミトコンドリアと共生したことで複雑化・大型化の道を歩みだしたこと。
母親からのみ伝わるミトコンドリアの遺伝メカニズムが「なぜ男と女という2つの性があるのか」という謎に迫るヒントであること。
ミトコンドリアが「細胞の自死」であるアポトーシスや生命の寿命を左右するファクターになっていること。
こうしたタイトルに沿った数々の謎が、ミトコンドリアという細胞内小器官をカギとして解きほぐされ、それがそのまま帯の文句のように「生命40億年の一大オペラ」になっている。

文系には歯ごたえのある本ではある。だが、少なくとも、物理や数学と違って、数式は出てこない。
今、Amazonレビューを見てみたら、20件中17件が5つ星、残りは4つ星。
平均4.8というのは、話題のベストセラー「おカネの教室」の4.2をはるかにしのぐ高評価だ。
在庫は本稿執筆時点で残り5点。ポチるならお早めに。

9 単純な脳、複雑な私(池谷裕二)

ここまで書いてきて、都筑先生以外、「洋モノ」ばかりなのに気づいた。本棚を見ても、理系本は翻訳ものが多い。
これは「書き手の厚み」の問題ではなかろうかと思うのだが、日本人にもレギュラー(=新刊が出たら買う人)はいる。脳科学者の池谷先生だ。
ちなみ「生物と無生物のあいだ」の福岡伸一先生も準レギュラー(=新刊が出たら要チェックの人)である。なんか偉そうだな…。

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(「流し読み再読」用付箋、こんな貼ったら結局、通読ですわ)

池谷さんの本は、ハズレがない上に、ネタの重複が少ない。ここが準レギュラーと違うところだ(ああ、また偉そうだ…)。
だから、どれもこれもオススメなのだが、高校生を対象とした講義をまとめた本書が入門にぴったりだろう。
ジャンルは違うが、加藤陽子先生の著書でも、同形式の「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」が一番とっつきやすい。
講義方式がすんなり頭に入ることは話題のベストセラー「おカネの教室」でも…(以下、略)。

10 チューリングの大聖堂(ジョージ・ダイソン)

すいません。白状すると、これはまだ再読していません。
でも、「今後、再読必至」なので入れました。

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記述がものすごく細かく、構成もやや散漫で、「すべての文系向け」とは言い難い本かもしれない。
しかし、コンピューターとソフトウェアの歴史や原水爆開発史、人工知能などのテーマに興味がある人なら、よだれが出るような本でもある。
なんといっても、著者はフリーマン・ダイソンの息子で、お隣さんが晩年のオッペンハイマーだったという御仁なのだ。人物描写にノスタルジーと愛情があり、「こんな書き手がこんな本書いたら読むしかないやんけ」という本だ。

写真が豊富なのも嬉しい。
ちなみに科学モノと歴史モノの翻訳は「写真」「原注」「索引」が充実していて活字の密度が濃かったら「買って損はない」というのが私の経験則だ。
そうした細部に作り手(版元)の「これは読者に届けたい良書だ」という熱意が読み取れるからだ。
本書は索引がついてないのがちょっと残念。引用や「拾い読み再読」の利便性は落ちる(まあ、電子書籍にしとけやって話かもしれませんが)。文庫化されたので、まず上巻だけお試しで、というのが得策か。

なお、読了した方には、上野の科学博物館への巡礼をお勧めする。真空管コンピューターの実物展示にテンションが上がりまくること請け合いである。

番外編

「8000字を超えているのにまだ書くか」と自分でも思うが、2冊だけ番外編を。
1冊目は野矢先生の「無限論の教室」。

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(自分用だけで2冊、プレゼント用に数冊買ったなー)

「理系」なのかビミョーなので番外にした。ベストセラー「おカネの教室」が「講師+男女2人の生徒の講義形式」という構成を拝借した本でもある。

もう1冊はロンドン時代に読んだ原書。

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(タイトルと装丁にやられてロンドンの書店でジャケ買い)

「GEB」以来の認知科学本マニアの私の目からみても、本書はこれまでで最もぶっ飛んだAI本だ。
世間ではシンギュラリティの到来の可能性、「AI自身がAIを改良できるようになって人間をしのぐ知性を備える時代は来るのか」という議論がかまびすしい。本書はそんな論争がかすんで見えるほど遥か彼方を見据えている。

タイトルの"LIFE 3.0”は「ハードウエアとソフトウェアを自らデザインする生命」と定義されており、これはずばり「シンギュラリティ後のAI」だ。
MIT教授であらせられるテグマーク先生によると、LIFE 1.0は「ハードとソフトが生物学的進化に委ねられる生命」。LIFE 2.0は「ソフト=文化は自らデザインできるが、ハードは生物学的進化に拘束される生命」、つまり人間だ。

本書では、シンギュラリティの到来は当然の前提となっていて、むしろその後の問題、具体的には惑星・恒星規模の巨大なAIをぶん回すための資源・エネルギーの確保のソリューションの検討や、そうした巨大AIの接続・統合を阻む物理的制約の分析にかなりのページが割かれている。
解決策は、太陽系外の恒星系の開発や人類の宇宙移民といった向こう10億年を見据えたビジョンとして提示される。

遠大というか、気が早いにも程がある。

これだけでも十分面白いが、この本の魅力は、そんな夢想的とも思える気宇壮大なビジョンと目先の割とチマチマしたAI脅威論への配慮が同居している点にある。

雇用への影響やAI兵器の危険性を論じる著者は、世界中のAI研究者に呼びかけて人間とAIの共存をテーマとした国際会議まで創設している。2017年の会合時の集合写真には、デミス・ハサビスやイーロン・マスク、ラリー・ペイジといった大物と並んで、我らが松尾豊先生の姿もある。
ちなみにスポンサーを買って出たのはSkypeの共同創業者にして著名プログラマー・投資家・起業家のJaan Tallinnだ。
いやー、何もかも、スケールが違いますな。

なお、私見では、テグマーク先生の本音は、

「この宇宙の究極的役割は知性を極限まで進化させることにあり、その使命はAIが果たすから、『バージョン落ち』になる運命の人類は、確実にバトンを渡すことに専念せよ」

ということかと推察される。人間との共存などへの配慮は、シンギュラリティの手前でAI開発に横やりが入るのをブロックするポーズとしか思えない。

大ヒット中の「ホモデウス」を遥かにしのぐトンガリ具合で、個人的にはここ数年の理系本で最大のヒット作だ。手元の裏表紙にはホーキング博士とイーロン・マスクの強力な推薦コメントがあり、Wikipediaによるとオバマ前大統領も"best of 2018"のリストに入れたそうだ。オバマさん、マニアックやな。

どこか、邦訳を出す予定はあったりするのだろうか。
まあ、トンデモすぎて、売れないと思うが。

(追記:不明を恥じます。邦訳出て、売れてます。以下参照)

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約1万字の長編にお付き合いいただき、ありがとうございました!
まだまだお勧めしたい理系本は多いのですが、また別の機会に。

note、あれこれ書いてます。まずはこちらのガイドブック投稿からご覧いただければ。

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