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東大現役合格した娘の「最強の武器」

天才・東海林さだおは「ドーダ学」を創始した記念碑的名著「もっとコロッケな日本語を」で、「30分以内に自分が東大卒であることを会話に紛れ込ませる人」というドーダ事例を挙げている。
ちなみにドーダ学とは、自慢(=「ドーダ!」と言ってしまうこと)が人類史を支配しているとの天啓を受け、天才・東海林さだおが世界を切り取る枠組みとして提唱したものである。
感銘を受けた鹿島茂が「ドーダの近代史」を皮切りに西郷隆盛、小林秀雄、森鴎外などの「ドーダ」シリーズ評伝を発表。今や「ドーダ学西荻学派」は隆盛を極めている(かもしれない)。

東大合格!17年ぶり最高値更新!

前置きはこれぐらいで。
冒頭の事例に倣い、私も30行以内に「ドーダ!」しておこう。

本日、長女が東大の理科一類に合格した。
ドーダ!

(プライバシーと投稿のクオリティーに配慮したモザイク)

まあ、正直、「ドーダ!」というより、電車なんかで見かけるコピーみたいな「なんで娘が東大に!?」という気分ではある。
下の雑文で触れたように、長女は2歳のとき、最高値を付けている。
このたびの壮挙は「17年ぶりの最高値更新」と認定せざるを得ない。

異例の東大受験生

東大受験事情に詳しいわけではないので脳内イメージとの比較でしかないが、長女はちょっと変わったケースだと思う。功績を称える意味でも記録を残しておきたい。親馬鹿全開はご容赦を。

私の目から見て、長女は以下の点で異例だ。
①中学、高校と塾に一切通っていない
②東大志望を決めたのが高3の11月
③2年のロンドン生活の後に現役一発合格
口癖が「おしり!」

「予備校不要」の看板に偽り無し

まず①の「中学、高校と塾に一切通っていない」から。
これはひとえに、学校の素晴らしい指導の賜物だ。
昨日9日のこの投稿に書いた通り、長女は「予備校不要」の手厚い指導で知られる都立の中高一貫校に通っていた。
このキャッチフレーズを実感したのは、昨夏の長女の「夏休み」だ。
一学期が終わるころ、私が「学校で夏季講習みたいの、あるの?」と聞くと、返ってきた答えは、

「うん。毎日」

「それ、『夏休み』ちゃうやんけ!」と大笑いした。
サラリーマンとしては、先生方のブラックな働きぶりが目に浮かび、「ちょっとどうなのよ、それ」とも思ったが、受験生の親としては有難い。
おかげさまで長女は、中学受験に備えた小6の1年間を除いて、塾や家庭教師のお世話にならず、小中高大と公立で通す大変財布に優しいコースをたどってくれた。ロンドン時代はちょっとだけお金がかかったけど、それは後ほど。

なお、お父さん(私)は、生涯一度も学習塾の類には行かずに公立一筋&自宅通いだったので、コスパだけは勝っている。貧乏だっただけだけど。その辺はこちらの「日本のヒルビリーだった私」をご参照ください。

ポンポン進んだ「偏差値すごろく」

②の「東大志望を決めたのが高3の11月だった」というのは、単純に時を追うごとに偏差値が上がって志望校のレベルが上がった結果だ。

工学系志望の長女は当初、父の母校・名古屋大学や東工大、筑波大学あたりを本命に過去問(いわゆる「赤本」)を攻略していた。
学校に毎日通う「夏休み」の後、秋には週末ごとの模試ラッシュが始まった。一時期などは「平日は学校・週末は模試」で3週間ほど休みなしという状態で、家庭内で「ブラック受験生」というフレーズが流行した。
この山ほど受けた模試の判定結果が段々と上がって行って、最終的に「もう、東大でいいんじゃね?」となったのだった。

(Amazonの購入履歴。「赤本」を発注したのは11月末だった)

単純化すれば「偏差値すごろく」みたいな話だが、現実の受験対策はそう単純ではない。他の志望校と東大には、大きな違いがある。
2次の科目に「国語」があるのだ。

ロンドンで2年を過ごした長女の強みは英語だ。
帰国直前に受けたIELTS(International English Language Testing System、 アイエルツ)のスコアは7.5。「アイエルツ・ナビ」というサイトによると、TOEICなら970~990とほぼ満点という水準なので、大学受験レベルならどんなテストでも「カモン、ベイベー」である。

(「残すは英語」となり、油断する長女。ツッコミは私)

でも、東大では二次に国語が入ってくるので、
「理数系科目で人並みプラスアルファ&英語でガッポリ」
という長女の戦略の有効性が落ちてしまう。

英語の強みの裏返しで、2年も「国語の授業」から離れていたので、国語という科目では若干のハンディもある。
東大受験を決めてから、長女はリビングでよく古文や漢文の音読をしていた。ちなみに我が家は誰も個室を持たない民主的なウサギ小屋なので、リビングか近所のコンビニのイートインのブースが長女の勉強スペースだった。
セブンイレブンさん、お世話になりました。

「理系はみんな国語は苦手だからそんなに差は付かないんだよ」と本人は言うが、センター試験も含めて、東大合格レベルまで持って行ったのは、我が子ながら、エラいもんである。

無謀だったロンドン行き

そして、私が一番「アンタは、エラい!」(小松政夫風にお読みください)と思うのは、三番目の「2年のロンドン生活の後に現役一発合格」である。

これには私の贖罪の意識も絡んでいる。
ちょっと意味不明でしょうから、詳しくご説明します。

「はい、お父さん、単身赴任」。
2015年末、翌春からのロンドン赴任を前に訪れた海外子女教育振興財団で、コンサルタントのおじさんに開口一番、こう告げられ、家族を帯同する気満々だった私は面食らった。

担当者氏が単身赴任を「即断」したのは、渡航時点で16歳という長女の年齢が理由だった。「イギリスに行っても受け入れてくれる学校がない」というのである。
複雑なので詳細はこちらのサイトに譲るが、長女は義務教育終了時に受けるテスト(GCSE、General Certificate of Secondary Education)と大学入試に当たる「Aレベル」のど真ん中に英語もろくにできない状態で飛び込むという、最悪のタイミングに当たってしまっていた。
「公立の現地校はアウト。インターナショナルスクールぐらいしか選択はないでしょう」と言われて調べてみれば、インターの学費は年400万~500万円と目が飛び出るようなお値段。
それでも、「子供に海外生活を経験させたい」というのが海外勤務希望の大きな理由だったので、「ま、行ってみりゃ、何とかなんだろ!」とアテもないまま娘を連れてロンドンに行ってしまった。

ところが、実際行ってみたら、何ともならなかった。
「ここがいいな」と思っていた地元公立校に勧められたのは職業訓練コース。「英語力が十分ではない」という理由だった。
カウンシル(区役所みたいなものです)から斡旋されたのはコミュニティ・カレッジの英語お勉強コース。それは仕方ないとしても、場所は知る人ぞ知る「ロンドンの中のインド」サウソールで、海外生活デビューの娘が一人で通うにはハードルが高すぎた。しかも、秋から普通の学校に行ける保証もなかった。

このころ、家族の前では平気な顔をしていたが、私は内心、「自分は娘の人生のコースを大きく狂わせてしまったのではないだろうか」と悩み、焦った。「大出費は仕方ないからインターに通わせようか」とも考えた。

この間、イギリスで新学期が始まる9月まで時間があったので、長女はひとまず近所の英会話の学校に通っていた。
ここも非英語圏から来たオトナが中心で長女は最年少の学生。私なら尻込みしそうなシチュエーションなのだが、我が子ながら長女の凄いのは、そんな環境でも「オトナしかいないんだけど!」と面白がって、本当に楽しそうに通っていたことだ。順応力、高すぎだろ…。

その後、紆余曲折があり、何とか滑り込んだのが EALING INDEPENDENT COLLEGE(EIC) という、隣駅にある私立のカレッジだった。

(こんな感じのこじんまりとした学校)

ここは学生の約8割が非英国人で、通常2年かけるGCSEを1年で詰め込む「インテンシブ」というなかなか無茶なコースを用意していた。長女と同じように間の悪いタイミングでイギリスに来てしまった外国人にキャッチアップの選択を与えるメニューだ。選択科目数によるが、学費は日本の私立大学程度でインターほど高くはない。
このプログラムは、すでに英語が話せる人間にとってもそこそこ大変な「短期集中お勉強コース」だが、長女のように同時進行で英語もやるとなると無茶っぷりは倍増する。

2016年9月からの入学を申し込むと、私と長女は校長のDr Ian Moores(以下、イアン)など数名を相手に面接を受けることになった。
私はイアンに「この子は東京のトップクラスの学校で上位の成績を取ってきた。勉強熱心だし、英語さえ慣れれば、すぐに学業は追いつく」と訴えた。「ここがラストチャンス」と思っていたので、必死だった。
プレゼンの効果がどこまであったかは分からないが、長女はGCSEの理数系4科目と、英語訓練コースの受講が認められた(数学はレベルが低すぎたので途中で受講をやめた)。

ようやく娘の落ち着きどころが決まり、私は「ま、あとは自分で何とかしろや!」と無責任な安心感に包まれた

「我々は皆、彼女を過小評価していた」

EICに通いだしてからの長女の頑張りは、親の欲目もあろうが、「コイツ、すげぇ…」とうなるようなものだった。
英語を第二言語として身に着けつつ、物理、化学、生物を英語で学ぶというのは、「一輪車の乗り方をマスターしながら『一輪車に乗って皿回し』にチャレンジする」ようなものである。
この無茶な芸当を、長女はやりぬいた。

下の写真はカレッジの教師から「他の生徒にシェアしてあげてほしい」とまで言われた、長女自作の復習カードだ。

こんなクオリティーのカードを、こんな分厚さで量産していた。

しかも、これと同時進行で、日本から持参した数学の参考書にも取り組んでいた。不在の間の遅れを少しでも軽減するためだ。
しかも、しかも、である。
こんな猛勉強を、長女は実に楽しそうにこなしていた
私も奥さんも、「コイツ、誰の遺伝子を受け継いだんだろう」と首をかしげるしかなかった。

そして通いだして半年ほど経ったころ。私はカレッジの校長のイアンから「あなたの娘の学業について相談したいことがある」というメールを受け取った。出勤前に時間を作り、長女と一緒にカレッジに行くと、イアンが私にこう告げた。
「私も、あなたも、我々は皆、彼女を過小評価していたようだ」
そして、受講中のGCSEコースにプラスして、化学と物理を対象に大学受験に当たるAレベルの講義も受講してはどうかと提案を受けた。「彼女の可能性を広げてあげたい。授業料はいらない」という、光栄極まりない申し出だった。
勉強の負担がさらに増えるのはちょっと心配だったが、本人もやる気だったので、有難くオファーを受け入れた。

EICで1年を過ごし、最後に受けたGCSEの試験で、長女は数学、物理、化学、生物のすべてで最高点の「Aスター」を取った。
その後、2017年の秋から半年も英語学校に通い、結局、長女は2年間、周囲に日本人がほぼゼロという環境で過ごした。英語力は、この投稿で書いたような獣道を歩んだ父を余裕で追い越していった。

もう1度、繰り返そう。
「アンタは、エラい!」

9日の卒業式の後、長女は複数の先生方から「留学して『空白』を作らないで乗り切ったのは本当に凄い」というお褒めの言葉を頂戴したそうだ。
正直、私は、ロンドンに連れて行く時点で「この子は帰国後に一浪して20歳で大学一年生になるのだろうな」と思っていた。
それがまさかの(1年遅れだけど)現役合格。しかも東大。
くどいけど、もう一度。
「アンタは、エラい!」

最大の武器 セロトニン分泌能力

さあ、ようやく本題に入れる。
そう、④の「口癖が『おしり!』」である。
これこそ、東大合格の最大のカギだったと私は思うのだ。マジメに。

この半年ほど、長女に話しかけると、返ってくる答えの平均4割ほど、日によってはほぼ10割が「おしり!」なのである。今日もそうだ。
「お、今日は普通の会話だな」と思っていても、セリフの末尾に「……おしり!」とくっつけてくる場合があるので油断できない…。

くだらない話に聞こえるかもしれない。
でも、これがおそらく長女の最大の武器だ。

さきほどもリンクを張った高校の卒業式のnoteの中で引用した「卒業生から保護者へのメッセージ」のなかには、受験でナーバスになっていた時期に支えてもらったことへの感謝がたくさん入っている。
我が家の受験生様はナーバスになることはほとんどなかった。ほんのちょっとはあったけど、まあ、誤差みたいなものだった。
だって、口癖が「おしり!」なのだ。
これは、物事を深刻に考えすぎている人間の口から出てくる単語ではない。
下の絵日記をかねた過去問攻略表のイラストを見ても、「アンタ、受験生やってて、どんだけ楽しいのよ」と感心するしかない。
というか、理科大、早慶、東大…全部で何年分やってんだよ…。

(過去問撃墜シート。国語の略称の"JAP"はどうかと思うぞ…)

(「おしり!」の動かぬ証拠。家族や友人が出てくる愉快な記録)

ちょっと真面目に分析してみると、どうも、長女はセロトニン、別名「幸せホルモン」の分泌量が人並み外れて高いようなのだ。
そうでもなければ、10時間以上も勉強しつづけた日の夜に突然、「あ! 今、なんか急に幸せになってきた!」と異常に上機嫌になることの説明がつかない。
受験生になる前も、受験期間中も、何なら生まれてこの方ずっと、この人は「セロトニン、どっぱどぱ」状態で生きてきた。

だから、長女は、
「『おしり!』ばっかり言っているアホなのに東大に受かってしまった」
のではなく、
「『おしり!』ばっかり言ってたからこそ、東大に受かった」
のだと私は確信している。

セロトニン、どぱどぱの垂れ流し。
これが長女を東大合格に導いた最強の武器である。
集中しつつ、楽しんで物事に当たる以上に、良い結果を出す方法はない。

加えて、この人(いや、娘なんですけどね)は、本当に勉強好きなのだ。
センター試験終了直後、長女が言った忘れられない言葉がある。
社会で選択した地理は志望校の2次試験にはなく、「センターでオサラバ」だったわけだが、長女はなんと「もう地理の勉強ができないのが寂しい」と宣ったのだった。その後、未練がましく参考書をパラパラめくっている姿も目撃されている……。
いったい、誰の遺伝子を(以下略)

東大株暴落に歯止めを

さて、長女は「おしり!」「おしり!」と連呼しているうちに、どうやら4月から東大生ということになった。

実は私自身、今から30年近く前の大学受験時、東大文科一類(文I)の後期日程に出願している。
これは無茶な話で、センター試験の自己採点結果をクラスで見せ合っていたら、ある友人に「お前、これ、東大の後期の足切りライン超えてるぞ」と言われ、名古屋大学一発勝負のつもりだった私がネタで出願してみたという話だ。
つまり「東大受験を決めたのは1月時点」なので、無茶っぷりでは長女に勝ったと言えなくもないが、某河合塾の足切りラインの読みか私の自己採点が甘く、見事に足切りされて試験すら受けられなかったから、勝負は「引き分け」としておこう。

無論、「遅ればせ志望レース」で引き分けようと、合格されちゃったのだから、もう偏差値的には長女様の勝利は動かない。
ちなみに私立も理科大、早慶と、受けたところは全部、合格している。

はい、参りました。

という訳で、合格までの経緯を含めて、私は今、長女のことを本当に尊敬している。
「アンタは(以下略)」

一方、そうはいっても「我が娘が入ってしまう」という事実は、私の中の東大の評価に影響を与えざるを得ない。具体的には、最高値を付けた長女にサヤ寄せする形で、東大株は暴落中である。

就職で名古屋から上京して以降、別世界の住人だった「東大出」の人々と接触する機会が増え、その過程で東大株はじり安をたどってきた。宇宙人レベルの天才もいるけれど、「東大出ててもバカはバカなんだなぁ」という事例にも多く遭遇してきたからだ。
「年寄りのバカほどバカなものはない」という俚諺をもじれば、東大出のバカほどバカなものはない。どうでもいいが、私の人生の目標の1つは「学はないけど、バカじゃない」である。

長女様には是非、今後も最高値更新を続けて、東大株を下支えしていただきたい。

ま、何はともあれ、

合格、おめでとう!

(安田講堂前。ハイタッチで東大生の群れに同化していく長女様…)

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